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第二話 本当の居場所
第二話 九
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いつもと変わらないくらいの時間で帰宅した紫苑とともに食卓を囲む。しかし、朝以上に重い沈黙が降りていて、食器の触れ合う音がやけに大きく響いた。結局、美桜は紫苑と一言も会話を交わさないまま、残りの家事を済ませ、寝支度を整えた。
浅い眠りばかりで心身ともに休めていないことは美桜も自覚しているが、眠ることに抵抗があり、布団に横になってもなかなか寝付けずにいた。闇にうっすらと浮かび上がる天井を無心で見つめていると、夢現のあわいで、いつかの光景を思い出していた。
心はぼろぼろで限界だった。
妖を殺め続ける毎日に終わりはなく、美桜は絶望していた。
紫苑に再会することだけが美桜の心の支えであり、唯一の希望だったのは半年前の話で、妖の命を奪うごとに美桜の心は擦り切れていき、希望は重荷へと変わっていった。
無論、そんな生に価値を見出せるはずもなく、いつしか美桜は死を願うようになっていた。
(死にたい。殺して。終わりにさせて)
新月の晩、とうとう美桜は覚悟を決めた。
たった半年で数えきれないほどの妖を滅してきた短刀で、他ならない自分がこの命の始末をつけよう。
怖がってはいけない。躊躇ってはいけない。
美桜は自身の首に走る動脈を狙って、勢いよく刀を振り抜こうとして。
「動静緊縛、急々如律令」
主である戸塚に、止められた。
目を見開き、言葉を失う美桜を、戸塚はじろりと睨めつけた。
「どうも最近様子がおかしいと思って探ってみれば、まさか死ぬつもりだったとはな」
「……」
「わたしが、いつ、そんなことを許した?」
「……」
「来い。一度痛い目をみないとわからないだろう?」
抵抗する術もないまま、美桜は戸塚に離れにある蔵に連れていかれ、閉じ込められた。
この半年間も地獄のような日々だと思っていたが、蔵に閉じ込められてからの数日間はそれ以上の地獄だった。
食餌は粗末なものを最低限与えられ、無理やりにでも口に入れられる。そうして辛うじて命をつながされたと思えば、呪符による雷や炎で痛めつけられる。この時点で体力、気力ともにほとんどないに等しいが、夜になると蔵から連れ出され、任務をこなすよう強要される。『傀儡従属』の呪符を使役された美桜は己の意思に関係なく、主に命じられるままひたすらに妖を殺した。
ようやく解放されて、心身ともに傷だらけになった美桜は悟った。
(ああ。どうやっても私には、死ぬことは許されないのね……)
その日を境に、美桜は心を殺して、感情を抑えつけるようになった。
強く美しく、その上従順な美桜を戸塚は数いる式神の中で最も気に入るようになった。任務では必ず呼び出し、夜の宴会には側に侍らせる。美桜は任務も宴会も嫌いだった。任務は言わずもがな、宴会については男たちの好奇の目にさらされる。言い寄られることはしばしばあり、手を出されそうになったこともあるが、戸塚の「彼女は清らかだからこそ美しい」という一言に誰もが納得して事なきを得た。そうであっても、美桜は以来男性が苦手になった。美桜のつれない態度に男たちはさらに恋い焦がれるようになったが、美桜にとってはそれすらも気持ち悪くて仕方なかった。
心を殺して。妖を殺して。殺して、殺して……。
美桜はいつしか、愛していた人のぬくもりを思い出せなくなっていた。
浅い眠りばかりで心身ともに休めていないことは美桜も自覚しているが、眠ることに抵抗があり、布団に横になってもなかなか寝付けずにいた。闇にうっすらと浮かび上がる天井を無心で見つめていると、夢現のあわいで、いつかの光景を思い出していた。
心はぼろぼろで限界だった。
妖を殺め続ける毎日に終わりはなく、美桜は絶望していた。
紫苑に再会することだけが美桜の心の支えであり、唯一の希望だったのは半年前の話で、妖の命を奪うごとに美桜の心は擦り切れていき、希望は重荷へと変わっていった。
無論、そんな生に価値を見出せるはずもなく、いつしか美桜は死を願うようになっていた。
(死にたい。殺して。終わりにさせて)
新月の晩、とうとう美桜は覚悟を決めた。
たった半年で数えきれないほどの妖を滅してきた短刀で、他ならない自分がこの命の始末をつけよう。
怖がってはいけない。躊躇ってはいけない。
美桜は自身の首に走る動脈を狙って、勢いよく刀を振り抜こうとして。
「動静緊縛、急々如律令」
主である戸塚に、止められた。
目を見開き、言葉を失う美桜を、戸塚はじろりと睨めつけた。
「どうも最近様子がおかしいと思って探ってみれば、まさか死ぬつもりだったとはな」
「……」
「わたしが、いつ、そんなことを許した?」
「……」
「来い。一度痛い目をみないとわからないだろう?」
抵抗する術もないまま、美桜は戸塚に離れにある蔵に連れていかれ、閉じ込められた。
この半年間も地獄のような日々だと思っていたが、蔵に閉じ込められてからの数日間はそれ以上の地獄だった。
食餌は粗末なものを最低限与えられ、無理やりにでも口に入れられる。そうして辛うじて命をつながされたと思えば、呪符による雷や炎で痛めつけられる。この時点で体力、気力ともにほとんどないに等しいが、夜になると蔵から連れ出され、任務をこなすよう強要される。『傀儡従属』の呪符を使役された美桜は己の意思に関係なく、主に命じられるままひたすらに妖を殺した。
ようやく解放されて、心身ともに傷だらけになった美桜は悟った。
(ああ。どうやっても私には、死ぬことは許されないのね……)
その日を境に、美桜は心を殺して、感情を抑えつけるようになった。
強く美しく、その上従順な美桜を戸塚は数いる式神の中で最も気に入るようになった。任務では必ず呼び出し、夜の宴会には側に侍らせる。美桜は任務も宴会も嫌いだった。任務は言わずもがな、宴会については男たちの好奇の目にさらされる。言い寄られることはしばしばあり、手を出されそうになったこともあるが、戸塚の「彼女は清らかだからこそ美しい」という一言に誰もが納得して事なきを得た。そうであっても、美桜は以来男性が苦手になった。美桜のつれない態度に男たちはさらに恋い焦がれるようになったが、美桜にとってはそれすらも気持ち悪くて仕方なかった。
心を殺して。妖を殺して。殺して、殺して……。
美桜はいつしか、愛していた人のぬくもりを思い出せなくなっていた。
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