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二年目
55:お弁当。
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次の休日、前回と同じように図書館でアザレアはフォラクスに勉強を見てもらっていた。今はアザレアの解いた問題をフォラクスが採点しており、その様子をぼんやりと眺める。
「……」
フォラクスは横でアザレアが問題を解く様子を眺め、問題を解き終わると間違いを指摘したり、良い点を褒めてくれる。
「……如何なさいましたか」
ふと視線を上げたフォラクスと視線が合い、
「なんでもないよ」
とアザレアは曖昧に笑って誤魔化した。
「(……なんだか、とても不思議な感じ)」
なぜだか熱くなる顔を気にせず、フォラクスが手渡すノートを受け取り間違った箇所の解説を聞く。
×
問題を解いている最中、何かを忘れている気がしたアザレアだったが
「……あ」
唐突に思い出した。この間の休みに、フォラクスが見知らぬ美人と歩いていたことを。
「ねぇ! きみ背の高い人と一緒にいたよね」
ばっと振り向き、アザレアはフォラクスに詰め寄る。急な詰め寄りにやや驚いたのか、彼は少し上体を後ろに下げ僅かに距離を取った。
「…………其れが、何か」
だが取り繕いもせず、フォラクスは目を細めて彼女を見下ろす。それは何かを見定めようとしている様子に見えたが、気にせず彼女は詰め寄ったままで視線を少し伏せた。
「あの人……」
表情を曇らせ、アザレアはきゅ、と自身の服を握り締める。
「性別どっち?」
気にするのは其方なのか。と、内心で思ったのは彼だけではなかっただろう。
「重心の掛け方や身体の動かし方は女性っぽいけど、骨格は男性だったよね」
不思議な感じ、とアザレアはフォラクスを見上げ首を傾げた。
「何故、私が答える必要が」
表情を僅かに歪め、彼は視線を逸らす。無意識に、何か苦いものを口に入れたような心地になるフォラクスだった。
「だって気になるんだもん」
答える彼女の表情を見るも、嫉妬のような感情は無く純粋な好奇心の色が見える。
「ではあの日、貴女は何故、御学友方とお出掛けをなさっていたので」
面倒だ、とでも言いたげな表情で彼は問うた。質問をするならば、と同じように質問を返しただけだ。
「……ひみつ」
その、何故か赤らむ彼女の頬や気まずそうに逸らした視線にフォラクスは知らずのうちに小さな不快感を得る。
「成らば、私も答えなくとも宜しいのでは」
「むーん」
言い返せば、アザレアは眉を寄せて少し口を尖らせた。
「きみ。ちょっといじわるなところあるよね」
「はて。私は貴女と同じように問うただけですが」
にこ、と彼はいつものように笑みを貼り付けて首を少し傾ける。彼女の困った表情に、やや胸の空く思いがあったのは否定できなかった。
「互いに、人間関係に干渉し合わない話は如何したのです」
「それは、そうだけど」
彼女は眉尻を下げ、考える様子で視線を少し動かした。
「それはそうとして、なんだか気になる」
「……」
それから真っ直ぐに見つめられたその視線に、フォラクスは自身の抱いた不快感の正体を得る。
……ずっと、自分以外の者の事を考えているそれが気に食わなかったのだ。理由は、まだ分からないが。
「男です。彼は私の仕事上の知り合いで、私の上司に会いに行く処だったのです」
感情の正体が分かれば振り回されることもない。素直に答えれば
「なーんだ」
と、アザレアはすぐに興味を失い、詰め寄っていたフォラクスからあっさりと身を離した。
さっさとノートの方へ向かい、もう気にしていないように見える。
「……」
その様子を見て、いつか彼女が好奇心を満たした末に、自分に飽きてしまうのではないかと過ぎった。
×
そうしているうちに日は高くなり、昼の休憩が入った。
「……」
アザレアは口をきゅっと固く結んで自身の持ち物から弁当箱を取り出す。取り出しながら、アザレアはちら、とフォラクスの様子を盗み見た。
フォラクスは前回の通りに、どこかからか弁当箱を取り出しそれを食べる様子だ。
アザレアはフォラクスから自身の弁当箱へ視線を戻し、そっと開ける。
「……おや、今回は彩りが豊かですね」
「ん、なに勝手にみてるの」
言いつつ、アザレアはフォラクスの顔を見上げた。彼は軽く目を見開き、ただ単に『珍しい』としか思っていなさそうな表情だ。
「せっかくだから作ってみたんだ。一昨年の冬に料理本貰ったし」
「成程」
「前、少しもらったからお返しにあげるよ」
アザレアは弁当箱をフォラクスに差し出す。
「……いえ。返して下さらなくとも宜しいが」
「んー……。じゃあ、『わたしがあげたい』って思ったからあげる」
「……ふむ」
「宗教、慣習、体質とかの理由で食べられないものとかある?」
「いいえ」
「じゃあ、これあげる」
と、アザレアは中身の一つをフォラクスの弁当の邪魔にならない箇所へ移した。
「割と自信作なんだ」
「……有り難う御座います」
むん、と得意そうなアザレアに、にこ、とフォラクスは微笑み、それを少し取って口に運ぶ。
「…………どう、かな」
「美味ですよ」
不安気なアザレアに、フォラクスは笑顔で答えた。見たところ、不自然な作り笑いではなかったので、悪い味ではなかったのだとアザレアは悟る。
「ん。そっか……よかった」
その事に、アザレアは心の底から安堵した。
×
それから、やがて休日以外の学校終わりの放課後にもフォラクスに図書館で勉強を見てもらうようになった。
それは中間テストが終わっても細々と続く。アザレアの方から連絡を取って、都合が合った時にフォラクスと図書館で時折会うようになったのだ。
……しかし。
「うーん、アカデミーから図書館に行く移動の時間がちょっともったいない気がするなぁ……」
放課後は特に、そんな感じがしていた。帰りはフォラクスがアカデミー寮の近くまで送ってくれるが、行きは魔術アカデミーから15分くらいかかる。
休日は長く勉強していられるのでほとんど気にはならないが、放課後だと門限までには寮へ戻らないといけない。
なんとなく、それを惜しく感じるアザレアだった。
「……」
フォラクスは横でアザレアが問題を解く様子を眺め、問題を解き終わると間違いを指摘したり、良い点を褒めてくれる。
「……如何なさいましたか」
ふと視線を上げたフォラクスと視線が合い、
「なんでもないよ」
とアザレアは曖昧に笑って誤魔化した。
「(……なんだか、とても不思議な感じ)」
なぜだか熱くなる顔を気にせず、フォラクスが手渡すノートを受け取り間違った箇所の解説を聞く。
×
問題を解いている最中、何かを忘れている気がしたアザレアだったが
「……あ」
唐突に思い出した。この間の休みに、フォラクスが見知らぬ美人と歩いていたことを。
「ねぇ! きみ背の高い人と一緒にいたよね」
ばっと振り向き、アザレアはフォラクスに詰め寄る。急な詰め寄りにやや驚いたのか、彼は少し上体を後ろに下げ僅かに距離を取った。
「…………其れが、何か」
だが取り繕いもせず、フォラクスは目を細めて彼女を見下ろす。それは何かを見定めようとしている様子に見えたが、気にせず彼女は詰め寄ったままで視線を少し伏せた。
「あの人……」
表情を曇らせ、アザレアはきゅ、と自身の服を握り締める。
「性別どっち?」
気にするのは其方なのか。と、内心で思ったのは彼だけではなかっただろう。
「重心の掛け方や身体の動かし方は女性っぽいけど、骨格は男性だったよね」
不思議な感じ、とアザレアはフォラクスを見上げ首を傾げた。
「何故、私が答える必要が」
表情を僅かに歪め、彼は視線を逸らす。無意識に、何か苦いものを口に入れたような心地になるフォラクスだった。
「だって気になるんだもん」
答える彼女の表情を見るも、嫉妬のような感情は無く純粋な好奇心の色が見える。
「ではあの日、貴女は何故、御学友方とお出掛けをなさっていたので」
