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51 シンラの真意
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「それでも黒国に行った方がいい」
シンラの言葉には直樹は首を横に振る。ティーが丁寧に櫛梳ってくれた長い髪が、敷布に散りさらさらと音を立てた。
「い……嫌だ。どうして行かなきゃならないの!ここに置いてよ。僕のこといらないの?邪魔になったの?嫌だ、嫌、嫌だよ!お願いだ、シンラ、お願いだよ。シンラの迷惑にならないようにするから!」
「直樹」
シンラが何か言葉を吐くのを聞いたら息が出来なくなりそうで、矢継ぎ早に願い出る。
「シンラは僕を嫌いになったの?飽きちゃったの?もういらないの?迷惑をかけないようにちゃんとするから!お願いだから……追い出さないで下さい」
直樹は必死で懇願した。
「直樹、聞いてくれ」
シンラの耳が下がり、直樹ははっと思い起こした。シンラに王気が宿っているとなると、それによって和合の紋様が無くなってしまったのではないだろうか。
和合が成り立たなくなったら、再び和合者が現れるまで、神王は民と狂ったように交合を繰り返すのだ。シンラ以外とは、交合をしたくない。
直樹は泣きながら慌てて、寝間着の胸元と腰の結び目を外して脱ぐと、自分の小さな縦臍を見下ろした。
「ある……消えてない……」
ほっと胸を撫で下ろすが、シンラの顔を見られないでいた。
「和合の紋様はあるのに、どうして。僕はは一人になりたくない!もう、一人は嫌なんだ。シンラと……」
これ以上は涙と嗚咽で言葉にならず、直樹は立ち膝でシンラの寝間着にしがみつく。もう一人にはなりたくない。シンラに愛されていたかった、永遠に。
「俺と、黒国へ行くのだ、直樹」
シンラの尻尾がぱさっぱさっと揺れていて、直樹は泣き濡れた顔でシンラの顔を見上げた。
「…… え」
シンラは困ったように破顔しており、直樹は腰が抜けたように寝台に座り込む。
「宮に一人で行かせるとは言っていないだろう、直樹」
シンラの手が直樹の両頬を包み、涙を唇で吸って拭った。
「俺は森の王だが、お前は黒の王だ。それは今回の旅でよく分かった」
「それは……っ」
直樹の唇を指で塞いで、シンラが続ける。
「黒国の今を知り、直樹が考えればいい。それからでいいだろう?」
「でも……」
直樹は首を横に振った。黒国に思いなんて何もないのだ。そこに森の王シンラを連れていくなど考えもしなかったのだ。
「黒王の従者であれば、ティーは黒国に行けるだろう?ティーを両親に会わせてやりたいと思うのは、俺だけか?」
直樹は驚いて顔を真っ赤にした。
「そ、そんなこと……考えたこともなかった」
ティーは直樹にとても尽くしてくれる優しい人だ。直樹がクロと呼ばれていた時に世話になったからと繰り返す。
前髪で隠す左目さえなければ黒国の生まれた村で、静かに生きていけたのに、野盗にえぐられた目は黒の実でも治らない。取れた指も指があればくっついて傷は癒えるが、欠けたものは物が無ければ戻らない。ティーの目はすでに無く、ティーは欠けたままで村から離れて生きていく。
この世界は少し理不尽だと思うのに、直樹は直樹についていけばティーはどこにだって行ける、それを思い起こせなかった。
直樹はうつむいて、
「僕は自分のことしか考えていなかった」
と呟いた。
森の王であるシンラは直樹やティーのことを考えているのに、黒国の王と回りから言われている直樹は、ただ嫌だとしか言えていない。考えてもいない。
「そうだな。しかも、和合者である俺も信頼していない」
しかし、シンラの言葉には反論をした。
「そんなことない!僕はシンラを信じてるよ!」
少し声がひっくり返ってしまう。
「では、なぜ、俺の言葉を聞かなかった?聞こうともしなかった。信頼していない証拠だ」
直樹はシンラの顔を仰ぎ見て、何か言わなければと思ったが、何も言えずに押し黙った。シンラが片眉を上げて、明かなため息を付いた。
「直樹の信頼を見たいのだが?」
「信頼……してるよ、僕は……」
直樹には何もない。だからこそ、気持ちを大切にしたいのだ。
「では、誠意のこもった口付けをしてくれないか」
「え……」
直樹はシンラの寝間着の肩に手を置くと、シンラの男らしい肉厚の唇をつけて、開いた唇から舌を合わせる。
そのまま舌先を口の中に収めて絡めようとしたのだが、シンラの舌は長い。ひゅっ……と喉の奥を突いて驚き吐きそうになってむせた。
「無理をするな」
「ひゃぅ……」
ひょいとシンラの体の上に持ち上げられ、シンラと唇を合わせながら胡座の膝に座らせられて、変な声が出てしまい、シンラにくすりと笑われた。
「仲直りをしよう、直樹。ちゃんと和合しないと、どこかにある直樹の和木の実が萎んでしまうぞ」
シンラは直樹の背中を敷布に丁寧につけると、寝巻きの紐を外していく。尻尾がぱさぱさと揺れていて、直樹はシンラが怒っていないことを知り安心する。
「もう怒っていない?」
「最初から怒っていない。直樹が余りにも頑なで驚いたがな。きっと直樹は頑固者だろう」
寝巻きの合わせが解かれ、下履の紐を緩められ、直樹の真っ白な子供のような丸みを帯びた肢体と、アンバランスな細い手足が露わになった。
