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三年目
135:『愛』とは。
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思いの外早く戻ったフォラクスに、アザレアの頬が緩む。
「やっぱり。きみは、優しいね」
お茶を飲みながら、ふと思った言葉が溢れたが
「……其れは。貴女の、気の所為では」
と、フォラクスは嫌そうに顔をしかめただけだった。
だけれど、そのしかめた顔は他の感情を隠したもののように思える。根拠はなく、そんな気がしただけだ。
でも、アザレアが体を動かし難く思っていたことや色々を察してくれ、先回りしてさりげなく助けてくれるのは優しくないとできないことだと彼女は考えていた。
それからなぜか、フォラクスに屋敷にあるアザレア自身の部屋まで運んでもらい、ベッドにそっと寝かされる。そして安静にするように注意された。
そのあとに貰った魔力水や簡易的な食事などのおかげで、なんとなく辛かった体が楽になった。
「(……冬休みが終わるまで会えないかも、って思ってたけどよかった)」
会えて、心底安心したのだ。これでもう、寂しくない。
布団を肩まで被り、アザレアは目を閉じた。
次の日。
この日は冬季休暇の最終日だったので、アザレアは魔術アカデミーの寮に帰る。中々彼と話すことができなかったのでかなり名残惜しかった。だが帰る際に「会おうと思えば何時でも会えるでしょう」とフォラクスが言ってくれたので、気にしないことにする。
それは『いつ来ても同じだから』という、今までとは違う意味を持っているのだとアザレアは捉えた。それ以外に意味があるだろうか。『いつでも会いに来て良い』と言ってくれたように思えて、物凄く嬉しかった。
初日と同様に、帰り道では木の札を用いないのでフォラクスに寮の近くまで送ってもらった。
「きみは、『何の面白味も無い』っていってたけど、わたしはとっても楽しかったよ。ありがとう!」
別れる前に、アザレアはフォラクスに感謝と述べる。
「……然様で御座いますか。貴女は物好きですねぇ」
フォラクスはそう返したが、少し口元が微笑んでいるように見えた。
そして、学生生活最後の冬休みは明ける。
休み明けにあった、研究内容の中間発表を無事に終える。
『夢見草の花』の研究だと聞かされた教師達は驚きと呆れ、興味など様々な反応を返した。
×
「はい、お菓子」
冬休みが終わってから少し経った、とある休日。
唐突に、フォラクスはアザレアから箱を差し出される。
「……はい?」
本から顔を上げると、アザレアの珊瑚珠色の丸い目と視線が合った。
「ほら、今日は『愛の日』だし!」
「……嗚呼。其の様な日でしたね」
にっこりと笑みを浮かべるアザレアから目を逸らし、フォラクスは言葉を零す。気まぐれで自室でなく居間で読書を行っていたので、丁度良いと思われたのだろう。
「もちろん『あげたい』って思ったからあげるんだからね」
「…………然様で御座いますか」
義務感じゃないよと、アザレアは牽制する。
「うん。受け取ってくれると嬉しいな」
差し出された菓子は、またもや手作りの物のようだ。
「……受け取りましょう」
期待を含む真っ直ぐな視線に耐えかね、フォラクスはアザレアから菓子受け取る。そう言われたのだから、仕方ない。
「どうしたの?」
受け取った後、何か考える様に視線を彷徨わせたフォラクスに、アザレアは首を傾げた。
「……貴女は、『愛』とは何だと思いますか」
ゆっくりとフォラクスは口を開く。
「ん、『愛』? なんで聞くの?」
「折角、本日が『愛』の名を冠する日ですので」
不思議そうな様子のアザレアを見ながら、フォラクスはいつものように起伏の少ない声で続けた。
「んー。私が思う『愛』……は」
少し考え、アザレアは答える。
「『好き』って気持ちかな」
『好き』という単語にフォラクスは一瞬、反応したが、何と言おうかと考えているアザレアは気付かない。
「愛を向けてる、その相手に『なにかをしてあげたいな』って思うんだ」
アザレア自身も、フォラクスに『なにかをしてあげたい』という気持ちを持っている。勿論、友人達にもその気持ちを持ち合わせているものの、フォラクスへ思う感情とは何かが違うとなんとなく感じていた。
「それに、逆になにかをしてもらうとすっごく嬉しい気持ちになるの」
冬季休暇の事を思い出し、アザレアは少し頬を染める。
「きみは?」
せっかく訊かれたのだから、というか答えたので、アザレアはフォラクスの思う『愛』について知りたくなった。
「……私には、『愛』等分かりませぬ」
しかし、思いもよらぬ返答があった。『愛がわからない』なんてことがあるのかと、アザレアは衝撃を受ける。そして、それを知らなかった自分は幸せな環境に居たのだと、思い知った。
「誰かを『愛おしく思う』『大切に思う』感情であるのは理解して居りますが」
フォラクスは何かを思い出すかのように、少し遠くを見ながら言う。
「『愛』を、今迄に向けられた事が無いもので」
そう答えるとフォラクスは本を持って立ち上がり、自室に戻ってしまった。
「やっぱり。きみは、優しいね」
お茶を飲みながら、ふと思った言葉が溢れたが
「……其れは。貴女の、気の所為では」
と、フォラクスは嫌そうに顔をしかめただけだった。
だけれど、そのしかめた顔は他の感情を隠したもののように思える。根拠はなく、そんな気がしただけだ。
でも、アザレアが体を動かし難く思っていたことや色々を察してくれ、先回りしてさりげなく助けてくれるのは優しくないとできないことだと彼女は考えていた。
それからなぜか、フォラクスに屋敷にあるアザレア自身の部屋まで運んでもらい、ベッドにそっと寝かされる。そして安静にするように注意された。
そのあとに貰った魔力水や簡易的な食事などのおかげで、なんとなく辛かった体が楽になった。
「(……冬休みが終わるまで会えないかも、って思ってたけどよかった)」
会えて、心底安心したのだ。これでもう、寂しくない。
布団を肩まで被り、アザレアは目を閉じた。
次の日。
この日は冬季休暇の最終日だったので、アザレアは魔術アカデミーの寮に帰る。中々彼と話すことができなかったのでかなり名残惜しかった。だが帰る際に「会おうと思えば何時でも会えるでしょう」とフォラクスが言ってくれたので、気にしないことにする。
それは『いつ来ても同じだから』という、今までとは違う意味を持っているのだとアザレアは捉えた。それ以外に意味があるだろうか。『いつでも会いに来て良い』と言ってくれたように思えて、物凄く嬉しかった。
初日と同様に、帰り道では木の札を用いないのでフォラクスに寮の近くまで送ってもらった。
「きみは、『何の面白味も無い』っていってたけど、わたしはとっても楽しかったよ。ありがとう!」
別れる前に、アザレアはフォラクスに感謝と述べる。
「……然様で御座いますか。貴女は物好きですねぇ」
フォラクスはそう返したが、少し口元が微笑んでいるように見えた。
そして、学生生活最後の冬休みは明ける。
休み明けにあった、研究内容の中間発表を無事に終える。
『夢見草の花』の研究だと聞かされた教師達は驚きと呆れ、興味など様々な反応を返した。
×
「はい、お菓子」
冬休みが終わってから少し経った、とある休日。
唐突に、フォラクスはアザレアから箱を差し出される。
「……はい?」
本から顔を上げると、アザレアの珊瑚珠色の丸い目と視線が合った。
「ほら、今日は『愛の日』だし!」
「……嗚呼。其の様な日でしたね」
にっこりと笑みを浮かべるアザレアから目を逸らし、フォラクスは言葉を零す。気まぐれで自室でなく居間で読書を行っていたので、丁度良いと思われたのだろう。
「もちろん『あげたい』って思ったからあげるんだからね」
「…………然様で御座いますか」
義務感じゃないよと、アザレアは牽制する。
「うん。受け取ってくれると嬉しいな」
差し出された菓子は、またもや手作りの物のようだ。
「……受け取りましょう」
期待を含む真っ直ぐな視線に耐えかね、フォラクスはアザレアから菓子受け取る。そう言われたのだから、仕方ない。
「どうしたの?」
受け取った後、何か考える様に視線を彷徨わせたフォラクスに、アザレアは首を傾げた。
「……貴女は、『愛』とは何だと思いますか」
ゆっくりとフォラクスは口を開く。
「ん、『愛』? なんで聞くの?」
「折角、本日が『愛』の名を冠する日ですので」
不思議そうな様子のアザレアを見ながら、フォラクスはいつものように起伏の少ない声で続けた。
「んー。私が思う『愛』……は」
少し考え、アザレアは答える。
「『好き』って気持ちかな」
『好き』という単語にフォラクスは一瞬、反応したが、何と言おうかと考えているアザレアは気付かない。
「愛を向けてる、その相手に『なにかをしてあげたいな』って思うんだ」
アザレア自身も、フォラクスに『なにかをしてあげたい』という気持ちを持っている。勿論、友人達にもその気持ちを持ち合わせているものの、フォラクスへ思う感情とは何かが違うとなんとなく感じていた。
「それに、逆になにかをしてもらうとすっごく嬉しい気持ちになるの」
冬季休暇の事を思い出し、アザレアは少し頬を染める。
「きみは?」
せっかく訊かれたのだから、というか答えたので、アザレアはフォラクスの思う『愛』について知りたくなった。
「……私には、『愛』等分かりませぬ」
しかし、思いもよらぬ返答があった。『愛がわからない』なんてことがあるのかと、アザレアは衝撃を受ける。そして、それを知らなかった自分は幸せな環境に居たのだと、思い知った。
「誰かを『愛おしく思う』『大切に思う』感情であるのは理解して居りますが」
フォラクスは何かを思い出すかのように、少し遠くを見ながら言う。
「『愛』を、今迄に向けられた事が無いもので」
そう答えるとフォラクスは本を持って立ち上がり、自室に戻ってしまった。
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