54 / 200
二年目
54:お買い物。
しおりを挟む
ある日。
アザレアは友人達と共に、買い物へ出かけていた。
その日は休みだったが、婚約者のフォラクスが「仕事の用事がある」と答えたのだ。一人で勉強をしてもつまらないだろうと思い、友人達にお出かけをしようと声をかけたところ、みんなが来てくれると良い返事をくれた。
「珍しいわね。あなたが『ちゃんと料理したい』っていうなんて」
「今までは『栄養が取れたらなんでも良いの』とか言ってたのに」
友人達は感心した様子で言う。
「ん、まあね。ちゃんとしたものも食べてみようかなって思ったんだ」
からかう友人達にアザレアは拗ねた様子で口を少し尖らせた。
「あれ。でもぉ、お弁当をつくらなくてももっとちゃんとしたものは食堂にありますよね?」
その2は首を傾げるも、「せっかくやる気になってるんだからやらせてあげるのよ」と友人Aが宥める。
「そういう気分なの」
と、少し頬を紅潮させながら、アザレアは答えた。
弁当をちゃんとしようと思ったのは『婚約者に変な弁当をこれ以上見せたくない』なんて理由なのだが、恥ずかしいので伝えていない。
「んじゃあ、ひとまず弁当に使えそうな材料を買い揃えようか」
良いところ知ってるんだ、と友人Bは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
×
友人Bが連れてきたところはちょっとだけ良い食材の売ってある百貨店だ。
「ちょっと。ここ、準一等品の売り場じゃない。大丈夫?」
友人Bの腕を引っ張り、友人Aは問いかける。
この国では、食品や日用品その他もろもろが大まかに言えば一等、二等、三等の三種類に分かれていた。一等が王族や貴族が嗜む高級品、二等は広い客層に向けて作られた比較的低価格なもの、三等は二等に届かなかったもの、だ。二等の品質は最低限保障されるが、三等は二等に近いものから目も当てられない粗悪品までと、非常に格安で手に入るが品質が安定していない。
準一等品は一等のような品質だが、二等品に近い価格で購入できるものである。
「すごく、なんか良いもの売ってそうな雰囲気」
「……あまりにもな感想ですけどぉ、私も同感ですぅ……」
アザレアとその2はこういうところに来たことがないので、物珍しそうに周囲を見ていた。
「大丈夫大丈夫。うちが仕切ってる場所だし、普通の準一等品より、もっとお手軽な値段だよ」
からからと明るく笑う友人Bはあまり気にしていない様子だ。
「最悪、足りなかったら出してあげるから」
「……後で面倒な貸しになってそうね」
料金について気にしなくて良いと友人Bが言うと、友人Aは肩を落とす。
「なんないよ。いくらうちが交魚の家名持ちでも、損得無しの友達相手だし」
君達はね、と友人Bは念を押すように答えた。
×
「ふー、結構買ったね」
にこにこと友人Bは満面の笑みを浮かべる。
「食材を買いに来ただけのつもりだったけど」
頭痛がしそうだと友人Aは顔をしかめ、
「お洋服もなんか買ってもらっちゃった」
深く息を吐き、アザレアは休憩用の椅子に腰かけた。
「とぉーっても、楽しかったです!」
その2は瞳を輝かせて非常に嬉しそうに頬を赤らめる。
「皆さん可愛いしスタイルもいいので服の選び甲斐がありました!」
いつのまにか弁当に使う食材や本だけでなく、服や小物も買っていた。
「お洋服は私が勝手に選んだものなので」と洋服代はその2が払い、おそろいの小物は「自分だけ買ってもらうのは平等じゃないから」と友人Aが支払ってくれた。
割引券やお得な情報を友人Bが教えてくれたし、値引き交渉もしてくれたので思いのほか沢山のものが買えたのだ。
購入したもの達は空間魔術を応用した特殊な鞄に入れたので、購入量に対して4人は身軽である。
そうして、アザレアは友人達との買い物を終えた。
×
