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導き手
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両親の想い、愛の深さを知って私は
今までできなかったことを両親と作っていった
両親とお買い物に出かけたり、一緒にご飯を作ったり、思い出作りをした
夜は母と父の間に床をひいて眠りにつく
3人で川の字の形に並んで
両親は私の手を握ってくれて、温かくて心地よかった
けどその度に泣きたくなる
悲しいからじゃない、嬉しさからくるもの
こんなに幸せでいいのかと
そして罪悪感も芽生える
樹くんが、本当の意味での死を迎えて
私は生きている
自分だけ助かって、樹くんは助からなかった
二人が助かる方法はなかったのだろうか
あの時の彼の表情がまだ目に焼き付いていて
忘れることなどできなかった
彼の存在は、私にとって唯一の心の支えだ
絶望した中でもなお、彼との思い出だけは
色褪せることはなかった
けれど、現実は残酷で
人間界で神隠しとされて消えてしまった樹は
戻ってきた
体だけ、魂は消えてしまったのだろう
願いを叶える為に、魂を捧げる
それが悪魔の取引 魂の契約
だけど、彼が魂を捧げるほど欲した願いを
陽菜に教えることはなかったのだ
ただ、願いを叶える為に悪魔と取引したと
それだけ
だから、彼の最後の心残りについて
想像すらもできなくて、思いに耽るだけで時間は過ぎていった
そして日は過ぎていき、彼の葬式の日になった
行くか、どうか迷った
彼の死に様を目に焼き付けてしまったら、と思うと今にも体が小刻みに震えかける
けど、決めたから
彼が望んだ人としての死を、私は見届けなくてはいけない、そう思ったから
両親と一緒に葬式場へ足を踏み入れる
心臓が脈打っていて、呼吸もしづらい
息を深く吸おうとしても、上手くできなかった
その様子に両親は、心配そうに見つめて
『陽菜、無理しなくてもいいのよ』
それでも頑なに、私は首を縦に振るわなかった
もう、頑固ね 誰に似たのかしら、と
横目で父を見る母
父は驚愕しており、母と少し言い合いになっていた
きっと、私の心情を察して空気を和やかにしようとしてくれているのだろう
その気遣いにまた、心が温まるようで嬉しかった
受付を済ませた後、二人の男女がこちらに歩み寄ってきた 彼の両親だ
以前会った時よりも、痩せこけてしまっていて
見ていて心が痛んできた
深呼吸を一回して私は二人に挨拶をした
『お久しぶりです。叔父さん、叔母さん
この度はお悔やみ申し上げます』
『陽菜ちゃん、きてくれてありがとう
きっと、樹も喜んでくれているわ
…さぁ、樹に会ってあげて』
叔母さんに誘導されて、私は彼が眠る棺へと
近づいた
ゆっくりと棺を覗き込むと、彼がいた
変わらない面影
今にも目を開けて、微笑み返してくれるのではないかと思うほどに
まだ彼の死が現実的に思えなかった
彼の顔色は青白くて今にも消えてしまいそうで悪魔の姿をした彼と重なった
そっと彼の頬に触れると、急に場所が変わった
この感覚は知っている
契約者と悪魔しか入る事ができない
魂の縛りをした者しか入れない空間
私の願いは叶えられたのに、何故と疑問が浮かんだ
周りを見渡すと、何もない真っ暗な空間
けれど、あの時と違い空間の歪みは感じられなかった
自分の呼吸音しか聞こえず、恐怖が押し寄せてくるようだった
そんな時、闇の奥深くに一筋の光が見えた
その光は私を導いてくれるようで、躊躇なく歩みを進めた
自分の靴音が響く、前に進めと急かされているように
光の方へ辿り着くと、その場所は祭壇のようだった
御神木があり、澄んだ空気が鼻腔をくすぐる
奥の階段を進むと、そこには樹が横たわっていた
まるで生贄のように白い装束に身を包んでいた
『どうして…?』
『それは、私が説明いたしましょう』
振り返ると、声の主は女性だったようだ
腰まである黒髪を靡かせて、目元は凛々しく
巫女装束に身を包んで、私に微笑みかけてきた
『貴女は…?』
突然導かれた空間、横たわる樹、急に現れた女性
驚くことの連続で頭の中の整理がつかなかった
『申し遅れました、私は人と人ならず物の導く者
導き手と呼ばれております 名は真白』
ゆっくりとお辞儀をし、彼女、真白は真剣な瞳で私を見つめる
『貴女にお願いがあって参りました
強引なやり方なのはお許しください』
『お願いって…?』
『樹さんの、貴女に対する想い、心残りが
強すぎて人としての死を迎えられず
魂のまま、彷徨っている』
衝撃的な状況に私は、驚きを隠せなかった
あの時、彼と最後の…別れの日
