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第4話 勇者パーティのいとも容易く行われる戦闘

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 「ったく、とんだ凶報もあったもんだよなぁ!この魔獣たちも魔王を生み出すために沸いてたってんだから──よ!」

ルークが普段背負っていた大剣を振るいながら、パーティ全体に聞こえるように叫ぶ。
 剣を振るう速度があまりに速いため、橙色の炎は剣筋より少し遅れるようにして生じている。
 炎剣──その威力を余す所なく魔獣に叩き込むと、ダークドラゴンは爆裂四散した。
 
 「まったくなのかな?なのかね?確かに最近魔獣が増えているとは噂になってはいたけれど、それがまさかこんなことに──って感じだね?感じだよ?」

 すぐ隣で返答するミラも、当然のことながら戦闘中だ。
 無詠唱で術式を発動するのですらかなりの集中力を要するはずだが、それを会話の傍で行っているのは最早神業の域である。

 攻撃を回避しているだけに見えたミラの足元から夥しいイバラが湧き出て、二匹のダークドラゴンを拘束する。そしてそのまま巨大な体躯は中央に向けて圧縮され、消滅した。

 自然属性と闇属性の複合魔法──しがらみ、である。

 「だけどぉ、そう考えると納得できる部分も大きいわよねぇ。過剰なくらいに魔物は生まれていて、地域によっちゃ取りこぼしもあったみたいだしぃ。今回だって10匹って聞いてきたのに12匹いるじゃない」
 
 「若葉」の回復役《ヒーラー》が果たす役割は、ただHPやMPを回復することに留まらない。
 《炎剣》や《万能》には劣るものの、剣技《ソードスキル》を高い水準で使い熟せるのだ。
 敵を屠りながら回復をばら撒いていく様子は、「戦姫」と称されることすらある。

  「──しっ!」

 会話の合間にミサキが裂帛とともに剣を振るうと、その軌道上に流星のような光が煌めく。
 その美しい光も束の間。目の前のダークドラゴンは醜い悲鳴と黒々しい血液を撒き散らして絶命した。

 「それにしても、かつての魔王とまったく違う生まれ方をしているっていうのはどういうことなんだろうなあ!それに、エネルギーの量と質がすごかったっていうのも気になる!」

 陣形の先頭から、大きく太い声が響く。タンクを務めるワタリだ。
 ワタリが相手にしているダークドラゴンは、3匹。
 三方向から襲いくる凶牙・凶爪を、巨大な盾ひとつで防ぎながら、棍棒で反撃──という神経がすり減りそうな作業をさも当然かのように繰り返している。
 その他のメンバーが目の前のダークドラゴン一体に集中できているのは、彼らが献身的に多くの敵を引きつけているからに他ならない。

 彼ら──ワタリとアオバ、である。

 アオバは残りのドラゴンすべて──5匹を相手にしている。
 
 「まぁ間違いなく、大きな脅威になることは間違いないんだろうな。そして、俺らがそれを打ち倒さなければならないのも、確定している。アポロンさんが言うには、今の俺らの戦力じゃあ危ないんじゃないのかって話だったけれど」

 言いながらアオバが繰り出すのは、凄まじい連撃だ。
 ルークのように炎を剣に纏わせて1匹を切り上げ、返す刃でその剣戟を別のダークドラゴンに頭頂から見舞う。
 着地の隙を狙っていた2体を柵で消滅させるや否や残り1匹に肉薄し、流星の如き突きを叩き込んだ。

 パーティメンバー3人分の技を巧みに組み合わせ、一瞬にして敵を壊滅させた勇者は、剣を鞘に納めながら言う。

 「ダークドラゴンを相手にこれほど苦労なく倒せる俺らで力不足ってことがあるんだろうか。アポロンさんが俺らの実力を知らないなんてことはないだろうが……。でも、だとしたらよっぽどの脅威だよな」

 どのような能力であろうと、それを最高水準で使い熟す《万能》のアオバ──それを以ってして討滅できない存在など、想像の埒外である。

 「ふぅ、お疲れさん、リーダー。今日もすげぇ戦いぶりだったよ。やれやれ、俺らの仕事がなくなっちまうぜ」

 そう口にしながら手をひらひらさせるルークをはじめ、「若葉」の面々が集う。その誰もが傷ひとつ負うことなく、どころか汗ひとつかくことなく戦闘を終えている事実が、彼らが英雄であることを如実に物語っていた。

 「まったくだよ。柵の練度、また上がったんじゃないのかな?ないのかね?折角私も練習して発動までのラグを短くしたのに、アオバの方が早かった気がする」

 「よしてくれよ。俺ひとりの成果じゃあない。ワタリもすごかったじゃないか。3体を相手にまったく隙をつくらず、よくタゲを集めてくれていた」

 「ハハッ!5体を一瞬で屠った最強の勇者に言われると、素直に喜べねぇがな!」

 「ま、一瞬でクエストが片付くのはいいことじゃない。早く片付けば片付くだけ、お風呂に入るのが早くなるんだしぃ」

 「それはそうだ。あ、これから『星の宿』に行くっていうのはどうだ。久々にサウナで“整い”たい」

 「星の宿」とは国の中で最も高級な湯屋である。何か特別なことがあると、「若葉」はそこに行く習慣があるのだ。
 もちろん、メンバーの誰も反対することはない。それならばと嬉々としてダークドラゴンの死骸を回収し始めた。
 
 
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