臍を彩る鮮やかな紋様に唇をつける。
シンラの言葉には直樹は首を横に振る。ティーが丁寧に櫛梳ってくれた長い髪が、敷布に散りさらさらと音を立てた。
「い……嫌だ。どうして行かなきゃならないの!ここに置いてよ。僕のこといらないの?邪魔になったの?嫌だ、嫌、嫌だよ!お願いだ、シンラ、お願いだよ。シンラの迷惑にならないようにするから!」
「直樹」
シンラが何か言葉を吐くのを聞いたら息が出来なくなりそうで、矢継ぎ早に願い出る。
「シンラは僕を嫌いになったの?飽きちゃったの?もういらないの?迷惑をかけないようにちゃんとするから!お願いだから……追い出さないで下さい」
直樹は必死で懇願した。
「直樹、聞いてくれ」
シンラの耳が下がり、直樹ははっと思い起こした。シンラに王気が宿っているとなると、それによって和合の紋様が無くなってしまったのではないだろうか。
和合が成り立たなくなったら、再び和合者が現れるまで、神王は民と狂ったように交合を繰り返すのだ。シンラ以外とは、交合をしたくない。
直樹は泣きながら慌てて、寝間着の胸元と腰の結び目を外して脱ぐと、自分の小さな縦臍を見下ろした。
「ある……消えてない……」
ほっと胸を撫で下ろすが、シンラの顔を見られないでいた。
「和合の紋様はあるのに、どうして。僕はは一人になりたくない!もう、一人は嫌なんだ。シンラと……」
これ以上は涙と嗚咽で言葉にならず、直樹は立ち膝でシンラの寝間着にしがみつく。もう一人にはなりたくない。シンラに愛されていたかった、永遠に。
「俺と、黒国へ行くのだ、直樹」
シンラの尻尾がぱさっぱさっと揺れていて、直樹は泣き濡れた顔でシンラの顔を見上げた。
「…… え」
シンラは困ったように破顔しており、直樹は腰が抜けたように寝台に座り込む。
「宮に一人で行かせるとは言っていないだろう、直樹」
シンラの手が直樹の両頬を包み、涙を唇で吸って拭った。
「俺は森の王だが、お前は黒の王だ。それは今回の旅でよく分かった」
「それは……っ」
直樹の唇を指で塞いで、シンラが続ける。
「黒国の今を知り、直樹が考えればいい。それからでいいだろう?」
「でも……」
直樹は首を横に振った。黒国に思いなんて何もないのだ。そこに森の王シンラを連れていくなど考えもしなかったのだ。
「黒王の従者であれば、ティーは黒国に行けるだろう?ティーを両親に会わせてやりたいと思うのは、俺だけか?」
直樹は驚いて顔を真っ赤にした。
「そ、そんなこと……考えたこともなかった」
ティーは直樹にとても尽くしてくれる優しい人だ。直樹がクロと呼ばれていた時に世話になったからと繰り返す。
前髪で隠す左目さえなければ黒国の生まれた村で、静かに生きていけたのに、野盗にえぐられた目は黒の実でも治らない。取れた指も指があればくっついて傷は癒えるが、欠けたものは物が無ければ戻らない。ティーの目はすでに無く、ティーは欠けたままで村から離れて生きていく。
この世界は少し理不尽だと思うのに、直樹は直樹についていけばティーはどこにだって行ける、それを思い起こせなかった。
直樹はうつむいて、
「僕は自分のことしか考えていなかった」
と呟いた。
森の王であるシンラは直樹やティーのことを考えているのに、黒国の王と回りから言われている直樹は、ただ嫌だとしか言えていない。考えてもいない。
「そうだな。しかも、和合者である俺も信頼していない」
しかし、シンラの言葉には反論をした。
「そんなことない!僕はシンラを信じてるよ!」
少し声がひっくり返ってしまう。
「では、なぜ、俺の言葉を聞かなかった?聞こうともしなかった。信頼していない証拠だ」
直樹はシンラの顔を仰ぎ見て、何か言わなければと思ったが、何も言えずに押し黙った。シンラが片眉を上げて、明かなため息を付いた。
「直樹の信頼を見たいのだが?」
「信頼……してるよ、僕は……」
直樹には何もない。だからこそ、気持ちを大切にしたいのだ。
「では、誠意のこもった口付けをしてくれないか」
「え……」
直樹はシンラの寝間着の肩に手を置くと、シンラの男らしい肉厚の唇をつけて、開いた唇から舌を合わせる。
そのまま舌先を口の中に収めて絡めようとしたのだが、シンラの舌は長い。ひゅっ……と喉の奥を突いて驚き吐きそうになってむせた。
「無理をするな」
「ひゃぅ……」
ひょいとシンラの体の上に持ち上げられ、シンラと唇を合わせながら胡座の膝に座らせられて、変な声が出てしまい、シンラにくすりと笑われた。
「仲直りをしよう、直樹。ちゃんと和合しないと、どこかにある直樹の和木の実が萎んでしまうぞ」
シンラは直樹の背中を敷布に丁寧につけると、寝巻きの紐を外していく。尻尾がぱさぱさと揺れていて、直樹はシンラが怒っていないことを知り安心する。
「もう怒っていない?」
「最初から怒っていない。直樹が余りにも頑なで驚いたがな。きっと直樹は頑固者だろう」
寝巻きの合わせが解かれ、下履の紐を緩められ、直樹の真っ白な子供のような丸みを帯びた肢体と、アンバランスな細い手足が露わになった。
臍を彩る鮮やかな紋様に唇をつける。
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