20 / 200
一年目
20:よくある伝説の木の下で〜ってやつ。
しおりを挟む
そして。アザレアは切実に思ったのだった。
『できれば人除けの御守りを、一旦帰る前に渡してほしかった』と。
×
フォラクスが昼食の頃に
「では、準備をして参りますので」
と、言って姿を消した。
そのあと店の片付けを終えたアザレアは、学校を出る前に薬品作りに使えそうな木の落葉を集めようと中庭に出たところで、
「おい、……今、少しいいか?」
と、その1と遭遇したのだ。
そして。その場で告白をされた。
×
「え、無理」
アザレアは即答する。約束があるから無理、というような軽さで、しかし一切の希望を持たせる隙もない厳しさで。
「……それは、俺が決闘で負けたからか」
顔を苦しそうに歪め、その1は口を開いた。弱いから、恰好が悪かったから断ったのだと思われているようだ。
「いや。例え、あの決闘で勝ったとしても、わたしは同じ答えを出したよ」
アザレアはゆっくりと首を振る。
「何故だ?」
一瞬、意外そうな表情をしたその1は、アザレアが告白を断った本当の理由について問い掛けた。
「心あたりないの、もしかして」
首を傾げ、アザレアは訊き返す。
「……心あたり?」
その1は険しい顔でかなり真剣に考えているようだが、思い浮かんでいないようだ。
「…………(自覚ないのか、この人)」
溜息を小さく吐き、アザレアは思う。
「いやいや。わたしを勝手に商品扱いした人とか無理だよ」
こんなことに時間をかけてもしょうがないと、アザレアは素直に答えた。
「商品?」
ぼかさずにしっかりとアザレアは言うが、それでもその1はあまりピンときていない様子だった。
「決闘の商品。『負けたら近づくな』のところとか」
具体的な例を挙げると、
「……俺は、別にそんなつもりじゃ」
酷く傷付いた様子で、その1は一歩、後退る。
「……そうだろうね。でも、わたしはそれが嫌だった」
固まるその1に、畳みかけるようにアザレアは言葉を続ける。
「わたしを勝手に『可哀想』だと判断して、勝手に守ったつもりになっているのも嫌だよ」
助けを求めていないのに勝手に助けられるなんて特に、自己満足の代表のような行為だ。
「一緒になるんなら、一方的に決めつけるんじゃなくって、わたしの意見を尊重してくれる人がいいな」
そう答えたときに、ふと婚約者である彼のことが浮かんだ。
「例えば、わたしが魔物だらけで危険な場所に『行きたい』って言ったら、きみはなんていう?」
彼は、あまり行くことには肯定的ではなかったが、止めずに守りのまじないをかけてくれた。
「……それは、」
考える様子のその1に、
「『その場所は危険だ』『危ないから行くな』『行くんなら自分も連れて行け』っていうでしょ」
そう聞くと、
「……普通は、そうだろう? 怪我などして欲しくない」
その1は当然だろうと頷く。
「そういう、『自分が心配してる』って体でわたしを縛ろうとするのがいや」
アザレアはその1の方を見る。その1は酷く驚いた様子で目を見開き、固まっていた。
「あと、わたしには婚約者もいるし」
視線を横にずらし、アザレアは言葉を続けた。
「え……」
その1は目を見開き、
「……そういうのは、貴族だけなんじゃ……ないのか?」
と、呟く。
「『相性結婚』ってしってる?」
その1は、アザレアの言葉に少し考えた後、
「少し、だけなら」
と答えた。
「……『少し』?」
この世界、そしてこの国の出身者ならば、普通は知っているはずの話なのに、とアザレアは眉をひそめる。
「政府が作った制度なんだけどさ。それで、わたしには、すでに相手がいるの」
通知は出ていたし、思い切り廊下にも張り出されていたんだけれど、と内心で思いながらアザレアはその1に言う。
「……それで断ったのか?」
何かに気付いたかのようにはっとした顔でその1が言うが、
「そうでもない。結局、わたしはきみの人間性が無理だってこと」
と、アザレアは答える。
「それにね。きみのこと、全く興味持てそうにないんだ」
言いながら、アザレアはその1の顔を見る。……やっぱり、全く興味の持てない顔だった。少ししたら髪型と髪色以外は全て忘れているだろう。
「……興味? お、俺は……運命、だと」
呆然としていたその1の顔が、段々と血の気が引いたように青白くなって行く。まるで、『自分は、とんでもない勘違いをしてしまったのではないか』と言いた気だ。
「『運命』? 聞きたくはないけど、根拠は?」
腕を組み、アザレアは目を細めた。
「触れた瞬間に、……触れたところから熱くなって、鼓動が速くなった」
腕を掴まれたあのときのやつか、と、アザレアは思い至る。
「わたしは何も感じなかったけど」
きょとんとした顔にその1は更に衝撃を食らったようで胸を押さえ、膝を突いた。
「そもそも、きみの名前も知らないし」
そして止めを刺す。彼ら転入生たちが転入してから大分経つが、アザレアは誰一人の名前も覚えていないのだ。どちらかと言えば、顔に興味を持つのすら珍しい方である。
「……っ、俺の、名「はなから自己紹介を聞くつもりもないよ。聞いたところで忘れるし。用が済んだのならさっさと行って」
名乗ろうとしたその1に、アザレアはひらひらと手を振る。
「……。お前、の……『婚約者』って、どんなやつなんだ」
蒼白な顔のまま、その1が問うと
「きみと違って、結構すてきなひと」
アザレアはにっと笑って、そう答えた。
