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三年目
136:『愛』とは
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アザレアがアカデミーの寮へ行くために屋敷内にある部屋に戻ると、薄紅色の花が2、3つ咲いた枝が一枝、机の上に置かれていた。
「ん、すっごくいい匂い」
顔を寄せていないのに、周囲にはその花のものらしき甘く爽やかな香りが広がっていた。紅い蕾がいくつかついているので、うまく生ける事ができれば蕾を咲かせられるかもしれない。
「(雪がひどくなる前に準備しなきゃ)」
と、思ったものの、この枝の花の正体をアザレアは知らなかった。
「ねー、このお花なーに? すっごくいい匂いなんだけど」
アザレアはフォラクスの部屋まで行き、閉じた戸の前で問いかける。
「……香花の木です。庭に僅かばかりですが、咲いておりましたので」
戸の奥からそう、憂鬱そうな声で返事が聞こえた。
「お庭? いろんな木やお花ある?」
訊きながらアザレアは、この屋敷の庭へ、様子を見に一度も出ていない事に気付いたのだ。
「えぇ、花の咲く木等が少々。春の辺りには美しい花を咲かせるものが幾つか」
秋に葉が色付くものも在りますね、とフォラクスは返す。
「そっかー。春になったら一緒に観にいきたいな」
折角ならばフォラクスと共に行きたいと、アザレアは提案をしてみた。
「……そうですね。その時は木の下迄連れて差し上げましょう」
「うん! 楽しみにしとくね」
一緒に行ってくれるようで、その返事に目を輝かせる。
「……然様ですか」
「お花ありがと! 大事にする」
「…………寮には、戻られないのですか」
とうとう、フォラクスは戸を開けた。
寮に帰りそうな様子を見せたくせに、何故か未だに屋敷内、しかもフォラクスの部屋の前に居座っているのだ。
「ふふふ、開けてくれたね」
すると、香花の木の枝を持ったアザレアが、悪戯が成功した子供の様な笑顔を浮かべる。
「じゃ、きみの顔も見られたし寮に戻るね。ばいばい」
「……はい、また」
戸を開けた途端、あっさりと去って行く彼女のその後姿に、してやられた、とフォラクスは溜息を吐いた。
×
『此れ依り春迄、儀式の用意で忙しいので連絡を受け取る事が出来ませぬ。連絡は春を迎えてからにして下さいまし』
愛の日から少し経った日に、フォラクスからそんな連絡が入る。
彼からの連絡なんて珍しいな、と思っていたらそんな内容だった。
「(……まあ、そういう職業なのは知ってるけどさ)」
ちょっとだけわくわくしてしまった気持ちを返してほしいと思いながら、アザレアは連絡の切れた端末を見下ろす。連絡気をずっと見ていたって何も変わらないので、小さく溜息をついてから仕舞った。
それから少しして、アザレアの元へ、フォラクスから何か荷物が届けられる。
やけに大きくて重かったので、友人達に助けを求めて運んでもらう。ギリギリ、寮の出入り口の扉を通る厚さだった。
「……あら、なんだか良い匂いがするわね?」
部屋に入った時、友人Aは首を傾げる。
「本当だ。薬草じゃなくて、なんか上品な匂いする」
友人Bも、それに同意するように頷いた。
「…………梅、みたいな匂いです?」
その2も不思議そうに周囲を見回す。
「ん、『うめ』ってのはよくわかんないけど、『香花の木』をもらったんだ」
プレゼントの箱を置いた後、アザレアは生けてある枝を友人達に見せる。
「珍しいわね、あなたが木を育てるなんて」
「あ、呪猫によくある木か」
「……綺麗ですねぇ」
友人A、友人B、その2はそれぞれの感想を言う。
「えへへ。婚約者の人からもらったんだー」
そう、ふにゃっとしたアザレアの柔らかい笑みを見て、なんとなく砂糖を吐くような心地になった3人だった。
「……で、あなたの婚約者から贈られた箱の中身は何かしら?」
「なんだろ? 『愛を返す日』のプレゼントかな?」
友人Aに急かされ、アザレアは箱を開ける。
友人達は手伝う代わりに中身を見せろと言ってきたのだ。どうしても人手が欲しかったので、アザレアはそれを許可した。
「……布?」
アザレアは首を傾げる。
明るくも落ち着いた雰囲気の、橙色の肌触りの良い布だった。
「もしかして、服じゃない?」
友人Aに言われ、アザレアは引っ張り出してみる。
「……ほんとだ」
中身はドレスだった。
「靴とアクセサリーも入ってるっぽいよ?」
中身を見ながら、友人Bは言う。
「あ、お手紙が入ってますよー」
その2が首を傾げる。
「ええと……『貴女の卒業式の為に用意した服一式です。貴女の肌では貸出の服だと合わずに肌を痛めるでしょうから、柔らかい生地のもので拵えました。また、成る可く魔力を通し難い布、構造に致しました。靴や装飾品等も其れに合わせております。気になる箇所や質問があれば連絡を』だそうです」
その2は手紙を取り出し、アザレアに見せた。
「『恐らく御学友の方達と箱を開けていらっしゃるでしょうから、時間があれば合わせてみなさい』とも書いてありますね?」
