薬術の魔女の結婚事情【リメイク】

月乃宮 夜見

文字の大きさ
165 / 200
同棲生活

165:確認

しおりを挟む
「お、おかえり。……いつのまに帰ってきてたの?」

 驚きながらもフォラクスを振り返り、問いかけた。彼は宮廷魔術師の仕事着のままそこにおり、腕を組みラファエラの様子を観察するように見下ろしている。
 深い緑色の目が凪いだ水面の様に静かで、周囲の温度が下がったかのような心地になった。

ですが」

じっとシートの上の造形された粘土達を眺め、やや憮然とした様子でフォラクスは答える。

「そっか。……ちゃんとお顔合わせられたのって、結構久しぶりな気がするね?」

なんで不機嫌なのだろうか、と内心で首を傾げながらラファエラは彼に近寄った。すると、なぜか彼は更に眉をひそめる。

「……何故、其れを作っていらっしゃるのか伺っても宜しいか」

 彼女を見下ろしつつ、フォラクスは更に問いかけた。静かな声であるものの、圧力を感じさせるものだった。
 彼のその様子で、ラファエラは自身が何か悪いことをしてしまい、それを怒られているかのような気持ちになる。
 まるで、浮気を咎められているような、妙な心地だ。(無論、そんな経験はないのだが。)

「えーっと、仕事の手が足りないかもって思って」

 えへへ、と悪戯が見つかった子供のように、はにかみながらラファエラは彼に答えた。
 表面上は普段通り、今までにフォラクスと対峙した時と同様の態度で対応する。だが、内心では突然向けられた彼の咎めるような態度に、不快な気持ちになっていた。
 怒りのような、少し、寂しいような。

「……仕事の手が不足しているの成らば、雇えば良いのでは」

 人手不足の話をすると、彼は氷像のように冷たく澄ました顔で提言する。

欲しかったの。それに、きみの式神を使うわけにもいかないでしょ?」

 やや強めの語気で尋ねると、フォラクスは組んでいた腕をゆっくりと解き、思考を巡らせるように少し目を僅かに動かした。
 店を始める前は、最初の開店記念の1週間を終わらせた後は店のことはすべて一人でする予定だった。なので、ラファエラは人を雇う方法など、あまり考えていなかったのだ。

「……れで、泥人形ゴーレム等を?」

フォラクスの視線は再び、ラファエラが触っていた粘土の方へ向いた。

「うん。思ったより簡単にできちゃった」

 現状はまだ粘土は乾いていないし試運転もしていないのだが、起動させれば間違いなく動くだろうという確信があったのだ。

「…………然様ですか」

 はぁ、と彼は更に深く、長く溜息を吐く。今度は呆れが混ざっているような気がした。

「聞いておりませんが」

 フォラクスは、じ、とラファエラの顔を見る。

「そりゃあ顔も合わせてないんだから、聞かせる暇もなかったよね?」

まだ問い詰めが続くのか、と彼女は口を尖らせる。すると一瞬、は、と何かに気付いた様子で少し目を見開き、フォラクスの視線が動揺したかのように揺れた。
 それに構わず、きっ、とラファエラはフォラクスを見上げ

「あと、顔を合わせられたから言うけど。たまには、夕飯や自分の服の洗濯くらいは自分でやりたい。せめて、自分の服の洗濯はやらせて」

と自分の意見をつける。

「……わたくしでは、力不足でしたか」

 少しして、見当違いな返答があった。ん? とラファエラは口を軽く結ぶ。

「私の式神では、貴女の満足いく様な提供を行えませんでしたか」
「……………なんでそうなるの?」

 眉間にぐっとしわを寄せ、彼女は言葉を零した。内心では「はぁ?」と言いたかったが、がんばってこらえる。
 そして、なんとなく『ここでちゃんと言葉で意図を伝えるべきだ』と直感が働き、

「違うの。きみの手を借りっぱなしだといけないって思ったの」

そう言い切った。

「……気にしなくとも」

「わたしが気にするんだよ」

なぜか次は拗ねたらしいフォラクスの食い下がりも、ばっさりと切り捨てる。

「…………分かりました」
「なんでそんな嫌そうな顔するの」

 そういったやりとりはあったものの、どうにかフォラクスは納得してくれたようで、それからはな世話焼きは少しだけましになったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...