「次は街を歩くとかどう?」
帰り道、魔術アカデミーに向かいながら、友人Bは予定が合った時のためか次の予定を提案する。
「そうね、流行りのお店とかにも行ってみたいし」
友人Aが頷き
「あ、私気になってるお店があるんですぅ!」
とその2がそれに乗っかるようにして話題を展開した。
それを聞きながら、アザレアはなんとなくで周囲に視線を向ける。
と。
「(……あれ)」
偶然か、婚約者のフォラクスを見かけた。
「(『仕事の用事がある』って言ってたけど)」
丁度近くを通ったのかな、とよく視線を向ける。
「(誰かと一緒?)」
絹の様に真っ直ぐな乳白色の長髪の人物と並び歩いていた。腕に捕まらせてエスコートしているようにも見える。
「(背が高い! 類友ってやつだ!)」
相手は、かなり高身長の彼と並んでも遜色ない背丈の人物のようだ。よく見ると踵の上がった靴を履いているので、もう少し背は低いのかもしれない。
目元は黒い布で隠されておりよく見えなかったが、口元やその表情から整った顔立ちのように思える。
「(作りもの……みたいなひと)」
なんだか、氷像の様に美しい顔立ちの彼と並び立っても釣り合っているように見えた。
その上、しなやかで上品な体運びだ。
それからすぐ、乳白色の髪の美人がアザレアの方に顔を向ける。そのあとフォラクスの袖を引き彼も僅かにこちらに顔を向け――
「……」
――直ぐに顔を逸らした。
おまけに、こちらに顔を向けた一瞬、不快そうに表情を歪めたように見えたのだ。
まるで、今の状態をアザレアに見られたくなかったかのような、そんな印象を持った。
「んー? むむ?」
なんだか、アザレアはもやっとした得も言えぬ小さな不快感を抱いた。
「どうしたの?」
友人Aに声をかけられ、はっと我に返る。
「……なんでもない」
答えながら、彼と交わした友好関係に口出しはしない約束を思い出した。
アザレアは友人達と共に、買い物へ出かけていた。
その日は休みだったが、婚約者のフォラクスが「仕事の用事がある」と答えたのだ。一人で勉強をしてもつまらないだろうと思い、友人達にお出かけをしようと声をかけたところ、みんなが来てくれると良い返事をくれた。
「珍しいわね。あなたが『ちゃんと料理したい』っていうなんて」
「今までは『栄養が取れたらなんでも良いの』とか言ってたのに」
友人達は感心した様子で言う。
「ん、まあね。ちゃんとしたものも食べてみようかなって思ったんだ」
からかう友人達にアザレアは拗ねた様子で口を少し尖らせた。
「あれ。でもぉ、お弁当をつくらなくてももっとちゃんとしたものは食堂にありますよね?」
その2は首を傾げるも、「せっかくやる気になってるんだからやらせてあげるのよ」と友人Aが宥める。
「そういう気分なの」
と、少し頬を紅潮させながら、アザレアは答えた。
弁当をちゃんとしようと思ったのは『婚約者に変な弁当をこれ以上見せたくない』なんて理由なのだが、恥ずかしいので伝えていない。
「んじゃあ、ひとまず弁当に使えそうな材料を買い揃えようか」
良いところ知ってるんだ、と友人Bは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
×
友人Bが連れてきたところはちょっとだけ良い食材の売ってある百貨店だ。
「ちょっと。ここ、準一等品の売り場じゃない。大丈夫?」
友人Bの腕を引っ張り、友人Aは問いかける。
この国では、食品や日用品その他もろもろが大まかに言えば一等、二等、三等の三種類に分かれていた。一等が王族や貴族が嗜む高級品、二等は広い客層に向けて作られた比較的低価格なもの、三等は二等に届かなかったもの、だ。二等の品質は最低限保障されるが、三等は二等に近いものから目も当てられない粗悪品までと、非常に格安で手に入るが品質が安定していない。
