16 / 60
気 に し て た 。
しおりを挟む「ふぇ? 『幹部らしい貫禄』?」
もしゅもしゅと『草』を食みながら、未は卯の言葉をオウム返しする。
「え、オマエそれ本気にしてたのか」
申は驚いた様子で聞き返す。 卯が「別に。 そんなことないわ」と、ツンと顔をそらすと
「申くぅん~?」
少しほっぺを膨らました未が申に詰め寄る。
「悪かったって。 オマエもそんな気にすることねーよ?」
「別に、あなたの言葉は気にしてないの」
詰め寄る未の顔を両手で挟み込んで未の頬の空気を追い出す申に、卯は不機嫌に答える。
「私が、気にしてるのよ」
魔法少女に無礼られるから。 と言うと
「ふぅ~ん?」
「まあ、そうか」
と曖昧な返事を返された。 未のほうは多分本気で意味が分かっていないかもしれない。 首を傾げていたし。
「『なめる』って、卯ちゃんっておいしいの?」
「意味が違うんだよバカ」
「? よくわかんないよ、申くん」
×
食事処から出ると、先程と同じ処に午が居た。
「へぇ、届くはずの食糧が足りないって?」
次は酉も一緒に居た。
再び見かけた酉は、すっかり身支度を整えたようで身なりがいつも通りになっていた。
「そうなんですよ。 それで……」
何か話し込んでいるようだ。
「酉に調査してもらうのか。 俺も忙しくなるかもしれねーな」
申は完全に眠ってしまった未を背負い、溜息を吐く。
「基本的に俺は酉の補助をしてるんだよ」
不思議そうな卯の視線に申は答えた。
じゃあな、と未を部屋まで運ぶらしい申は卯に別れを告げ行ってしまった。 完全に暇になった卯は他の出会えそうな幹部に会いに行くことにした。
×
「……何かおかしい」
亥は頭を抱えていた。 最近、何故だか浄化されるもの達が増えている……気がする。 上位、中級の幹部は減っていないが、下級の構成員がなんだか見かける人数が少なくなった。 たとえ居なくなるもの達の増加が気のせいであっても、怪我人の数が増えているのは確かなことだ。
わざと浄化技を喰らう酉はいいとして、防御の高いはずの丑や寅も、珍しく怪我をして帰ってくる。 それは『魔法少女なら限りなく無理に近い不意打ち』とか、『死にそうになった部下を庇った』ことが理由だった。 まあ、らしいと言えば、らしいのか。
「おかしいですねー」
ガーゼを補充していた戌は呟く。 尤も、声が少し大きかったので全く独り言にはなっていなかった。
戌は何故だか亥の後を付いてくる。 『仮の面』の中でも、かなり強い部類に入るのだが。 『仮の面』に入る際にも、
「亥の舎弟にしてください!!」
とか言っていた。 お前はそれで良かったのか。
――それはともかく。
「消費量激し過ぎませんか」
戌は訊いてるような、そうでもないような大きさの声で言う。
「ガーゼもですけど、消毒液、包帯とか」
と指を折って数える。
「戌もそう思うんだね」
亥の声に、戌の耳がピン、と立ち此方を向いた。 やっぱり訊いていたのか。 普通に聞いてくれ。
「やっぱりですか?!」
そしてそのまま、勢いよく振り向いた。 動いた衝撃で周囲の積んであった箱が崩れていく。
「うわぁ!?」
バランスを崩し倒れた戌が箱に埋もれていくのを、亥はそのまま見送る。
「あーあ、アンタはそこで動くんじゃないよ」
音が完全に止まったところで、亥は猪の面で完全に覆われている頭で戌を呼び止める。
「はぁい……」
戌はしょぼん、と生えている犬耳を垂れさせ項垂れた。
亥が箱を退かし通り道を作ると、崩れた箱達から戌を救出する。 そうしてから、箱を元の位置に戻すのだ。 これ以上酷くなっても困る。
「あ¨り¨がどう¨ござい¨ま¨ず、ごの¨ご恩ば一生忘れ¨ま¨ぜん¨!」
と何故か感涙咽び泣いていたが、そんな事で恩なんて感じなくて良い。 忘れろ。 しかし、原因がアンタ自身に有った事は忘れるな。
亥が箱を拾っていると、小さな白い手が他の箱を拾っていくのが見えた。 顔を上げるとそれは、新しく幹部になった卯だった。
×
「「『幹部らしい貫禄』?」」
箱を全て片付け終わった後、卯は訊いてみた。 戌は首を捻って亥は訝しげな表情をつくる。
「ナイスバディとかじゃないですか。 ほら、あなた割と大きいですし」
意味ありげに手をわきわきと動かし『トランジスタ』っていうんでしたっけ?、という戌に
「てきとうな事を言うんじゃないよ」
亥は手刀をお見舞いする。
「あでっ」
「まったく、アンタは変なことしか言わないね」
溜息を吐く亥に、戌は嬉しそうに返事する。
「褒めてくださりありがとうございまーす!」
「褒めてはいないんだよ」
『トランジスタ』とは何だろうか。 卯は首をひねる。
「コイツの言葉は気にしなくて良い。 それに『幹部らしい貫禄』なんて、付けようと思って付くようなもんじゃないだろう」
亥の言葉に不承不承ながら頷く。 戌と亥は『仮の面』に所属する女性幹部だ。 卯はただ単に、何か良い案があるか訊いてみたかっただけだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる