48 / 200
一年目
48:因果の応報。
しおりを挟む
「おっしゃできたーっ!」
と、アザレアは自室で拳を握った。
「うーん、我ながら惚れ惚れする出来栄えだ……」
うっとり言いながら、茶色い小瓶に蓋をする。
アザレアが生成したそれは、この間に採りにいった薬草をふんだんに使った、毛枯剤だ。
「薬を全部使いきったら間違いなく、つるぴかりんだよ!」
薬をかけた直後に毛が抜ければ、間違いなく現行犯で捕まえられてしまう。だから、色々な薬草を組み合わせて大体半月後くらいに一気に抜けるように調整した。
「ふふふ、覚悟しておけ……」
とアザレアは笑う。顔知らないけれど。
×
アザレアは薬が出来た旨を友人A、友人B、その2に伝えた。
「でも、どうやって仕掛けに行くのよ。仮に行けたとしてもばれないように薬をかけるなんて……」
友人Aは少し呆れ気味にアザレアに問いかける。
「ん。そこはだいじょーぶ!」
アザレアはグッと親指を立てる。
「……嫌な予感しかしねーぜ」
それを見て友人Bが呟き、
「口調、乱れてるって言ってるでしょう」
と、友人Aが友人Bの頬をつねった。
×
「……ということで、手伝って!」
「…………何故ですか」
とある昼休み、薬草園でアザレアはフォラクスに頼み込んだ。
薬草園のベンチの端に座るフォラクスは普段のように冷たい顔で、同じく反対の端に座るアザレアが手渡した小瓶を見つめる。
「だって。きみは宮廷魔術師だから、その人に会えるかもって思ったんだ。それに、わたしが『新人メイドでーす』って入って仕掛けたら圧倒的に怪しくなっちゃうじゃん」
口を尖らせ、アザレアはつまらなそうに足をぱたぱたとゆっくり動かす。
「然様ですか」
その様子を見ながら、フォラクスは短く溜息を吐いた。
「……其れで。此の薬品の効果は。其れと私には何か利益がありますか」
「うっ……」
じろ、と視線を向けたフォラクスにアザレアはたじろぐ。
「うーーーん……効果、は『その人の魔力に反応する』ってやつ……で、……きみには…………利益……は、ないかも……?」
「…………然様ですか。……では」
とフォラクスは、うんうんと唸るアザレアの方に少し詰め寄り、
「ん、なに?」
その顎に手を滑らせ、視線を合わせるようにする。
「にゃに?」
きょとんとした顔のまま、アザレアが見つめ返すと
「『私の言う事を何でも一つ聞く』というのは如何でしょう」
目を細め、フォラクスは提案をする。
「……と、まあ。其れは冗だ「うん、いいよ!」……本気ですか」
「うん。まずこの状態が『わたしの言うことを聞かせている』ような状況だし」
アザレアはにこにこと笑顔でそう答えた。
「……まあ」
視線を少し巡らせたのち、
「……折角の婚約者の頼みです。如何にか致しましょう」
と、フォラクスは小瓶を懐に入れる。
「ありがと! とりあえず、液体がその人の近くにある状態だったらなんでもいいよ! 飲むとか、かけるとか」
「そうですか」
「えへへ、これで共犯だねー」
「……そうですね」
そして、フォラクスはなんかうまい感じに御守りにその薬を全て注ぎ込み、それを「とてもよく効く御守りです」と手渡して枕に仕込んでもらい無事に効果を発揮し切った。
※ちなみに薬を渡した後はもうそのおっさんの事を微塵も覚えていない。
×
『……先日、とある男爵の方が不可解なほどに……なんとまあ。アレになったそれが……『薬術の魔女』が原因らしいと、言う話だそうだ』
「然様ですか」
普段通りに宮廷で仕事を片付けていると、フォラクス肩に遣いの式神が現れ告げた。困っているような、困惑しているような声色だ。
少し心当たりのある話だったが、色々と手を加えておいたのでフォラクスも関与しているとは疑い辛い状況にはなっているはずだ。なので心配はしていない。
