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三年目
108:礼儀と作法。
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アザレアは絶賛不調中だった。
「むーん……」
唸ったアザレアは口を結び、眉間にしわを寄せる。
「やっぱり、あなたってこういうのは苦手よね」
その様子を見、友人Aは苦笑いをする。
「だって。堅苦しいの、ほんとに嫌なんだもん」
「そうは言ってもねぇ」
友人Bも、困ったように頭を掻く。
第六学年になると、『将来のために』と礼儀作法を学ぶ授業が必須授業に追加されるのだ。
堅苦しいものや不自由が好きではないアザレアにとって、この礼儀作法の授業は苦痛以外の何者でもなかった。
「というか。なんできみたち、そんなに礼儀作法ちゃんとできてるの?」
アザレアは友人A、友人Bの二人を見ながら心底不思議そうに首を捻る。
「だって、教えてもらってるし」
と、友人Aは友人Bの方を見て、
「だって、貴族だし」
友人Bはにっと悪戯っぽく笑った。
「あれ、そういえばそうなんだっけ?」
アザレアは少し、申し訳なさそうに友人Bを見る。友人に興味がないわけではないのだが、いつも身分を意識しないで接していた。なので、時折忘れてしまうのだ。
「まーね。でもまあ、畏まらないで気にしないで欲しいな」
友人Bもそういったものが苦手らしく、気さくに接してくれる彼女を気に入っていた。
「うん。……じゃあ、きみは?」
友人Bに頷いた後、アザレアはその2の方を見る。
「私も、今の扶養先の方が助けてくださっていて」
そう、その2は申し訳なさそうにはにかんだ。
「それもそっか」
宗教関係の人のところで世話になっていると聞いた気がする。ならば、礼儀作法もきちんと学んでいるのも納得がいった。
「どうしても無理だったら、婚約者の人に教えてもらうとかどう?」
どうしても苦手なら、と友人Bが提案をする。婚約者に教わったおかげで苦手な法律で好成績を取れたのだから、同じようにできるはずだと考えたらしい。
「宮廷魔術師なんでしょ?」
そう言われて、「そういえばあの人、宮廷魔術師だった」と思い出した。
宮廷魔術師である月官は他の官僚とは違い、魔術を使う護衛として元の身分や家柄など関係なく色々なパーティに連れ回される。なので、所作はきちんとしているらしい。同様に、武力的な護衛として連れ回される者は騎士や近衛兵などである。
「……ん゛」
だが友人Bに提案されて、くしゃ、とアザレアは顔をしかめた。この間のふれあいを思い出し、よく分からない感情が湧き上がったからだ。
「何その顔」「どうしたんですか?」
不思議そうな友人Bとその2に、友人Aは苦笑を零した。友人Aはアザレアが婚約者に対してやや羞恥の感情を抱いていることや何か触れ合いをしたらしいことを知っているからだ。
「なんとか、聞いてみる」
恥ずかしいけれど、このままでは礼儀作法が中途半端なままで恥をかいてしまうことは明らかだった。それに、きっと彼はこの間の触れ合いについて何とも思っていないだろう。そう思うと気楽になると同時に少し、つまらなく思った。
「教わり難いの?」
煮え切らない態度に、友人Bは心配そうにアザレアの顔を覗き込む。
「そーじゃなくて……んー」
婚約者になるとはいえ、他人である彼に手間をかけてしまうのも気乗りしない理由の一つだ。
理由はよく分からなかったが、もにょもにょとしていて彼女は気が進まないらしい事だけ、友人Bとその2は分かった。
「まあ、駄目だったら教えてあげるからさ」
友人Bは明るくアザレアに言った。
「うん。わかった」
×
「……ふむ。礼儀作法、ですか」
「うん」
茶の入った器を置き、聞き返すフォラクスに、アザレアは頷く。
あれから覚悟を決めて、アザレアは自身がとある授業で苦戦していることをフォラクスに伝えた。すると、丁度休日が近いからその日に来るようにとフォラクスに言われたのだ。
実は、魔術アカデミーでは卒業時にパーティがある。そして、それには王族やそれに準じる公爵等、高位の貴族が来賓するという。
なので、そこである程度のテーブルマナーや動作、ダンスなどが必要になる。
「堅苦しいの窮屈だから、あんまり好きじゃないんだよね」
ちび、と熱い茶を少し口に含んで飲み込み、アザレアはつまらないと言わんばかりの表情で顔をしかめた。窮屈だと感じると、アザレアは逃げ出したくなる。理由ははっきりしないが、そういう気質だ。
「礼儀作法と言いましても……色々と、有りますからねぇ」
その様子を眺めながら、フォラクスは答えた。どうやら、礼儀作法について教えてくれるらしい。
「して。何が出来ないのですか?」
薄く微笑み、フォラクスは問いかける。
「…………全部」
と、アザレアが小さな声で答えた直後、すっと彼の目が細くなった。
「……質問を変えます。何を習っているのです?」
「ん、と……」
やや強くなった言葉に怖気付きながらも、アザレアはテーブルマナーと動作、ダンスなどを教わっているのだと答える。
「……ふむ。私は其れには苦戦した記憶はありませぬが」
「それもでしょ」
「えぇ、そうですね」
悪びれもせず、謙遜することもせずにフォラクスは頷く。
かくして、アザレアはフォラクスから礼儀作法について学ぶことになった。
「むーん……」
唸ったアザレアは口を結び、眉間にしわを寄せる。
「やっぱり、あなたってこういうのは苦手よね」
その様子を見、友人Aは苦笑いをする。
「だって。堅苦しいの、ほんとに嫌なんだもん」
「そうは言ってもねぇ」
友人Bも、困ったように頭を掻く。
第六学年になると、『将来のために』と礼儀作法を学ぶ授業が必須授業に追加されるのだ。
堅苦しいものや不自由が好きではないアザレアにとって、この礼儀作法の授業は苦痛以外の何者でもなかった。
「というか。なんできみたち、そんなに礼儀作法ちゃんとできてるの?」
アザレアは友人A、友人Bの二人を見ながら心底不思議そうに首を捻る。
「だって、教えてもらってるし」
と、友人Aは友人Bの方を見て、
「だって、貴族だし」
友人Bはにっと悪戯っぽく笑った。
「あれ、そういえばそうなんだっけ?」
アザレアは少し、申し訳なさそうに友人Bを見る。友人に興味がないわけではないのだが、いつも身分を意識しないで接していた。なので、時折忘れてしまうのだ。
「まーね。でもまあ、畏まらないで気にしないで欲しいな」
友人Bもそういったものが苦手らしく、気さくに接してくれる彼女を気に入っていた。
「うん。……じゃあ、きみは?」
友人Bに頷いた後、アザレアはその2の方を見る。
「私も、今の扶養先の方が助けてくださっていて」
そう、その2は申し訳なさそうにはにかんだ。
「それもそっか」
宗教関係の人のところで世話になっていると聞いた気がする。ならば、礼儀作法もきちんと学んでいるのも納得がいった。
「どうしても無理だったら、婚約者の人に教えてもらうとかどう?」
どうしても苦手なら、と友人Bが提案をする。婚約者に教わったおかげで苦手な法律で好成績を取れたのだから、同じようにできるはずだと考えたらしい。
「宮廷魔術師なんでしょ?」
そう言われて、「そういえばあの人、宮廷魔術師だった」と思い出した。
宮廷魔術師である月官は他の官僚とは違い、魔術を使う護衛として元の身分や家柄など関係なく色々なパーティに連れ回される。なので、所作はきちんとしているらしい。同様に、武力的な護衛として連れ回される者は騎士や近衛兵などである。
「……ん゛」
だが友人Bに提案されて、くしゃ、とアザレアは顔をしかめた。この間のふれあいを思い出し、よく分からない感情が湧き上がったからだ。
「何その顔」「どうしたんですか?」
不思議そうな友人Bとその2に、友人Aは苦笑を零した。友人Aはアザレアが婚約者に対してやや羞恥の感情を抱いていることや何か触れ合いをしたらしいことを知っているからだ。
「なんとか、聞いてみる」
恥ずかしいけれど、このままでは礼儀作法が中途半端なままで恥をかいてしまうことは明らかだった。それに、きっと彼はこの間の触れ合いについて何とも思っていないだろう。そう思うと気楽になると同時に少し、つまらなく思った。
「教わり難いの?」
煮え切らない態度に、友人Bは心配そうにアザレアの顔を覗き込む。
「そーじゃなくて……んー」
婚約者になるとはいえ、他人である彼に手間をかけてしまうのも気乗りしない理由の一つだ。
理由はよく分からなかったが、もにょもにょとしていて彼女は気が進まないらしい事だけ、友人Bとその2は分かった。
「まあ、駄目だったら教えてあげるからさ」
友人Bは明るくアザレアに言った。
「うん。わかった」
×
「……ふむ。礼儀作法、ですか」
「うん」
茶の入った器を置き、聞き返すフォラクスに、アザレアは頷く。
あれから覚悟を決めて、アザレアは自身がとある授業で苦戦していることをフォラクスに伝えた。すると、丁度休日が近いからその日に来るようにとフォラクスに言われたのだ。
実は、魔術アカデミーでは卒業時にパーティがある。そして、それには王族やそれに準じる公爵等、高位の貴族が来賓するという。
なので、そこである程度のテーブルマナーや動作、ダンスなどが必要になる。
「堅苦しいの窮屈だから、あんまり好きじゃないんだよね」
ちび、と熱い茶を少し口に含んで飲み込み、アザレアはつまらないと言わんばかりの表情で顔をしかめた。窮屈だと感じると、アザレアは逃げ出したくなる。理由ははっきりしないが、そういう気質だ。
「礼儀作法と言いましても……色々と、有りますからねぇ」
その様子を眺めながら、フォラクスは答えた。どうやら、礼儀作法について教えてくれるらしい。
「して。何が出来ないのですか?」
薄く微笑み、フォラクスは問いかける。
「…………全部」
と、アザレアが小さな声で答えた直後、すっと彼の目が細くなった。
「……質問を変えます。何を習っているのです?」
「ん、と……」
やや強くなった言葉に怖気付きながらも、アザレアはテーブルマナーと動作、ダンスなどを教わっているのだと答える。
「……ふむ。私は其れには苦戦した記憶はありませぬが」
「それもでしょ」
「えぇ、そうですね」
悪びれもせず、謙遜することもせずにフォラクスは頷く。
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