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三年目
130:冬休みの予定。
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「……今、『作った』と仰いましたか」
フォラクスはアザレアに訊き返す。信じられないものを聞いた心地だった。
「うん。……余計なこと、だったかな」
頷いた後、アザレアは不安そうに首を傾げる。家のものを勝手に触られたくなかったのかな、とか食材庫の中を見られたくなかったのかな、と彼女は気になったのだ。
「いえ、有難う御座います」
それをフォラクスは微笑み、感謝を述べる。家のものを勝手に触られるのは彼女なら平気だったし、食材庫の中を見られるのはどうでも良かった。
「不便などは有りませんでしたか」
ただ、調理場の天板が高かったであろうことや、手が届かないものもあっただろうことが気になっていたのだ。
「うん。何とかなったよ」
天板が高くとも調理はできるし、手が届かないところにあったものも台とかに乗ったら取れるから、と彼女は答える。
「最近なんだか忙しそうだったし、きみも気にしなくて良いのに」
「書類上だったとしても、わたし達は婚約者になるんだからもっと頼ってよ」と、彼女は少し拗ねた様子で口を尖らせた。
×
アザレアに手を引かれ、フォラクスは食堂へ連れて行かれる。そこには、いくつかの食事が皿に盛られ、用意されていた。
「…………此れは」
「山鳥のハーブ焼き、だよ」
戸惑いながらフォラクスが問いかけると、自信たっぷりにアザレアは答える。
「……山鳥」
「うん。丁度、昨日獲れて絞めてたの。ちょうど柔らかくなって食べごろだったし」
「然様ですか」
昨日、薬草を採取しに行き、そのついでに張っていた罠に山鳥がかかっていたらしい。普通の女学生は、(無論のこと男子学生でも、)山鳥を絞められる者などそういるものだろうか。
「いっぱい作ったから、遠慮なく食べてね」
そう告げ、アザレアは照れ臭そうにはにかんだ。
薬草を詰めたものとレトルト食品を詰め込んだ昼食を摂っていた者とは思えない食事である。(失礼ながらも。)
じっとアザレアが見つめるので、フォラクスは差し出されたものを口に運ぶ。
「……どう?」
咀嚼をすると薬草や香草、山鳥の肉の風味が広がる。きつくもなく、薄くもない具合だ。
味も悪くはない。肉も、程よい柔らかさだった。
気が付けば、皿の上のものはすっかり無くなっている。
「……未だ、有りますか」
「うん、あるよ!」
おかわりを願い出てみれば、アザレアは嬉しそうな顔でハーブ焼きをもう一つ、他の料理などを調理場から持ってきた。
「きみはいっぱい食べるから、いっぱい作ったんだ。だから、味が合わなかったらどうしようかな……って」
大丈夫みたいで本当によかった、と頬を染めて言うのだ。
「…………とても、美味しゅう御座います」
フォラクスはアザレアに微笑む。
なぜか酷く感情が揺すられ、上手く笑えない気がした。
アザレアは差し出した料理をフォラクスが黙々と食べるその様子を見て、
「(こういうお肉とか食べ応えあるやつが好きなのかな)」
と、なんとなく思っていたのだった。
×
「あのね、今回の冬休みは……きみのおうちに泊まろうかなって、思ったんだ」
食事を片付けながら、アザレアは告げる。「片付けもわたしがやるの!」と言われたのでフォラクスは手持ち無沙汰となり、仕方なしに書物を読んでいた。
「……そうですか」
フォラクスは顔を上げ、アザレアに視線を向ける。と、その珊瑚珠色の目と視線が合った。
「あ、儀式とかであんまりいられないんだっけ?」
「…………居ても何の面白味は無いかと」
首を傾げるその真っ直ぐな眼差しに気まずくなり、フォラクスは視線を逸らす。なぜだか最近、彼女といると調子が狂うようだ、と、なんとなしにフォラクスは思った。
「面白さは別に求めてないよ。きみと一緒に……じゃなくて、ほら。研究出来るし」
「成程。研究を行う必要が有る成らば仕方有りませんね」
『一緒に過ごしたかった』と正直に言うのが恥ずかしくなり、頬を少し赤らめながら咄嗟に思いついた理由をアザレアは言う。
「……なんで、そっちならあっさり納得してくれるのかな」
「何か?」
「んーん。なんでもない」
とりあえず、アザレアは『冬休み中は研究をする』という名目でフォラクスの元へ泊まりに行く事になった。
その旨を家族に連絡をすると
「あなたの思うようにしなさいね」
と言われたので、大丈夫だろう。
「(……それに、あの人も『居てもいい』って、いってくれたからいいや)」
居ること自体の拒絶はされていないのだから。
そして、冬休み前に
「今回はお家には帰らないつもりだから、駅まで見送りしなくてもいいよ」
と友人達に告げると、友人Aに
「婚約者のところに行くの?」
と揶揄われた。
「うん。いてもいいって。それに、研究の材料も置かせてもらってるから、研究もできる!」
と答えると、友人達は『やっぱりね』と言いた気に苦笑いをする。
