追憶のステンドグラス

雪原るい

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一章 ステンドグラスは幻に…

7:結局は廃墟でした…

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…私はリグナイエ王国の王都ティムシアで豪商といわれているジネール家の四男、ルーク・ジネール。
生まれながらに身体が弱く、物心つく頃には親元を離れてユティーブ村にある別荘で療養という名の厄介払いされていた。
数人の使用人達に半ば監視されているような気分だったのは、多分私が寝台から起きれる日が少なかったからだろうと思う。

そんな退屈な日々だったある日…――私が16歳くらいの時、ひとりの少女と出会った。

彼女は村にある小さな孤児院を訪れていた男爵令嬢で、確か…4兄妹の末っ子だと言っていた。
年齢は私と同じで、すぐに打ち解ける事ができ…気づけば、お互いに思いを寄せる仲になっていた。

だけど、そんな楽しい日々は長くは続かなかった…病魔が、静かに私の身体を蝕んでいたからだ。

彼女に病の事を――私が、20歳まで生きられぬという事実を知らせる事はできないと思った。
彼女の母も、私と同じように病で生命を落としていたのだから…それも、私と初めて出会った年に。

言えるわけがない…そんな残酷な事を、私は言えないと思った。
どうしたら良いのか…わからなかった。

だから、嘘をつこうと考えた…国外にあるとある商人の家へ婿入りする事になった、と――
政略結婚しなければならないのだと、そう告げる為に廃教会へ彼女を呼んでおいた。

私はそこで彼女を待って、そして……



『…気づいたら、こうなってました。彼女は…来てくれたのだろうか?』



えー…突然、何事かと思われたかもしれませんが――僕らも思ってます。
そして、『彼女は来てくれたのか?』と訊かれても知りません。

ちなみに、長々と語ったのは兄が捕まえた死霊です。

えーっと、ルークと名乗ってましたっけ…彼は、なかなか辛い生い立ちをしていたんですね。
…そもそも、アルヴィドが彼に「何故、ここで亡くなったのかわかるか?」と訊いたのが発端だったんですが…

「つーかさ、普通に考えても男爵令嬢が犯人なんじゃねーの?それか、その周囲にいた奴らとか――」

祭壇を椅子代わりにしている兄が、長い話に飽いたのか…欠伸をしながら言います。
…ちなみに、僕も兄と同意見だったりしますが。

まぁ、犯人がその令嬢だったとして…何故、犯行に至ったのか――動機が少し弱いですよね?
だって、ルークは彼女に何も告げてないようですし…と考えて、ふと思ったわけです。

彼の計画、誰かに気づかれていたのではないかという事に――可能性のひとつですが。

「手掛かりは、その男爵令嬢だけだな…正体を調べる為にも、村にあるという孤児院へ行ってみないか?」

確かに、本当にその令嬢が身分を偽っていなければ…ほぼ解決ですしね。
たまには良い事を言いますね、アルヴィド…ですが、何故僕に同意を求めるんだ。

行きたくないです…こうなったら、兄の腕をしっかり掴んでおこう。
アルヴィドは何か言いたげに兄を見ていますが、気づかぬ知らぬでいようと思います。

兄さん…いてくれて、本当にありがとう。


***


僕らはルークの案内で、近くの村にあるという孤児院へやって来た…のですが――

「うっわー…こんな所に子供を住まわせるとか、人間も面白い事を考えるよなぁ。リルハルト、そう思わないかー?」
「本当ですね…これは、孤児院というより魑魅魍魎の住まう所といった感じです。ねぇ、兄さん」

兄さんと僕は、目の前に建っている孤児院…もとい、絶対に人間なんて住んでいるわけがないだろう建物を見て感想をもらした。

いやぁ…10年やそこらで、こんな立派な廃墟ができないだろう――
強いて言えば、100年位経てばそうなるだろうレベルの廃墟ですからね。
人間なんて住んでいたら、それはそれですごいと思いますよ…だって、屋根や壁などほぼ無いのですから。

「…こうして、本当に立派な廃墟を見たら…あの廃教会の方が、まだ住める環境なんだなと思えますね」

僕の呟きを聞いていた兄が「…だな」と小さく頷いて同意してくれました。

もし"我が君"にこういった物件へ向かえと言われていたら…兄さんは止めてくるでしょうが、一戦を交えていたかもしれません。
そう考えると、廃教会の方がまだマシですね!

アルヴィドが静かだな…と思った僕と兄は、様子をうかがうように彼の方を見てみました。
何やら難しい顔をして、孤児院――もとい、廃墟を見ているようですが…何か、気になる事でもあったのだろうか?

「…俺がエンクヴィストであった時代も、ここはこの状態だった記憶があるのだが」

あぁ、真剣に考え…もとい、思いだしていたんですね。
えーっと…前の戦いゲームの時といえば、今から200年位前だった気がしますが――

「詳しい事はノリス司祭に訊いてみればわかると思うのだが…だが、これだけは断言できる。ルークの生きていた時代でも、この状態であったと」

アルヴィドの言葉に、ルークはショックを受けているのか…落ち込んでいるようです。
まぁ、普通にビックリですよねぇ…

それよりも、です――アルヴィドの言葉の中で気になるものがあり、兄と僕は廃墟の事など今はどうでもいい気分です。

ノリス司祭…って、もしかしてノリス・ファリア・ヴァイスハイトですかね?
な、懐かしいなぁ…うん、色々な意味でですが。

「…リルハルト、面白い事にはなってんだが――嫌な予感がするぞー?」
「わかりますよ、兄さん…面白い事とそうじゃない事が、同時に起こりそうな気配してますから」

この流れでは、ノリス司祭が来そうな気しかしません…アルヴィドも、呼ぼうとしている様子ですからね。
…もう、この際仕方がないのかもしれませんが――できれば、僕ら兄弟は会いたくないのです…

ははは、あの悪夢その2が甦ってきますよ。
あ、兄さん…逃げるのは無しでお願いします。

僕ら兄弟の現実逃避を余所に、ルークがアルヴィドに頼んでいました…土下座する勢いで。

そんなに来てほしいんですか、ノリス司祭に。
まぁ、本当に何が起こったのかを知るには必要なんだとは理解できますよ…

――でもね。

僕と兄は魔族な上に、ルークなんか死霊なんですけど…そこを忘れてませんか?

大体、ノリス司祭がひとりで来てくれるんですかねぇ…他の神官とかも来たら、僕らは生命の危機なんじゃないですか?
…あぁ、兄さん――逃げようなんてしないでくださいね。

僕がしっかり兄の腕を掴むと、兄は何処か遠くの空を見ているようでした。
そういえば、"我が君"…貴方様も見ていてくださいね、せっかくのノリス司祭との再会になるのですから。

ルークの必死の頼み事に、アルヴィドは頷くと…僕らに声をかけてきました。

「ルークも気になってるようだし…ノリス司祭を呼んでもいいだろうか?あぁ、安心してくれ…ひとりでいらっしゃるように頼んでみるからな」

…絶対に、ひとりで来るわけがないですよ。
安心要素が…何処にあるのか、僕にはわかりませんけど?

そうこうしている内に、アルヴィドが何かの魔法式を組むとそこから輝く白い鳥が一羽現れました。
その白い鳥はアルヴィドの周りをぐるりと一周し、空へと羽ばたいていきましたが…あれ、神聖魔法のひとつだったと記憶しています。
メッセージを相手に届けるとかいう…そういうものでしたよね。

…はい、大人しく待ちますよ――ノリス司祭を。
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