「……鯔の詰まりは?」
作業を続けたまま、フォラクスは式神の向こうの者へ言葉の続きを促す。
『“薬術の魔女の監視はもう少し厳重にしろ”と言う話となった』
「……何も変わらないのでは」
見ていても、見ていなくとも、アザレアは周囲や環境に関係無くやる時はやる。何故か監視の目をすり抜け、行動を完遂してしまう。監視員の方ではそういう認識になっていた。
『そうだな。とりあえず、来年以降の監視は別の者にさせるつもりだが……』
少し言い淀み、式神の向こうの者はフォラクスに伺うように言葉をかける。
『お前、薬術の魔女と婚約関係なんだろう? もう少し干渉や交渉などはできないのか』
「……難しい話ですね。私は彼女とはあまり干渉し合わないと約束をしておりますので」
普段通り、フォラクスは感情の起伏の薄い声で答えた。ただ、『その話は面倒だ』『無駄な話は不要だろう』と言いた気な感情だけが言葉に乗っている。
『冷たいな』
「そうでしょうか。制度や約束で決まった婚約とは其の様なものだと思いますが」
『まあ良い。婚約者となった関係上、お前が薬術の魔女の監視役を外されるまで担当する事は決まった。それで良いか』
「貴方が決めた事に口出しは致しませぬ」
『そうか』
返答を聞き用事の済んだ式神は燃え上がり、消えた。
×
『外されるまで監視を続ける』とはつまり、解任の命令が下されるまで彼女の命がある限りは監視を続けろという事だ。
遠回しに『そのまま結婚し監視を続けろ』と言われたことになる。
「……(……まあ、婚約せずとも監視はできますが……)」
その状態を少し、考えてみる。
「(…………元婚約者が、別の者と共に居る様子を死ぬまで見守る事に……)」
それはとても厭なことのように思えた。
と、アザレアは自室で拳を握った。
「うーん、我ながら惚れ惚れする出来栄えだ……」
うっとり言いながら、茶色い小瓶に蓋をする。
アザレアが生成したそれは、この間に採りにいった薬草をふんだんに使った、毛枯剤だ。
「薬を全部使いきったら間違いなく、つるぴかりんだよ!」
薬をかけた直後に毛が抜ければ、間違いなく現行犯で捕まえられてしまう。だから、色々な薬草を組み合わせて大体半月後くらいに一気に抜けるように調整した。
「ふふふ、覚悟しておけ……」
とアザレアは笑う。顔知らないけれど。
×
アザレアは薬が出来た旨を友人A、友人B、その2に伝えた。
「でも、どうやって仕掛けに行くのよ。仮に行けたとしてもばれないように薬をかけるなんて……」
友人Aは少し呆れ気味にアザレアに問いかける。
「ん。そこはだいじょーぶ!」
アザレアはグッと親指を立てる。
「……嫌な予感しかしねーぜ」
それを見て友人Bが呟き、
「口調、乱れてるって言ってるでしょう」
と、友人Aが友人Bの頬をつねった。
×
「……ということで、手伝って!」
「…………何故ですか」
とある昼休み、薬草園でアザレアはフォラクスに頼み込んだ。
薬草園のベンチの端に座るフォラクスは普段のように冷たい顔で、同じく反対の端に座るアザレアが手渡した小瓶を見つめる。
「だって。きみは宮廷魔術師だから、その人に会えるかもって思ったんだ。それに、わたしが『新人メイドでーす』って入って仕掛けたら圧倒的に怪しくなっちゃうじゃん」
口を尖らせ、アザレアはつまらなそうに足をぱたぱたとゆっくり動かす。
「然様ですか」
その様子を見ながら、フォラクスは短く溜息を吐いた。
「……其れで。此の薬品の効果は。其れと私には何か利益がありますか」
「うっ……」
じろ、と視線を向けたフォラクスにアザレアはたじろぐ。
