追憶のステンドグラス

雪原るい

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一章 ステンドグラスは幻に…

8:もう…帰ってもいいですか?本気で

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――"光と闇の戦いゲーム"は、まだはじまってもいませんが…僕ら兄弟、早々に退場させてもらえないでしょうか?

…ふと、そんな事を考えてしまいましたが"我が君"や神が赦してくれるはずはないので諦めます。
兄は兄で、僕の傍らに立ったまま身動きひとつしません…まぁ、僕が兄さんの左腕をしっかり掴んでるので逃げたくても逃げられない状況とも言えますがね。

僕ら兄弟は、戦いゲームがはじまる前だというのに一番の危機を迎えていると言ってもいいでしょう…
少し前に、アルヴィドの呼んだ人物が護衛ともいえるものを連れてやって来た事で…ね。

銀髪、金色の瞳をした司祭――ノリス・ファリア・ヴァイスハイト…彼は"神の愛し子"と言われてますが、はっきり言えば神の化身です。

そんなノリス司祭は、いろいろ思うところがありますけど…問題ありません。
むしろ、こっちが呼んだのだから…

問題があるとすれば、ノリス司祭を護衛してる人物にある…としか言えません。
というか…アルヴィド、お前嘘をつきましたね。
普通に、自然に僕と兄をる気なのか…まさか、また茶番付きで!!

「リル、エル。ノリス司祭と、気づいてるかもしれないがリベリオだ」

遠くを見ていた僕らに、アルヴィドが紹介をしてくれました。
えーえー、もちろん気づいてますとも。
できれば会いたくなかった人物ですから…確か、勇者の役目を持ってましたよねぇ?

前回――僕の記憶が確かなら、イシドルという名で…僕を斬った、あの勇者でしたよね?
あ、兄さんも斬られたんですか…あの最期の後に。

「いや~、ひっさしぶり!2人に、また会えて嬉しいな~。今回は仲良くしような!」

すごく良い笑顔で、イシドル…いえ、リベリオが僕と兄さんに向けて手を差し出しています。
…こいつも、やはり「前」を覚えているようです。
恐ろし過ぎます…どういう事なのか、神への文句を込めてノリス司祭へ視線を向けてみました。

きょとんとした表情で、ノリス司祭は僕らを見ているだけです…何か言ってほしいのですが?

「…あぁ、これがアルヴィドの言っていた廃墟と――こちらにいるのが、何かに化かされた死霊の方と…元気そうで何よりです、2人共」

廃墟からルークへと視線を向けて言ったノリス司祭が、何かに気づいた…いや、思い出したかのように僕と兄へ向けて声をかけてきました。
何か言え…とは思いましたが、そうではない。
違うんですよ…それに気づいて――

「貴方達が元気そうなのですから、きっとアーノルドも元気なのでしょう…が、今回は暇でしょうね」

…くれるわけないですね。
えーえー、"我が君アーノルド様"も元気に暇を持て余されていますよ…
ノリス司祭、懐かしそうにおっしゃるのならば"我が君アーノルド様"の遊び相手になって差し上げてくださると嬉しいです。


***


「懐かしい子達に会えて、つい目的を忘れてしまいそうになりました」

申し訳なさそうに言うノリス司祭ですが、きちんと仕事をしてくれています…
だって、立派な廃墟をしっかり浄化してくれましたからね。

だけど、今この場に死霊のルークと本調子でない魔族である僕ら兄弟の存在を忘れてる…そんな気がします。
まぁ、何はともあれ…魑魅魍魎の住まう空気はなくなりました。
これで、この廃墟の記憶のようなものを探れるでしょう…それもしっかりやってください、ノリス司祭。
僕ら兄弟は木陰で休んでますので、結果だけ教えて下さいね。

あー…アルヴィドとリベリオは近づかないでくれると嬉しいです。
今、相手をしてあげる気力はありませんから…ん?
ノリス司祭、何故こちらを見て首をかしげ…あ、わかってなかったんですか?
え、違う?なら、一体…――

「昔…ほら、一回目の終えてから二回目前まで僕の神殿で育っていたので大丈夫かと…」

んー…待て待て、ノリス司祭ちょっと待って!
僕ら兄弟、確かにノリス司祭の庇護の下にいましたが…まさか、それを根拠に!?

僕らの記憶が確かなら…その当時は生まれたばかりで幼い魔族である僕ら兄弟を、身体が弱いのだからと言って神殿の奥に軟禁されてたような――

「そーそー。で、外に出ようもんなら神聖魔法で狩りにきたよなー」

しゃがみ込んだ兄さんが頬杖をつきながら、ややうんざりしたように言ってますが…身をもって知る羽目になってましたよね。
兄さん、毎度よく無事に生きて帰ってこれましたね…つい、そんな事をしみじみ思ってしまいました。
まぁ、僕も兄さんの事は言えないんですがね。

は?リベリオ…何ですか?
「同士よー!」って何ですかっ!?

…変な仲間意識を持たれても困るな、と思ったんですが…どうやら、リベリオは剣の訓練をサボってやられているらしいです。
全然、まったく同士じゃないですよね?
訓練くらい、ちゃんと受けてください…一応、生命をかけた戦いゲームなんですから。

「あー…まぁ、サボっていても俺と互角なんだからいいんじゃね?つーか、その才能が羨ましいわ…」
「兄さん…何リベリオと握手してるんですか?えー…もしかして、仲間意識を持ったんですか」

何かわかり合っている様子の兄とリベリオは、もうほっておこう…きっとノリス司祭の制裁を受けた者同士、通じ合うのだろうな。

とりあえず、リベリオの相手は兄さんに任せよう。
アルヴィド…羨まし気に見ても、僕は相手しませんから…あしからず。



そんなこんなで、ノリス司祭の過去読み(仮称)が済んだようです。
――え?何故(仮称)が付いているのか…ですか?
簡単な話です…術名をノリス司祭が考えなかったからです。
しかも、こんな術はノリス司祭にしか使えないものですからね。

というか…膨大な記録を自らのものにするのは、人間業じゃないですよ。
僕が言うのもなんですが…――

わー、ルークがワクワクした瞳をノリス司祭に向けているけど…この流れでいくと、絶対に長くなりますよね。
せっかく村に来たんだから、酒場か食堂で何か食べながら話をしませんか?

…と、僕が言葉にする前にリベリオが言ってくれました。
同じような事を考えていたのは何か癪ですが…立ち話するよりマシなので賛成です。

リベリオ、よく言った!と褒めてあげたい気分です…が、それをすると変な誤解を生むのでやりません。

支払いは――そちら持ちでお願いしたいところです。

村人に訊いてみると、食堂は無いが酒場が昼夜問わず開いているらしい。
まぁ、冒険者がよく訪れる村なのだそうですが…なら、何故食堂も作らないのでしょうか?

少しだけそんな事を思ったりしましたが、僕らは教えられた酒場へ向かいました。

ゆっくり話ができればいい…と願ってみたのだけど、こういう時に限って何か起こるものだと改めて知る事になりました。



店の扉を開けると、そこは…――

酔っぱらい達による、バトルロワイヤルのような状況になっていたのだから。
僕らは、そっと扉を閉め…どうしたものか、と無言で考えねばならなくなったのでした。
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