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第三話 束の間の平穏
第三話 五
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額に触れるひやりとした感覚に美桜はゆるゆると目を開けた。
「あ、ごめんね。少し様子を見に来ただけで、起こすつもりはなかったんだけど」
「……紫苑」
美桜の視界に最初に映ったのは、部屋に射しこむ西日に照らされた紫苑だった。それから額の冷たさの正体を知る。
「……手」
美桜の額には紫苑の手が置かれていた。
「え、ああ……」
紫苑は手を引っ込めようとしたが、美桜が左腕を伸ばしてその手に触れることで紫苑の動きを止めた。
「美桜?」
「もう少し、このままでいて……」
熱に浮かされているせいか妙にふわふわとした口調で美桜が願うと、紫苑は目を丸くし、次いでくすりと小さな笑みをこぼした。
「いいよ」
「ふふ」
つられたように美桜も笑う。無邪気な笑みはまるで幼子のようにあどけない。
男性は苦手だけれど、紫苑だけは特別だ。美桜に触れる紫苑の手つきはいつも優しく、その大きな手に包まれると胸が高鳴るのと同時にほっと安心もする。いつだって美桜の居場所はここにあるのだと教えてくれるかのようだ。
甘えるように美桜が額を紫苑の手のひらに押し当てると、紫苑はくすぐったそうに笑った。
「美桜が甘えてくるなんて珍しいね」
「迷惑?」
「ううん、嬉しい。今だけじゃなくていつでも甘えてくれていいのにって思うよ」
幸せに満たされたように紫苑は目を細める。とろけるような笑顔に美桜もまた似たような表情で笑み返す。すると額に置かれていた手が退けられ、代わりに口づけが落とされた。
「美桜、可愛い」
至近距離でささやかれ、美桜の心臓がどくんと跳ねる。けぶるまつ毛に縁どられた漆黒の瞳は艶っぽく熱を孕み、美桜を真っ直ぐに見つめてくる。途端に美桜の鼓動は速く強くなり、どくどくと耳の奥で鳴るのが聞こえ、風邪とは異なる感覚で顔に熱が上った。
「紫苑……」
桃色に染まる頬、潤んだ瞳。布団に仰向けになったまま見つめ返され、か細い声で名前を呼ばれる。煽情的な美桜の姿に紫苑は思わず息をのむ。溢れる愛を余すことなく贈りたい衝動に駆られるが、相手は病人だと自身に言い聞かせてぐっと堪えた。
(でも、これくらいは許してもらえるかな)
紫苑は先ほど自身の手に触れていた美桜の左手をそっと掬い取って、その薬指の付け根に口づけた。
「続きはまた今度。……約束」
吐息の触れる薬指が甘く痺れる。
美桜は恥じらいながらもこくりと頷いた。
「あ、ごめんね。少し様子を見に来ただけで、起こすつもりはなかったんだけど」
「……紫苑」
美桜の視界に最初に映ったのは、部屋に射しこむ西日に照らされた紫苑だった。それから額の冷たさの正体を知る。
「……手」
美桜の額には紫苑の手が置かれていた。
「え、ああ……」
紫苑は手を引っ込めようとしたが、美桜が左腕を伸ばしてその手に触れることで紫苑の動きを止めた。
「美桜?」
「もう少し、このままでいて……」
熱に浮かされているせいか妙にふわふわとした口調で美桜が願うと、紫苑は目を丸くし、次いでくすりと小さな笑みをこぼした。
「いいよ」
「ふふ」
つられたように美桜も笑う。無邪気な笑みはまるで幼子のようにあどけない。
男性は苦手だけれど、紫苑だけは特別だ。美桜に触れる紫苑の手つきはいつも優しく、その大きな手に包まれると胸が高鳴るのと同時にほっと安心もする。いつだって美桜の居場所はここにあるのだと教えてくれるかのようだ。
甘えるように美桜が額を紫苑の手のひらに押し当てると、紫苑はくすぐったそうに笑った。
「美桜が甘えてくるなんて珍しいね」
「迷惑?」
「ううん、嬉しい。今だけじゃなくていつでも甘えてくれていいのにって思うよ」
幸せに満たされたように紫苑は目を細める。とろけるような笑顔に美桜もまた似たような表情で笑み返す。すると額に置かれていた手が退けられ、代わりに口づけが落とされた。
「美桜、可愛い」
至近距離でささやかれ、美桜の心臓がどくんと跳ねる。けぶるまつ毛に縁どられた漆黒の瞳は艶っぽく熱を孕み、美桜を真っ直ぐに見つめてくる。途端に美桜の鼓動は速く強くなり、どくどくと耳の奥で鳴るのが聞こえ、風邪とは異なる感覚で顔に熱が上った。
「紫苑……」
桃色に染まる頬、潤んだ瞳。布団に仰向けになったまま見つめ返され、か細い声で名前を呼ばれる。煽情的な美桜の姿に紫苑は思わず息をのむ。溢れる愛を余すことなく贈りたい衝動に駆られるが、相手は病人だと自身に言い聞かせてぐっと堪えた。
(でも、これくらいは許してもらえるかな)
紫苑は先ほど自身の手に触れていた美桜の左手をそっと掬い取って、その薬指の付け根に口づけた。
「続きはまた今度。……約束」
吐息の触れる薬指が甘く痺れる。
美桜は恥じらいながらもこくりと頷いた。
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