仮の面はどう足掻いても。

月乃宮 夜見

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とりあえず、昔話の子(ねずみ)って用意周到だよね。そして丑ってば寛容。

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 『子』がその役名を呼び手で示した最上位幹部達は一様に、自身の読み方と同じ動物を象った面を顔に付けていた。

 並ぶ最上位幹部達の白い仮面は、顔を全て覆う形状で目の周辺や口元、頬や額等に特殊な紋様が描かれている。 紋様には各最上位幹部の色と、最上位幹部のみが使える純黒の色が使われており、形状は違えども似た雰囲気のデザインになっているらしかった。

 良く見れば『申』の仮面のデザインが、少し変化している事に気が付いた(酉は、初めに見たペストマスク風の仮面に戻っていたが)。 そう言えば先程『酉』が面の形状を変化させていたので、他の最上位幹部も面の形状を変えられるのかもしれない。 そう卯は思った。

 兎に角、案内してくれた鳥面の男が『酉』、一緒に居た猿面の男が『申』だと、卯は理解した。

「へー、アイツが例の」

と、申は紹介が終わった時にそう呟いていたものの、酉の方は反応を示さなかったので、恐らく知っていたか興味がなかったかのいずれかなのだろう。

「用事は済んだよん。帰りたかったら帰ってドーゾ」

子はそう言うなり席を立ち、卯の側まで来ると、くいくいと手を引く。

「さ、キミはこっちだよん」


×


 会議室を出ると、子は仮面に触れゴツいパイロットゴーグルの形状へ変化させた。

「堅苦しいのって窮屈だよねん」

うーん、と子は伸びをする。 どうやら、先程会議室で見た最上位幹部達の仮面は、所謂いわゆる『正装』のようなものだったようだ。 普段は各々おのおので好きな形状、または楽な形状にしているのだと子は教えてくれた。

「卯っち。 キミは以前から施設(ここ)は使ったことあるだろうし、事前に手紙である程度の説明もしたから詳細は省くけど、これからちゃんとした最上位幹部になってもらうために渡すものとか色々やっておかなきゃいけないことがあるんだよん」

 子の言葉に卯はしっかり頷く。 ……『卯っち』?

「まずはアタシの研究所で、一番大事なもの渡さなきゃねん」

 不思議な呼び方に構うことなく子は思考しながら言葉を続ける。 子は自身の研究所持ち場まで卯を連れて行くつもりらしい。 何を渡されるのだろうかと、卯は少し緊張していた。 そして、子の様子を確認するために、視線を上げた。 何故だか、子は大柄な丑の肩に座っていたのだ。

 丑は背が高く、体格もしっかりした偉丈夫だ。 短く切った髪は大抵根元は黒っぽく、先に行くに連れて白くなるような不思議な色合いをしている。 現在付けている仮面は縦半分隠れたものファントムマスク目元のみ隠すものドミノマスクを足したような形状で、顳顬こめかみの辺りに鬼の角のようなものが生えていた。


 卯の不思議そうな顔に気が付いたのか、

「アタシは小柄だから、施設ここ1人で歩き回るの疲れるし時間かかるんだよねん」

子はそう言った。 それは丑に乗せてもらうのはいつものことだということか。

「寅っちや辰っち、午っち、未っち、亥っちとか乗せてくれるよん」

どうやら、子は自身の同僚を足代わりに使っているらしい。 そして先程の不思議な呼称は子のいつも通りの呼び方なのだろうと、卯は一人で納得した。

「……子は小さくて軽いから、乗っても誰も気にしないだけだ」

 急に降って来た低い声に驚き、卯は思わず飛び上がってしまった。 声の方に目を向けると、それは先程までずっと黙っていた丑だった。 無表情で此方を見下ろしている。

「こらこら、急に会話に入ってくるとみんなびっくりするっていつも言ってるでしょー」

子は丑の頭を軽くはたいた。 が、丑は全く気にしていないようだ。 視線を卯から外すと、丑は再び無言になった。

「時たま、申っちと戌っちも乗せてくれるけど、巳っちと酉っちは絶対に乗せてくれないんだよねん」

暇そうに子は足をぶらぶら揺らした。

「キミもやってみたら? ほら、反対側空いてるし」

とぺしぺし丑の肩をたたきながら誘われたが、卯は遠慮させてもらった。


×


 施設の中央部分から北の方角に真っ直ぐ進むと、子の研究所に着く。 施設の入り口は鬼門である『丑寅』の方角にあるために正面の出入り口から入ると、すぐ右手にある(右手というか、右手後方)。 もしかすると、小柄な子がすぐに自身の研究所に戻れるようになっているだけなのかもしれない。 研究所に着くや否や、子はひらりと軽い身のこなしで丑から降りた。 ……丑がどこかさみしそうに見えた気がしたが、きっと気のせいだろう。

「何か壊れたらアタシんトコ持っておいでよ。 凡人一般人より天才アタシが治した方が面白くできるから」

ドライバーを持って悪戯っ子のように「にひひ」と笑うその姿を見ると、なんだか余計な改造までされそうだと卯は思った。

「んで、コレがキミの異世界間転移装置」

子は白くて丸いものを取り出した。 大きさはてのひらに乗るくらいで、少し厚い。 どうやら、これが『渡さなきゃいけない大事なもの』のようだ。 

「これは特殊な石でね、詳しい仕組みは機密事項だから言えないんだけど、何処からでも自由に、『来たことある場所』になら、何処へでも行けるよん」

 最上位幹部の特権だねん、と卯に手渡した。 卯が今まで使っていた移動用の道具は特定の場所と組織にしか行けない仕様だったので、大変便利な物を貰ったようだ。

「これさえあれば、どんなに魔力がなくなっても子の研究所ここは帰れるよん」

「命の危険を感じた時とかすごい役に立つから最初に渡すんだよん」と子から渡され、受け取ったそれは思ったより軽く、触り心地がなめらかでうっかり落としてしまいそうだと、少し不安になる。

「ま、最低限起動させるための魔力穢れは要るんだけどねん」

そう言いつつ、子年は近くの箱をゴソゴソと探り始めた。

「あった!」

そう言うなり子は卯に振り返り、

「ペンダント、ブローチ、ブレスレット、色々加工出来るけど、どうする?」

そう訊いた。 加工するための道具を探していたらしい。 アクセサリーなどに加工することによって、紛失を避ける役割を持たせるのだろう。 卯は少し考え、

「……別に、いいわ」

そう言った。そして卯はケープの下から何かを取り出した。

 それは三角の耳を生やした、丸っこい『ねこ』だった。 表面はつるりとしていて、手足が短い。 『とりあえず生えておこう』とでも言いたげな尻尾は長くもなく短くもない、少々半端な長さだった。

「……ほぉ?」

興味深げに『ねこ』を覗き見る、子に

「『ねこ』がいるから」

そう言うなり、『ねこ』のかなり小さな口元に装置を充てた。 その瞬間、小さく魔法陣のようなものが浮かび、装置は消えてしまった。

「これなら失くさないわ」
「なるほど?」

自信有り気な卯に子は些か納得いかない顔をしていたが、「ま、アタシには関係ないか」と、深く考えるのを止めた。

「そういえばだけど、異世界間転移装置この石、緊急移動すると割れちゃうからねん」

もしそうなっちゃった時はだよん、と子は尖った歯並びを見せて笑った。

 どうやら、無料で貰えるのは一度きりらしい。
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