『できれば人除けの御守りを、一旦帰る前に渡してほしかった』と。
×
フォラクスが昼食の頃に
「では、準備をして参りますので」
と、言って姿を消した。
そのあと店の片付けを終えたアザレアは、学校を出る前に薬品作りに使えそうな木の落葉を集めようと中庭に出たところで、
「おい、……今、少しいいか?」
と、その1と遭遇したのだ。
そして。その場で告白をされた。
×
「え、無理」
アザレアは即答する。約束があるから無理、というような軽さで、しかし一切の希望を持たせる隙もない厳しさで。
「……それは、俺が決闘で負けたからか」
顔を苦しそうに歪め、その1は口を開いた。弱いから、恰好が悪かったから断ったのだと思われているようだ。
「いや。例え、あの決闘で勝ったとしても、わたしは同じ答えを出したよ」
アザレアはゆっくりと首を振る。
「何故だ?」
一瞬、意外そうな表情をしたその1は、アザレアが告白を断った本当の理由について問い掛けた。
「心あたりないの、もしかして」
首を傾げ、アザレアは訊き返す。
「……心あたり?」
その1は険しい顔でかなり真剣に考えているようだが、思い浮かんでいないようだ。
「…………(自覚ないのか、この人)」
溜息を小さく吐き、アザレアは思う。
「いやいや。わたしを勝手に商品扱いした人とか無理だよ」
こんなことに時間をかけてもしょうがないと、アザレアは素直に答えた。
「商品?」
ぼかさずにしっかりとアザレアは言うが、それでもその1はあまりピンときていない様子だった。
「決闘の商品。『負けたら近づくな』のところとか」
具体的な例を挙げると、
「……俺は、別にそんなつもりじゃ」
酷く傷付いた様子で、その1は一歩、後退る。
「……そうだろうね。でも、わたしはそれが嫌だった」
固まるその1に、畳みかけるようにアザレアは言葉を続ける。
「わたしを勝手に『可哀想』だと判断して、勝手に守ったつもりになっているのも嫌だよ」
助けを求めていないのに勝手に助けられるなんて特に、自己満足の代表のような行為だ。
「一緒になるんなら、一方的に決めつけるんじゃなくって、わたしの意見を尊重してくれる人がいいな」
そう答えたときに、ふと婚約者である彼のことが浮かんだ。
「例えば、わたしが魔物だらけで危険な場所に『行きたい』って言ったら、きみはなんていう?」
彼は、あまり行くことには肯定的ではなかったが、止めずに守りのまじないをかけてくれた。
「……それは、」
考える様子のその1に、
「『その場所は危険だ』『危ないから行くな』『行くんなら自分も連れて行け』っていうでしょ」
そう聞くと、
「……普通は、そうだろう? 怪我などして欲しくない」
その1は当然だろうと頷く。
「そういう、『自分が心配してる』って体でわたしを縛ろうとするのがいや」
アザレアはその1の方を見る。その1は酷く驚いた様子で目を見開き、固まっていた。
「あと、わたしには婚約者もいるし」
視線を横にずらし、アザレアは言葉を続けた。
「え……」
その1は目を見開き、
「……そういうのは、貴族だけなんじゃ……ないのか?」
と、呟く。
「『相性結婚』ってしってる?」
その1は、アザレアの言葉に少し考えた後、
「少し、だけなら」
と答えた。
「……『少し』?」
この世界、そしてこの国の出身者ならば、普通は知っているはずの話なのに、とアザレアは眉をひそめる。
「政府が作った制度なんだけどさ。それで、わたしには、すでに相手がいるの」
通知は出ていたし、思い切り廊下にも張り出されていたんだけれど、と内心で思いながらアザレアはその1に言う。
「……それで断ったのか?」
何かに気付いたかのようにはっとした顔でその1が言うが、
「そうでもない。結局、わたしはきみの人間性が無理だってこと」
と、アザレアは答える。
「それにね。きみのこと、全く興味持てそうにないんだ」
言いながら、アザレアはその1の顔を見る。……やっぱり、全く興味の持てない顔だった。少ししたら髪型と髪色以外は全て忘れているだろう。
「……興味? お、俺は……運命、だと」
呆然としていたその1の顔が、段々と血の気が引いたように青白くなって行く。まるで、『自分は、とんでもない勘違いをしてしまったのではないか』と言いた気だ。
「『運命』? 聞きたくはないけど、根拠は?」
腕を組み、アザレアは目を細めた。
「触れた瞬間に、……触れたところから熱くなって、鼓動が速くなった」
腕を掴まれたあのときのやつか、と、アザレアは思い至る。
「わたしは何も感じなかったけど」
きょとんとした顔にその1は更に衝撃を食らったようで胸を押さえ、膝を突いた。
「そもそも、きみの名前も知らないし」
そして止めを刺す。彼ら転入生たちが転入してから大分経つが、アザレアは誰一人の名前も覚えていないのだ。どちらかと言えば、顔に興味を持つのすら珍しい方である。
「……っ、俺の、名「はなから自己紹介を聞くつもりもないよ。聞いたところで忘れるし。用が済んだのならさっさと行って」
名乗ろうとしたその1に、アザレアはひらひらと手を振る。
「……。お前、の……『婚約者』って、どんなやつなんだ」
蒼白な顔のまま、その1が問うと
「きみと違って、結構すてきなひと」
アザレアはにっと笑って、そう答えた。
0
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる