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三年目
109:礼儀作法の意味。
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「……其れでは、先ずは貴女が何が出来、何が出来無いかを確認致しましょう」
とある休みの日、フォラクスはそう告げると、アザレアに付いてくるよう促す。
着いた先は、広い部屋だった。
「ここ、なにの部屋?」
「使用人達の部屋と、想定されている空間で御座います」
周囲を見回すアザレアに、フォラクスは答える。
「まあ、此の屋敷に使用人は居らぬので、唯の広い空間となっておりますが」
「なるほど」
使用人の代わりに彼は式神を利用しているし、式神は用が済めば消すこともできるので、専用の部屋は不要なのだという。
「残念ながら此の屋敷には舞踏用の空間等は有りませんので、此処で代用致します。御容赦をば」
「んー、言われても違いなんてわからないから、きみに文句はいわないけどね……」
どうやら、この場所で礼儀作法、恐らく所作や踊りなどを、見てくれるようだ。
「では早速、挨拶の確認をさせて下さいまし」
パチン、とフォラクスが指を鳴らすと数体の人形が現れる。人形は男性の姿と女性の姿をしており、大きさも大体平均くらいだ。
「む、無詠唱……?」
「術式の折り畳みさえ行える成らば、誰でも出来ます」
戸惑うアザレアに、フォラクスはさも当然のように答えた。
「……わたし、術式は折りたためないや」
「まあ、貴女の魔力では不向きでしょうからね」
しょぼくれるアザレアに、フォラクスは優しく声をかける。
「術を構想する間に、魔力が霧散するかと」
「うん。なんだかふわって崩れちゃう感じがするんだ」
×
「んー、痛い!」
アザレアは苦しそうな声を上げた。
「此れぐらいは未だ序の口。耐えなさい」
対してフォラクスは厳しい口調で言い聞かせる。
「きびしい……」
挨拶を見せたところ、『大まかには間違っていない』とは言われたものの、細部が雑だと指摘された。そして、今はその細部の指導を受けている。
「仮に、私と結婚する成らば……此の程度の作法くらいは熟して頂かねば」
さらりとフォラクスは呟く。その言葉に気を取られた瞬間、背中を叩かれた。
「ぴっ?!」
「緩んでおりますよ」
飛び上がるアザレアにフォラクスは冷たく言い放つ。
「学校のはもうちょっと優しかった……」
背筋が曲がっていると押されて修正される、緩むとその箇所を叩かれる(痛くはないが衝撃が酷い)。
色々とフォラクスに触られる今よりも、ただ言葉だけで指摘されていた授業の礼儀作法の方が簡単だったのでは、と後悔し始めていた。
「何を仰る。学舎のもの等、体罰の訴えを恐れ簡易化、略式化されたもので御座いますよ」
「えっ」
別にそれでもよかったかも、と一瞬思ったが、アザレアはどちらかと言えば『体罰』という単語に反応した。
「…………痛いこと、するの?」
「……如何でしょうねぇ。貴女が良い子成らば、痛みは少ないかと」
不安気に問いかけるアザレアに、なぜかフォラクスは楽しそうに答える。
「…………痛いの、いや」
きゅ、と口を結ぶアザレアを、じ、と一瞬見た後、フォラクスは上機嫌そうに笑った。
「抑々、私に教えを乞うたのが運の尽き。ふふふ、折角です。完璧に仕上げて差し上げましょう」
「ひえー」
×
「貴女の卒業パーティーとやらの席で何が出るかは見当も付きませんが、何れが当たっても対応できるようにして差し上げましょう」
ということで、フォラクスの家で摂る昼食の時間も、礼儀作法の時間になってしまった。
先程の挨拶や姿勢の時間と同じように厳しくされるのかとアザレアは身構えていたが、
「先ずは、食事に慣れる事と思うままに楽しんで食べる方が重要でしょう」
とのことで、自由に食べて良いと言われた。慣れてきたころに悪いところを指摘するらしい。
「然し、所作で気になる事があれば私に聞いて下さいまし」
食後は少しの休憩を挟んで、再び広い部屋に戻ってダンスの練習となる。
「舞踏……は、私とでは体格差が激しいので式神にさせましょうか」
とフォラクスが懐から取り出した札を放ると、顔のない人形が現れた。
それを見て、「(ダンスは一緒にやってくれないんだ)」とアザレアは少し残念に思うが、これは勉強なのだと我に返る。
「……処で、正装は大丈夫ですか」
人形の調整を行いながら、フォラクスはアザレアに問いかける。
「んー、とりあえずセットで貸し出しできるものを選ぶ予定」
「……ふむ」
アザレアの返答に、フォラクスは口元に手を遣り、何か考えている様子だった。
「(この人、『一緒になれないかもしれない』感を出しつつも『結婚する予定がある』かのようなこというなぁ)」
と思いつつも、アザレアはなんだか嬉しくなった。
そして、
「此の様に崩すと、楽ですがきちんとしたものに見えますでしょう?」
「なるほどー」
ついでに楽で美しく見える仕草と、今までフォラクスがアザレアに叩き込んだ所作の意味などを教えてもらった。
先に厳しくしたのは基礎を学んでから応用、というより楽な方法を知ると崩れていてもそれっぽく見せられるようになるから、だそうだ。
とある休みの日、フォラクスはそう告げると、アザレアに付いてくるよう促す。
着いた先は、広い部屋だった。
「ここ、なにの部屋?」
「使用人達の部屋と、想定されている空間で御座います」
周囲を見回すアザレアに、フォラクスは答える。
「まあ、此の屋敷に使用人は居らぬので、唯の広い空間となっておりますが」
「なるほど」
使用人の代わりに彼は式神を利用しているし、式神は用が済めば消すこともできるので、専用の部屋は不要なのだという。
「残念ながら此の屋敷には舞踏用の空間等は有りませんので、此処で代用致します。御容赦をば」
「んー、言われても違いなんてわからないから、きみに文句はいわないけどね……」
どうやら、この場所で礼儀作法、恐らく所作や踊りなどを、見てくれるようだ。
「では早速、挨拶の確認をさせて下さいまし」
パチン、とフォラクスが指を鳴らすと数体の人形が現れる。人形は男性の姿と女性の姿をしており、大きさも大体平均くらいだ。
「む、無詠唱……?」
「術式の折り畳みさえ行える成らば、誰でも出来ます」
戸惑うアザレアに、フォラクスはさも当然のように答えた。
「……わたし、術式は折りたためないや」
「まあ、貴女の魔力では不向きでしょうからね」
しょぼくれるアザレアに、フォラクスは優しく声をかける。
「術を構想する間に、魔力が霧散するかと」
「うん。なんだかふわって崩れちゃう感じがするんだ」
×
「んー、痛い!」
アザレアは苦しそうな声を上げた。
「此れぐらいは未だ序の口。耐えなさい」
対してフォラクスは厳しい口調で言い聞かせる。
「きびしい……」
挨拶を見せたところ、『大まかには間違っていない』とは言われたものの、細部が雑だと指摘された。そして、今はその細部の指導を受けている。
「仮に、私と結婚する成らば……此の程度の作法くらいは熟して頂かねば」
さらりとフォラクスは呟く。その言葉に気を取られた瞬間、背中を叩かれた。
「ぴっ?!」
「緩んでおりますよ」
飛び上がるアザレアにフォラクスは冷たく言い放つ。
「学校のはもうちょっと優しかった……」
背筋が曲がっていると押されて修正される、緩むとその箇所を叩かれる(痛くはないが衝撃が酷い)。
色々とフォラクスに触られる今よりも、ただ言葉だけで指摘されていた授業の礼儀作法の方が簡単だったのでは、と後悔し始めていた。
「何を仰る。学舎のもの等、体罰の訴えを恐れ簡易化、略式化されたもので御座いますよ」
「えっ」
別にそれでもよかったかも、と一瞬思ったが、アザレアはどちらかと言えば『体罰』という単語に反応した。
「…………痛いこと、するの?」
「……如何でしょうねぇ。貴女が良い子成らば、痛みは少ないかと」
不安気に問いかけるアザレアに、なぜかフォラクスは楽しそうに答える。
「…………痛いの、いや」
きゅ、と口を結ぶアザレアを、じ、と一瞬見た後、フォラクスは上機嫌そうに笑った。
「抑々、私に教えを乞うたのが運の尽き。ふふふ、折角です。完璧に仕上げて差し上げましょう」
「ひえー」
×
「貴女の卒業パーティーとやらの席で何が出るかは見当も付きませんが、何れが当たっても対応できるようにして差し上げましょう」
ということで、フォラクスの家で摂る昼食の時間も、礼儀作法の時間になってしまった。
先程の挨拶や姿勢の時間と同じように厳しくされるのかとアザレアは身構えていたが、
「先ずは、食事に慣れる事と思うままに楽しんで食べる方が重要でしょう」
とのことで、自由に食べて良いと言われた。慣れてきたころに悪いところを指摘するらしい。
「然し、所作で気になる事があれば私に聞いて下さいまし」
食後は少しの休憩を挟んで、再び広い部屋に戻ってダンスの練習となる。
「舞踏……は、私とでは体格差が激しいので式神にさせましょうか」
とフォラクスが懐から取り出した札を放ると、顔のない人形が現れた。
それを見て、「(ダンスは一緒にやってくれないんだ)」とアザレアは少し残念に思うが、これは勉強なのだと我に返る。
「……処で、正装は大丈夫ですか」
人形の調整を行いながら、フォラクスはアザレアに問いかける。
「んー、とりあえずセットで貸し出しできるものを選ぶ予定」
「……ふむ」
アザレアの返答に、フォラクスは口元に手を遣り、何か考えている様子だった。
「(この人、『一緒になれないかもしれない』感を出しつつも『結婚する予定がある』かのようなこというなぁ)」
と思いつつも、アザレアはなんだか嬉しくなった。
そして、
「此の様に崩すと、楽ですがきちんとしたものに見えますでしょう?」
「なるほどー」
ついでに楽で美しく見える仕草と、今までフォラクスがアザレアに叩き込んだ所作の意味などを教えてもらった。
先に厳しくしたのは基礎を学んでから応用、というより楽な方法を知ると崩れていてもそれっぽく見せられるようになるから、だそうだ。
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