「え、箱を一緒に運んでもらったのばれてる……」
アザレアは口を尖らせた。
「ん、すっごくいい匂い」
顔を寄せていないのに、周囲にはその花のものらしき甘く爽やかな香りが広がっていた。紅い蕾がいくつかついているので、うまく生ける事ができれば蕾を咲かせられるかもしれない。
「(雪がひどくなる前に準備しなきゃ)」
と、思ったものの、この枝の花の正体をアザレアは知らなかった。
「ねー、このお花なーに? すっごくいい匂いなんだけど」
アザレアはフォラクスの部屋まで行き、閉じた戸の前で問いかける。
「……香花の木です。庭に僅かばかりですが、咲いておりましたので」
戸の奥からそう、憂鬱そうな声で返事が聞こえた。
「お庭? いろんな木やお花ある?」
訊きながらアザレアは、この屋敷の庭へ、様子を見に一度も出ていない事に気付いたのだ。
「えぇ、花の咲く木等が少々。春の辺りには美しい花を咲かせるものが幾つか」
秋に葉が色付くものも在りますね、とフォラクスは返す。
「そっかー。春になったら一緒に観にいきたいな」
折角ならばフォラクスと共に行きたいと、アザレアは提案をしてみた。
「……そうですね。その時は木の下迄連れて差し上げましょう」
「うん! 楽しみにしとくね」
一緒に行ってくれるようで、その返事に目を輝かせる。
「……然様ですか」
「お花ありがと! 大事にする」
「…………寮には、戻られないのですか」
とうとう、フォラクスは戸を開けた。
寮に帰りそうな様子を見せたくせに、何故か未だに屋敷内、しかもフォラクスの部屋の前に居座っているのだ。
「ふふふ、開けてくれたね」
すると、香花の木の枝を持ったアザレアが、悪戯が成功した子供の様な笑顔を浮かべる。
「じゃ、きみの顔も見られたし寮に戻るね。ばいばい」
「……はい、また」
戸を開けた途端、あっさりと去って行く彼女のその後姿に、してやられた、とフォラクスは溜息を吐いた。
×
『此れ依り春迄、儀式の用意で忙しいので連絡を受け取る事が出来ませぬ。連絡は春を迎えてからにして下さいまし』
愛の日から少し経った日に、フォラクスからそんな連絡が入る。
彼からの連絡なんて珍しいな、と思っていたらそんな内容だった。
「(……まあ、そういう職業なのは知ってるけどさ)」
ちょっとだけわくわくしてしまった気持ちを返してほしいと思いながら、アザレアは連絡の切れた端末を見下ろす。連絡気をずっと見ていたって何も変わらないので、小さく溜息をついてから仕舞った。
それから少しして、アザレアの元へ、フォラクスから何か荷物が届けられる。
やけに大きくて重かったので、友人達に助けを求めて運んでもらう。ギリギリ、寮の出入り口の扉を通る厚さだった。
「……あら、なんだか良い匂いがするわね?」
部屋に入った時、友人Aは首を傾げる。
「本当だ。薬草じゃなくて、なんか上品な匂いする」
友人Bも、それに同意するように頷いた。
「…………梅、みたいな匂いです?」
その2も不思議そうに周囲を見回す。
「ん、『うめ』ってのはよくわかんないけど、『香花の木』をもらったんだ」
プレゼントの箱を置いた後、アザレアは生けてある枝を友人達に見せる。
「珍しいわね、あなたが木を育てるなんて」
「あ、呪猫によくある木か」
「……綺麗ですねぇ」
友人A、友人B、その2はそれぞれの感想を言う。
「えへへ。婚約者の人からもらったんだー」
そう、ふにゃっとしたアザレアの柔らかい笑みを見て、なんとなく砂糖を吐くような心地になった3人だった。
「……で、あなたの婚約者から贈られた箱の中身は何かしら?」
「なんだろ? 『愛を返す日』のプレゼントかな?」
友人Aに急かされ、アザレアは箱を開ける。
友人達は手伝う代わりに中身を見せろと言ってきたのだ。どうしても人手が欲しかったので、アザレアはそれを許可した。
「……布?」
アザレアは首を傾げる。
明るくも落ち着いた雰囲気の、橙色の肌触りの良い布だった。
「もしかして、服じゃない?」
友人Aに言われ、アザレアは引っ張り出してみる。
「……ほんとだ」
中身はドレスだった。
「靴とアクセサリーも入ってるっぽいよ?」
中身を見ながら、友人Bは言う。
「あ、お手紙が入ってますよー」
その2が首を傾げる。
「ええと……『貴女の卒業式の為に用意した服一式です。貴女の肌では貸出の服だと合わずに肌を痛めるでしょうから、柔らかい生地のもので拵えました。また、成る可く魔力を通し難い布、構造に致しました。靴や装飾品等も其れに合わせております。気になる箇所や質問があれば連絡を』だそうです」
その2は手紙を取り出し、アザレアに見せた。
「『恐らく御学友の方達と箱を開けていらっしゃるでしょうから、時間があれば合わせてみなさい』とも書いてありますね?」
「え、箱を一緒に運んでもらったのばれてる……」
アザレアは口を尖らせた。
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