仮の面はどう足掻いても。

月乃宮 夜見

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気 に し て た 。

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「ふぇ? 『幹部らしい貫禄』?」

 もしゅもしゅと『草』を食みながら、未は卯の言葉をオウム返しする。

「え、オマエそれ本気にしてたのか」

申は驚いた様子で聞き返す。 卯が「別に。 そんなことないわ」と、ツンと顔をそらすと

「申くぅん~?」

少しほっぺを膨らました未が申に詰め寄る。

「悪かったって。 オマエもそんな気にすることねーよ?」

「別に、気にしてないの」

詰め寄る未の顔を両手で挟み込んで未の頬の空気を追い出す申に、卯は不機嫌に答える。

が、気にしてるのよ」

魔法少女に無礼られるなめられるから。 と言うと

「ふぅ~ん?」

「まあ、そうか」

と曖昧な返事を返された。 未のほうは多分本気で意味が分かっていないかもしれない。 首を傾げていたし。

「『なめる』って、卯ちゃんっておいしいの?」
「意味が違うんだよバカ」
「? よくわかんないよ、申くん」


×


 食事処から出ると、先程と同じ処に午が居た。

「へぇ、届くはずの食糧が足りないって?」

 次は酉も一緒に居た。

 再び見かけた酉は、すっかり身支度を整えたようで身なりがいつも通りになっていた。

「そうなんですよ。 それで……」


何か話し込んでいるようだ。 

「酉に調査してもらうのか。 俺も忙しくなるかもしれねーな」

申は完全に眠ってしまった未を背負い、溜息を吐く。

「基本的に俺は酉の補助をしてるんだよ」

不思議そうな卯の視線に申は答えた。


 じゃあな、と未を部屋まで運ぶらしい申は卯に別れを告げ行ってしまった。 完全に暇になった卯は他の幹部に会いに行くことにした。


×


「……何かおかしい」

 亥は頭を抱えていた。 最近、何故だか浄化されるリタイアする達が増えている……気がする。 上位、中級の幹部は減っていないが、下級の構成員がなんだか見かける人数が少なくなった。 たとえ居なくなる達の増加が気のせいであっても、怪我人の数が増えているのは確かなことだ。

 わざと浄化技を喰らうバカはいいとして、防御の高いはずの丑や寅も、珍しく怪我をして帰ってくる。 それは『魔法少女なら限りなく無理に近い不意打ち』とか、『死にそうになった部下を庇った』ことが理由だった。 まあ、らしいと言えば、らしいのか。

「おかしいですねー」

ガーゼを補充していた戌は呟く。 尤も、声が少し大きかったので全く独り言にはなっていなかった。

 戌は何故だか亥の後を付いてくる。 『仮の面』の中でも、かなり強い部類に入るのだが。 『仮の面』に入る際にも、

アナタの舎弟にしてください!!」

とか言っていた。 お前はそれで良かったのか。


――それはともかく。

「消費量激し過ぎませんか」

戌は訊いてるような、そうでもないような大きさの声で言う。

「ガーゼもですけど、消毒液、包帯とか」

と指を折って数える。 

「戌もそう思うんだね」

亥の声に、戌の耳がピン、と立ち此方を向いた。 やっぱり訊いていたのか。 普通に聞いてくれ。

「やっぱりですか?!」

そしてそのまま、勢いよく振り向いた。 動いた衝撃で周囲の積んであった箱が崩れていく。 

「うわぁ!?」

バランスを崩し倒れた戌が箱に埋もれていくのを、亥はそのまま見送る。

「あーあ、アンタはそこで動くんじゃないよ」

音が完全に止まったところで、亥は猪の面で完全に覆われている頭で戌を呼び止める。

「はぁい……」

戌はしょぼん、と生えている犬耳を垂れさせ項垂れた。

 亥が箱を退かし通り道を作ると、崩れた箱達から戌を救出する。 そうしてから、箱を元の位置に戻すのだ。 これ以上酷くなっても困る。

「あ¨り¨がどう¨ござい¨ま¨ず、ごの¨ご恩ば一生忘れ¨ま¨ぜん¨!」

と何故か感涙咽び泣いていたが、そんな事で恩なんて感じなくて良い。 忘れろ。 しかし、原因がアンタ自身に有った事は忘れるな。

 亥が箱を拾っていると、小さな白い手が他の箱を拾っていくのが見えた。 顔を上げるとそれは、新しく幹部になった卯だった。


×


「「『幹部らしい貫禄』?」」

 箱を全て片付け終わった後、卯は訊いてみた。 戌は首を捻って亥は訝しげな表情をつくる。

「ナイスバディとかじゃないですか。 ほら、あなた割と大きいですし」 

意味ありげに手をわきわきと動かし『トランジスタ』っていうんでしたっけ?、という戌に

「てきとうな事を言うんじゃないよ」

亥は手刀をお見舞いする。

「あでっ」

「まったく、アンタは変なことしか言わないね」

溜息を吐く亥に、戌は嬉しそうに返事する。

「褒めてくださりありがとうございまーす!」

「褒めてはいないんだよ」

『トランジスタ』とは何だろうか。 卯は首をひねる。

コイツの言葉は気にしなくて良い。 それに『幹部らしい貫禄』なんて、付けようと思って付くようなもんじゃないだろう」

 亥の言葉に不承不承ながら頷く。 戌と亥は『仮の面』に所属する女性幹部だ。 卯はただ単に、何か良い案があるか訊いてみたかっただけだ。 
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