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後始末。
しおりを挟む「………………」
卯は困惑していた。
申と共に、酉を回収しにきたのだが。
「……」
着いた先では、妖精達の阿鼻叫喚が周囲を満たしていた。
「つまんないなあ、もっと楽しませてよ」
「もっとやってくれなきゃ、割りに合わないんだよねぇ」
「さぁ、もっと魔法の元を絞り出して!」
酉は、実に愉しそうだった。 そしてなんだか何時もの胡散臭い様子ではなく、暗くどろどろした様子で、昏い笑みを浮かべていた。
「…………何、やってるの」
思わず卯は言葉を溢した。
「…………………………あれ? …………君達、来てたんだ」
その瞬間、酉の様子が元に戻った。 不気味な先程までの雰囲気が瞬時に無くなり、微塵も感じられなくなってしまった。
「……あー、ごめん。 怖がらせちゃったみたいだね」
卯と申に振り返り、気不味そうに酉は言った。 怖がってはいない(多分)。 ただ、色々とドン引きしただけだ(確定)。
「というか申クン、『こういう時に連れてくる場合は事前に伝えて』って、言ったよね?」
妖精を痛め付ける手を止め、酉は恨めしそうに申を見る。
「あー、そうだったかもな」
全く申し訳なくなさそうに、申は謝った。
「あのねぇ」
酉は芝居がかった仕草で大仰に溜息を吐く。
「あ、そうそう。 一応、元が取れそうなくらいには感情は引き出せたよ」
酉は大量の感情が(ごちゃ混ぜに)詰められている瓶を指す。 一応、と言うその言葉には不穏なものしか感じられなかった。
「……意外と平気そう」
「ん? まぁね。 魔法少女の集中砲火、何度も食らってるし」
「……」
つまりあの身代わりみたいな、ヘイトを煽るあの発言は、自分は平気だと踏んだ上での行動だった、ということだろうか。
「オレは面倒見は良いからね。 新人の君を、オレなりに心配してたんだよ」
そう酉が答える。 変な奴かと思ったが意外と良いところもある、かも? と、卯が思った時
「……ってのは嘘で、普通に用事をさっさと終わらせたかっただけだろ」
すぐさま申が口を挟む。
「せいかーい!」
流石申クン、オレの理解が深いねぇ、と申の方を向いて手で指した。 胡散臭い笑顔が実に楽しそうである。
「……腹立つ」
本当に心配した気持ちを、責任を感じたこの思いを、返して欲しいと卯は切に願った(帰ってきやしないが)。
「え、何をするんだい? 痛いよ」
「…………なんでもない」
心配を、責任を、感じてしまった、私の気持ちを返して欲しい。 そう、卯は、心の、底、から、思い、ながら、酉を、殴っ、た(二度目)!
「すごい殴ってくるね」
そう言いつつ、酉は全く痛がる様子が無い。
「……もしかして……拗ねてたり「拗ねてないわよ」……そっか」
はは、と酉が苦笑いしたところで申が咳払いを挟んだ。
「で、調査は」
「見ての通り、終わったよ。 残りは後始末だけ」
酉はぐったりとした妖精達を指した(『見ての通り』とは)。
「……こんなの、聞いてないわ」
「ごめんごめん」
卯は軽く笑う酉に、軽く殺気が湧いた(殺せやしないだろうが)。
×
「中々ねぇ、手強かったんだよ」
用済みの妖精達を袋に詰めつつ、酉は言う。
「……魔法少女が?」
「……こいつが手こずる程の魔法少女って相当やばいやつだろ」
卯の返しに、そんなやつそういる訳がねーだろ、と申は鼻で笑う。
「自分の魔力が、思った以上に相殺されなくってさぁ。 ワザとと無駄に魔力を消費するのが、とーっても、面倒で」
手加減にも加減が必要なんだよ、と語る。
「おまけに、中途半端に魔法少女の魔力がぶつかるものだから、間違えて体内に入れちゃわないかが気になって気になって。 全然、集中できなかったよ」
「……ふーん…」
「向かう前に魔力を無駄に散らして、相殺され易い魔法もかけたのに」
連絡用の端末も破壊されるし、弁償してほしいね、と溢す酉を見、本当にこの男は、心配するだけ無駄なようだと、卯は悟った。
「どのくらい減ったんだ?」
「うーん……いつもの状態から、やっと魔力の多過ぎる星官ぐらいまで、減らしたんだ」
何もしてない今の申クンだったら辛勝できるくらいかなぁ、と酉は呟く。
「随分と、魔力を持っているみたいね?」
卯は嫌味ったらしく冷淡(の、つもり)に酉に問うと、
「あはは、だってオレってどこかの世界で神扱いされてるし」
そう返された。 神? と首を傾げる卯に
「『若気の至り』ってやつだから気にしないで」
と酉は言い、
「これいる?」
と、クロークの中から桜色の煌く何かの入った瓶を出した。 瓶を開け、手に乗せてよく見てみると、少し温かかった。
「何これ」
「妖精の内臓」
「……気持ち悪いわ」
なんてもの寄越すの、と卯が身を引いた途端、
『もぐにゃ』
「「あ」」
ねこがそれを食べてしまった。
『おいしくなかったねこ』
ぺろりと『ねこ』は口の周りを舐めとった。
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