私と樹君の繋がりである糸が切れたのは
この目に焼き付けたのに
今までできなかったことを両親と作っていった
両親とお買い物に出かけたり、一緒にご飯を作ったり、思い出作りをした
夜は母と父の間に床をひいて眠りにつく
3人で川の字の形に並んで
両親は私の手を握ってくれて、温かくて心地よかった
けどその度に泣きたくなる
悲しいからじゃない、嬉しさからくるもの
こんなに幸せでいいのかと
そして罪悪感も芽生える
樹くんが、本当の意味での死を迎えて
私は生きている
自分だけ助かって、樹くんは助からなかった
二人が助かる方法はなかったのだろうか
あの時の彼の表情がまだ目に焼き付いていて
忘れることなどできなかった
彼の存在は、私にとって唯一の心の支えだ
絶望した中でもなお、彼との思い出だけは
色褪せることはなかった
けれど、現実は残酷で
人間界で神隠しとされて消えてしまった樹は
戻ってきた
体だけ、魂は消えてしまったのだろう
願いを叶える為に、魂を捧げる
それが悪魔の取引 魂の契約
だけど、彼が魂を捧げるほど欲した願いを
陽菜に教えることはなかったのだ
ただ、願いを叶える為に悪魔と取引したと
それだけ
だから、彼の最後の心残りについて
想像すらもできなくて、思いに耽るだけで時間は過ぎていった
そして日は過ぎていき、彼の葬式の日になった
行くか、どうか迷った
彼の死に様を目に焼き付けてしまったら、と思うと今にも体が小刻みに震えかける
けど、決めたから
彼が望んだ人としての死を、私は見届けなくてはいけない、そう思ったから
両親と一緒に葬式場へ足を踏み入れる
心臓が脈打っていて、呼吸もしづらい
息を深く吸おうとしても、上手くできなかった
その様子に両親は、心配そうに見つめて
『陽菜、無理しなくてもいいのよ』
それでも頑なに、私は首を縦に振るわなかった
もう、頑固ね 誰に似たのかしら、と
横目で父を見る母
父は驚愕しており、母と少し言い合いになっていた
きっと、私の心情を察して空気を和やかにしようとしてくれているのだろう
その気遣いにまた、心が温まるようで嬉しかった
受付を済ませた後、二人の男女がこちらに歩み寄ってきた 彼の両親だ
以前会った時よりも、痩せこけてしまっていて
見ていて心が痛んできた
深呼吸を一回して私は二人に挨拶をした
『お久しぶりです。叔父さん、叔母さん
この度はお悔やみ申し上げます』
『陽菜ちゃん、きてくれてありがとう
きっと、樹も喜んでくれているわ
…さぁ、樹に会ってあげて』
叔母さんに誘導されて、私は彼が眠る棺へと
近づいた
ゆっくりと棺を覗き込むと、彼がいた
変わらない面影
今にも目を開けて、微笑み返してくれるのではないかと思うほどに
まだ彼の死が現実的に思えなかった
彼の顔色は青白くて今にも消えてしまいそうで悪魔の姿をした彼と重なった
そっと彼の頬に触れると、急に場所が変わった
この感覚は知っている
契約者と悪魔しか入る事ができない
魂の縛りをした者しか入れない空間
私の願いは叶えられたのに、何故と疑問が浮かんだ
周りを見渡すと、何もない真っ暗な空間
けれど、あの時と違い空間の歪みは感じられなかった
自分の呼吸音しか聞こえず、恐怖が押し寄せてくるようだった
そんな時、闇の奥深くに一筋の光が見えた
その光は私を導いてくれるようで、躊躇なく歩みを進めた
自分の靴音が響く、前に進めと急かされているように
光の方へ辿り着くと、その場所は祭壇のようだった
御神木があり、澄んだ空気が鼻腔をくすぐる
奥の階段を進むと、そこには樹が横たわっていた
まるで生贄のように白い装束に身を包んでいた
『どうして…?』
『それは、私が説明いたしましょう』
振り返ると、声の主は女性だったようだ
腰まである黒髪を靡かせて、目元は凛々しく
巫女装束に身を包んで、私に微笑みかけてきた
『貴女は…?』
突然導かれた空間、横たわる樹、急に現れた女性
驚くことの連続で頭の中の整理がつかなかった
『申し遅れました、私は人と人ならず物の導く者
導き手と呼ばれております 名は真白』
ゆっくりとお辞儀をし、彼女、真白は真剣な瞳で私を見つめる
『貴女にお願いがあって参りました
強引なやり方なのはお許しください』
『お願いって…?』
『樹さんの、貴女に対する想い、心残りが
強すぎて人としての死を迎えられず
魂のまま、彷徨っている』
衝撃的な状況に私は、驚きを隠せなかった
あの時、彼と最後の…別れの日
私と樹君の繋がりである糸が切れたのは
この目に焼き付けたのに
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