少しその2が「婚約者とはいえ男性と二人っきりなんて、と」不安そうにしていたが、友人A、友人B共に気にしていない様子だったのでそのまま見送った。
フォラクスはアザレアに訊き返す。信じられないものを聞いた心地だった。
「うん。……余計なこと、だったかな」
頷いた後、アザレアは不安そうに首を傾げる。家のものを勝手に触られたくなかったのかな、とか食材庫の中を見られたくなかったのかな、と彼女は気になったのだ。
「いえ、有難う御座います」
それをフォラクスは微笑み、感謝を述べる。家のものを勝手に触られるのは彼女なら平気だったし、食材庫の中を見られるのはどうでも良かった。
「不便などは有りませんでしたか」
ただ、調理場の天板が高かったであろうことや、手が届かないものもあっただろうことが気になっていたのだ。
「うん。何とかなったよ」
天板が高くとも調理はできるし、手が届かないところにあったものも台とかに乗ったら取れるから、と彼女は答える。
「最近なんだか忙しそうだったし、きみも気にしなくて良いのに」
「書類上だったとしても、わたし達は婚約者になるんだからもっと頼ってよ」と、彼女は少し拗ねた様子で口を尖らせた。
×
アザレアに手を引かれ、フォラクスは食堂へ連れて行かれる。そこには、いくつかの食事が皿に盛られ、用意されていた。
「…………此れは」
「山鳥のハーブ焼き、だよ」
戸惑いながらフォラクスが問いかけると、自信たっぷりにアザレアは答える。
「……山鳥」
「うん。丁度、昨日獲れて絞めてたの。ちょうど柔らかくなって食べごろだったし」
「然様ですか」
昨日、薬草を採取しに行き、そのついでに張っていた罠に山鳥がかかっていたらしい。普通の女学生は、(無論のこと男子学生でも、)山鳥を絞められる者などそういるものだろうか。
「いっぱい作ったから、遠慮なく食べてね」
そう告げ、アザレアは照れ臭そうにはにかんだ。
薬草を詰めたものとレトルト食品を詰め込んだ昼食を摂っていた者とは思えない食事である。(失礼ながらも。)
じっとアザレアが見つめるので、フォラクスは差し出されたものを口に運ぶ。
「……どう?」
咀嚼をすると薬草や香草、山鳥の肉の風味が広がる。きつくもなく、薄くもない具合だ。
味も悪くはない。肉も、程よい柔らかさだった。
気が付けば、皿の上のものはすっかり無くなっている。
「……未だ、有りますか」
「うん、あるよ!」
おかわりを願い出てみれば、アザレアは嬉しそうな顔でハーブ焼きをもう一つ、他の料理などを調理場から持ってきた。
「きみはいっぱい食べるから、いっぱい作ったんだ。だから、味が合わなかったらどうしようかな……って」
大丈夫みたいで本当によかった、と頬を染めて言うのだ。
「…………とても、美味しゅう御座います」
フォラクスはアザレアに微笑む。
なぜか酷く感情が揺すられ、上手く笑えない気がした。
アザレアは差し出した料理をフォラクスが黙々と食べるその様子を見て、
「(こういうお肉とか食べ応えあるやつが好きなのかな)」
と、なんとなく思っていたのだった。
×
「あのね、今回の冬休みは……きみのおうちに泊まろうかなって、思ったんだ」
食事を片付けながら、アザレアは告げる。「片付けもわたしがやるの!」と言われたのでフォラクスは手持ち無沙汰となり、仕方なしに書物を読んでいた。
「……そうですか」
フォラクスは顔を上げ、アザレアに視線を向ける。と、その珊瑚珠色の目と視線が合った。
「あ、儀式とかであんまりいられないんだっけ?」
「…………居ても何の面白味は無いかと」
首を傾げるその真っ直ぐな眼差しに気まずくなり、フォラクスは視線を逸らす。なぜだか最近、彼女といると調子が狂うようだ、と、なんとなしにフォラクスは思った。
「面白さは別に求めてないよ。きみと一緒に……じゃなくて、ほら。研究出来るし」
「成程。研究を行う必要が有る成らば仕方有りませんね」
『一緒に過ごしたかった』と正直に言うのが恥ずかしくなり、頬を少し赤らめながら咄嗟に思いついた理由をアザレアは言う。
「……なんで、そっちならあっさり納得してくれるのかな」
「何か?」
「んーん。なんでもない」
とりあえず、アザレアは『冬休み中は研究をする』という名目でフォラクスの元へ泊まりに行く事になった。
その旨を家族に連絡をすると
「あなたの思うようにしなさいね」
と言われたので、大丈夫だろう。
「(……それに、あの人も『居てもいい』って、いってくれたからいいや)」
居ること自体の拒絶はされていないのだから。
そして、冬休み前に
「今回はお家には帰らないつもりだから、駅まで見送りしなくてもいいよ」
と友人達に告げると、友人Aに
「婚約者のところに行くの?」
と揶揄われた。
「うん。いてもいいって。それに、研究の材料も置かせてもらってるから、研究もできる!」
と答えると、友人達は『やっぱりね』と言いた気に苦笑いをする。
少しその2が「婚約者とはいえ男性と二人っきりなんて、と」不安そうにしていたが、友人A、友人B共に気にしていない様子だったのでそのまま見送った。
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