面倒だ、とでも言いたげな表情で彼は問うた。質問をするならば、と同じように質問を返しただけだ。
「……ひみつ」
その、何故か赤らむ彼女の頬や気まずそうに逸らした視線にフォラクスは知らずのうちに小さな不快感を得る。
「成らば、私も答えなくとも宜しいのでは」
「むーん」
言い返せば、アザレアは眉を寄せて少し口を尖らせた。
「きみ。ちょっといじわるなところあるよね」
「はて。私は貴女と同じように問うただけですが」
にこ、と彼はいつものように笑みを貼り付けて首を少し傾ける。彼女の困った表情に、やや胸の空く思いがあったのは否定できなかった。
「互いに、人間関係に干渉し合わない話は如何したのです」
「それは、そうだけど」
彼女は眉尻を下げ、考える様子で視線を少し動かした。
「それはそうとして、なんだか気になる」
「……」
それから真っ直ぐに見つめられたその視線に、フォラクスは自身の抱いた不快感の正体を得る。
……ずっと、自分以外の者の事を考えているそれが気に食わなかったのだ。理由は、まだ分からないが。
「男です。彼は私の仕事上の知り合いで、私の上司に会いに行く処だったのです」
感情の正体が分かれば振り回されることもない。素直に答えれば
「なーんだ」
と、アザレアはすぐに興味を失い、詰め寄っていたフォラクスからあっさりと身を離した。
さっさとノートの方へ向かい、もう気にしていないように見える。
「……」
その様子を見て、いつか彼女が好奇心を満たした末に、自分に飽きてしまうのではないかと過ぎった。
×
そうしているうちに日は高くなり、昼の休憩が入った。
「……」
アザレアは口をきゅっと固く結んで自身の持ち物から弁当箱を取り出す。取り出しながら、アザレアはちら、とフォラクスの様子を盗み見た。
フォラクスは前回の通りに、どこかからか弁当箱を取り出しそれを食べる様子だ。
アザレアはフォラクスから自身の弁当箱へ視線を戻し、そっと開ける。
「……おや、今回は彩りが豊かですね」
「ん、なに勝手にみてるの」
言いつつ、アザレアはフォラクスの顔を見上げた。彼は軽く目を見開き、ただ単に『珍しい』としか思っていなさそうな表情だ。
「せっかくだから作ってみたんだ。一昨年の冬に料理本貰ったし」
「成程」
「前、少しもらったからお返しにあげるよ」
アザレアは弁当箱をフォラクスに差し出す。
「……いえ。返して下さらなくとも宜しいが」
「んー……。じゃあ、『わたしがあげたい』って思ったからあげる」
「……ふむ」
「宗教、慣習、体質とかの理由で食べられないものとかある?」
「いいえ」
「じゃあ、これあげる」
と、アザレアは中身の一つをフォラクスの弁当の邪魔にならない箇所へ移した。
「割と自信作なんだ」
「……有り難う御座います」
むん、と得意そうなアザレアに、にこ、とフォラクスは微笑み、それを少し取って口に運ぶ。
「…………どう、かな」
「美味ですよ」
不安気なアザレアに、フォラクスは笑顔で答えた。見たところ、不自然な作り笑いではなかったので、悪い味ではなかったのだとアザレアは悟る。
「ん。そっか……よかった」
その事に、アザレアは心の底から安堵した。
×
それから、やがて休日以外の学校終わりの放課後にもフォラクスに図書館で勉強を見てもらうようになった。
それは中間テストが終わっても細々と続く。アザレアの方から連絡を取って、都合が合った時にフォラクスと図書館で時折会うようになったのだ。
……しかし。
「うーん、アカデミーから図書館に行く移動の時間がちょっともったいない気がするなぁ……」
放課後は特に、そんな感じがしていた。帰りはフォラクスがアカデミー寮の近くまで送ってくれるが、行きは魔術アカデミーから15分くらいかかる。
休日は長く勉強していられるのでほとんど気にはならないが、放課後だと門限までには寮へ戻らないといけない。
なんとなく、それを惜しく感じるアザレアだった。
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