準一等品は一等のような品質だが、二等品に近い価格で購入できるものである。
「すごく、なんか良いもの売ってそうな雰囲気」
「……あまりにもな感想ですけどぉ、私も同感ですぅ……」
アザレアとその2はこういうところに来たことがないので、物珍しそうに周囲を見ていた。
「大丈夫大丈夫。うちが仕切ってる場所だし、普通の準一等品より、もっとお手軽な値段だよ」
からからと明るく笑う友人Bはあまり気にしていない様子だ。
「最悪、足りなかったら出してあげるから」
「……後で面倒な貸しになってそうね」
料金について気にしなくて良いと友人Bが言うと、友人Aは肩を落とす。
「なんないよ。いくらうちが交魚の家名持ちでも、損得無しの友達相手だし」
君達はね、と友人Bは念を押すように答えた。
×
「ふー、結構買ったね」
にこにこと友人Bは満面の笑みを浮かべる。
「食材を買いに来ただけのつもりだったけど」
頭痛がしそうだと友人Aは顔をしかめ、
「お洋服もなんか買ってもらっちゃった」
深く息を吐き、アザレアは休憩用の椅子に腰かけた。
「とぉーっても、楽しかったです!」
その2は瞳を輝かせて非常に嬉しそうに頬を赤らめる。
「皆さん可愛いしスタイルもいいので服の選び甲斐がありました!」
いつのまにか弁当に使う食材や本だけでなく、服や小物も買っていた。
「お洋服は私が勝手に選んだものなので」と洋服代はその2が払い、おそろいの小物は「自分だけ買ってもらうのは平等じゃないから」と友人Aが支払ってくれた。
割引券やお得な情報を友人Bが教えてくれたし、値引き交渉もしてくれたので思いのほか沢山のものが買えたのだ。
購入したもの達は空間魔術を応用した特殊な鞄に入れたので、購入量に対して4人は身軽である。
そうして、アザレアは友人達との買い物を終えた。
×
「次は街を歩くとかどう?」
帰り道、魔術アカデミーに向かいながら、友人Bは予定が合った時のためか次の予定を提案する。
「そうね、流行りのお店とかにも行ってみたいし」
友人Aが頷き
「あ、私気になってるお店があるんですぅ!」
とその2がそれに乗っかるようにして話題を展開した。
それを聞きながら、アザレアはなんとなくで周囲に視線を向ける。
と。
「(……あれ)」
偶然か、婚約者のフォラクスを見かけた。
「(『仕事の用事がある』って言ってたけど)」
丁度近くを通ったのかな、とよく視線を向ける。
「(誰かと一緒?)」
絹の様に真っ直ぐな乳白色の長髪の人物と並び歩いていた。腕に捕まらせてエスコートしているようにも見える。
「(背が高い! 類友ってやつだ!)」
相手は、かなり高身長の彼と並んでも遜色ない背丈の人物のようだ。よく見ると踵の上がった靴を履いているので、もう少し背は低いのかもしれない。
目元は黒い布で隠されておりよく見えなかったが、口元やその表情から整った顔立ちのように思える。
「(作りもの……みたいなひと)」
なんだか、氷像の様に美しい顔立ちの彼と並び立っても釣り合っているように見えた。
その上、しなやかで上品な体運びだ。
それからすぐ、乳白色の髪の美人がアザレアの方に顔を向ける。そのあとフォラクスの袖を引き彼も僅かにこちらに顔を向け――
「……」
――直ぐに顔を逸らした。
おまけに、こちらに顔を向けた一瞬、不快そうに表情を歪めたように見えたのだ。
まるで、今の状態をアザレアに見られたくなかったかのような、そんな印象を持った。
「んー? むむ?」
なんだか、アザレアはもやっとした得も言えぬ小さな不快感を抱いた。
「どうしたの?」
友人Aに声をかけられ、はっと我に返る。
「……なんでもない」
答えながら、彼と交わした友好関係に口出しはしない約束を思い出した。
0
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる