五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉

クリム

文字の大きさ
49 / 59

50 黒い実

しおりを挟む
 結局、抱かれたまま宮に入った明が、直樹から手渡された黒い棗の実ほどの大きさのそれを、傾き始めた夕日にさらしてみる。

「よう、ジジ。万能の妙薬だと……これがか?」

 宮に来ていたのは『欠けたる者』十数人で、彼らは森の中でもあまり食べ物がない場所で肩身を寄せ合い、野盗に怯えながら生きていたらしい。

 唯一彼らが手にした『黒い実』を大切そうに、ハトリとフルトリに差し出し、食料や衣類をもらっていくのを見て、直樹は少し嬉しくなる。

 シンラの言っていた直樹とシンラが和合して芽吹いたという黒い和木が、誰かの役に立つのならと思うのだ。

「ええ」  

「そうなのか?じゃあ……レキ、ちょい下」

 ジジの言葉を聞いた明が腰の剣を抜くと、レキの唇を下から舐め上げて、公衆の中深く割り開いた。

「明?」

「んん、前払いだ」

 そして明を抱いているレキの古い傷のある腕に、ざっくりと沿うように新しく斬り付けたのだ。

「う……ぐっ……」

 鮮血がぼとぼとと流れ落ち、それでもレキは明を離さないでいる。

「レキさん!明さん、どうして……」

 直樹の悲鳴混じりの声に、明がぷは……と絡ませていた舌を舐めずるように拭い

「んで……実を。中のを塗ってみるか」

と、手の中の実を転がした。

 小刀で割り開いた黒の実の中の白いクリーム状のものをレキの腕の傷に塗ると、傷はみるみるふさがり古傷跡さえも消えてしまう。

「……すげえ。これは白珠みたいだ……ガランの付けた昔の傷も無くなった」

 明がレキの傷のあったところに指を何度も這わしニヤリと笑い、レキは声も出ないでそこを見ていた。 

「ええ、白珠以上です。五国全ての者に使えます。喜ばしいことに、神王の白珠は要らないのです」

 ジジが深々とシンラに頭を下げる。

「進言します、王よ。黒の実を森の特産として、各国に取引を」

 シンラが頷いた。

「それから、黒の実をこちらに持ってきた方を紹介します」

 ジジが横に避けると、

「ありがとうございます。そう言っていただけると、皆を先導した甲斐があり、嬉しく思います」

とジジの後ろで平伏していた痩せた男が顔を上げて、滂沱の涙を流しながら直樹に顔を向けた。

「お懐かしゅうございます、直樹様。お忘れかとは思いますが、私はあなた様から唯一白珠を賜りましたカナメと申します」

 直樹を『直樹』と知っているのは呼ぶのは明だけだと思っていたのに、痩せた男はそう言いながら涙を流す。

「初めて黒の宮に入った時の文官か!」

 明が痩せた壮年の男に指を指した。

「はい、あの時の文官です。あれから二十年です。すっかり歳を取りました。直樹様が文官長により宮から出された取りました聞き、私は黒国の牢から逃げ出し、そして自らのモノを切り落とし直樹様を探し回りました。この度は直樹様にお願いを致したく……」

 直樹はぎゅっとシンラの皮のマントを掴んだ。

「どうか……黒国にお戻りください」
 




 直樹の心象から湧き出た想いが森の黒の実を作り出したと、ジジが言っていた。

 宮での食の席でジジが話した言葉を、赤王明が伝書鳥に覚えさせ各国に触れを出したので、いずれ森の特産『黒の実』を求め宮は忙しくなる。

 そこでいくつかの洞を王の管理下に置いて『欠けたる者』の住まいにし、宮に黒の実を定期的に代表者たる者が持ってくる形をとってみてはと、フルトリが話していた。

 それよりも黒国元文官のカナメと言う男が、直樹を必死で見つめる瞳が怖かった。

 カナメはマ直樹がシンラの後ろで、

「嫌です」

と小さく告げるとそのまま項垂れ黙ってしまった。

 カナメはジジの客分として知恵の館に滞在していて、しばらくいるとのことだった。

 風呂上がりにティーが入れてくれた温めた蜂蜜入りの葡萄酒を飲んでいると、涙が頬を伝い溢れて杯に落ちる。

「直樹」

 寝台に小さくなって座っていると、ジジに報告をしていたシンラが戻ってきて、ティーが頭を下げて部屋を出ていった。

「シンラ、僕は……」  

 シンラが直樹の横に座ると、直樹はシンラにもたれかかり膝を抱える。

「僕は黒宮には行きたくない。どうしても行かなきゃだめかな……」

 ぽろぽろと涙が溢れて止まらない。

「直樹」

「行きたくないよ。あそこは寒くて、人が冷たい」

 まるで高校の教室の中のようだった。誰も直樹の姿を見ていない。まるで空気のような存在で、上辺だけ。先生すら空気のように直樹を扱う教室を思い出す。

「直樹」

「嫌なんだ……」

「直樹」

「嫌だよ、嫌!」

 ただを捏ねるように首を横に振り続ける直樹の両肩を、シンラが掴んで強く揺らす。

「直樹!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...