「うーーーん……効果、は『その人の魔力に反応する』ってやつ……で、……きみには…………利益……は、ないかも……?」
「…………然様ですか。……では」
とフォラクスは、うんうんと唸るアザレアの方に少し詰め寄り、
「ん、なに?」
その顎に手を滑らせ、視線を合わせるようにする。
「にゃに?」
きょとんとした顔のまま、アザレアが見つめ返すと
「『私の言う事を何でも一つ聞く』というのは如何でしょう」
目を細め、フォラクスは提案をする。
「……と、まあ。其れは冗だ「うん、いいよ!」……本気ですか」
「うん。まずこの状態が『わたしの言うことを聞かせている』ような状況だし」
アザレアはにこにこと笑顔でそう答えた。
「……まあ」
視線を少し巡らせたのち、
「……折角の婚約者の頼みです。如何にか致しましょう」
と、フォラクスは小瓶を懐に入れる。
「ありがと! とりあえず、液体がその人の近くにある状態だったらなんでもいいよ! 飲むとか、かけるとか」
「そうですか」
「えへへ、これで共犯だねー」
「……そうですね」
そして、フォラクスはなんかうまい感じに御守りにその薬を全て注ぎ込み、それを「とてもよく効く御守りです」と手渡して枕に仕込んでもらい無事に効果を発揮し切った。
※ちなみに薬を渡した後はもうそのおっさんの事を微塵も覚えていない。
×
『……先日、とある男爵の方が不可解なほどに……なんとまあ。アレになったそれが……『薬術の魔女』が原因らしいと、言う話だそうだ』
「然様ですか」
普段通りに宮廷で仕事を片付けていると、フォラクス肩に遣いの式神が現れ告げた。困っているような、困惑しているような声色だ。
少し心当たりのある話だったが、色々と手を加えておいたのでフォラクスも関与しているとは疑い辛い状況にはなっているはずだ。なので心配はしていない。
「……鯔の詰まりは?」
作業を続けたまま、フォラクスは式神の向こうの者へ言葉の続きを促す。
『“薬術の魔女の監視はもう少し厳重にしろ”と言う話となった』
「……何も変わらないのでは」
見ていても、見ていなくとも、アザレアは周囲や環境に関係無くやる時はやる。何故か監視の目をすり抜け、行動を完遂してしまう。監視員の方ではそういう認識になっていた。
『そうだな。とりあえず、来年以降の監視は別の者にさせるつもりだが……』
少し言い淀み、式神の向こうの者はフォラクスに伺うように言葉をかける。
『お前、薬術の魔女と婚約関係なんだろう? もう少し干渉や交渉などはできないのか』
「……難しい話ですね。私は彼女とはあまり干渉し合わないと約束をしておりますので」
普段通り、フォラクスは感情の起伏の薄い声で答えた。ただ、『その話は面倒だ』『無駄な話は不要だろう』と言いた気な感情だけが言葉に乗っている。
『冷たいな』
「そうでしょうか。制度や約束で決まった婚約とは其の様なものだと思いますが」
『まあ良い。婚約者となった関係上、お前が薬術の魔女の監視役を外されるまで担当する事は決まった。それで良いか』
「貴方が決めた事に口出しは致しませぬ」
『そうか』
返答を聞き用事の済んだ式神は燃え上がり、消えた。
×
『外されるまで監視を続ける』とはつまり、解任の命令が下されるまで彼女の命がある限りは監視を続けろという事だ。
遠回しに『そのまま結婚し監視を続けろ』と言われたことになる。
「……(……まあ、婚約せずとも監視はできますが……)」
その状態を少し、考えてみる。
「(…………元婚約者が、別の者と共に居る様子を死ぬまで見守る事に……)」
それはとても厭なことのように思えた。
0
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる