40 / 52
第四話 過去との決別
第四話 一
しおりを挟む
それから二週間ほどは穏やかな日々が続いていた。
今日もまた早朝に起きだして役割分担した家事を各々こなし、居間で一緒に朝食を摂る。そして美桜は紫苑を「いってらっしゃい」と仕事へ送り出し、紫苑もまた「行ってきます」と美桜に微笑んで応える。
留守を任された美桜は自室に戻ると先日小さな書棚の奥から引っ張り出した分厚い書と使いかけの冊子を文机に広げ、墨や筆も用意した。
それはここ最近の美桜の日課でもある。分厚い書は植物図鑑で、使いかけの冊子には書を読んで必要だと思ったことを書き写していく。
美桜がまだ式神に降される前、時間を見つけては毎日のように植物の勉強をしていたことを思い出し、数年ぶりに再開したことだった。
素人よりは知識があるとは思うが、以前市で薫衣草を見つけたときまだまだ知らない花があるのだと実感し、もっと極めたいと思ったことが再開のきっかけである。
時間も忘れて勉強に夢中になっていた美桜だったが、午の刻の鐘の音によりはっと意識を現実に引き戻された。
(もうこんなに時間が経っていたのね)
そろそろ昼食を用意して、午後には掃除や庭の草花の世話をしなければ。
文机の上を片付け、美桜が立ち上がったそのとき、玄関の方からかたんと音がした。この時間ならきっと郵便が配達された音だろう。
美桜は自室から縁側の方へ目を向けた。梅雨特有の空はどんよりとした灰色の厚い雲に覆われている。午前中はもったが、午後は雨が降るだろう。湿った空気からは雨の匂いがした。
(郵便物が雨に濡れないうちに回収してしまいましょう)
美桜はそのまま土間へ下りるよりも先に玄関へと向かった。
引き戸を開けた先、家の敷地内に立つ郵便受けを開けると数枚の紙が入っていた。
(今日も広告ばかりね)
家主の紫苑の交友関係から察しても手紙などはそうそう来ない。ましてや美桜宛てになど来るはずもなく、大抵はこのように広告ばかりだった。
広告を手にした美桜は苦笑して中に戻ろうとしたところで足を止めた。
「あら……」
家から少し離れた道の真ん中に紙が落ちていることに気がついたからだ。おそらく配達員が落として行ってしまったのだろう。
紫苑宛てかどうかはわからないがこのままにしておくことはできないと、美桜は何気なくそれを拾いに歩を進めた。
しゅっ。敷地を一歩出た瞬間に、空気の裂ける音が近づいてきた。
「!」
今日もまた早朝に起きだして役割分担した家事を各々こなし、居間で一緒に朝食を摂る。そして美桜は紫苑を「いってらっしゃい」と仕事へ送り出し、紫苑もまた「行ってきます」と美桜に微笑んで応える。
留守を任された美桜は自室に戻ると先日小さな書棚の奥から引っ張り出した分厚い書と使いかけの冊子を文机に広げ、墨や筆も用意した。
それはここ最近の美桜の日課でもある。分厚い書は植物図鑑で、使いかけの冊子には書を読んで必要だと思ったことを書き写していく。
美桜がまだ式神に降される前、時間を見つけては毎日のように植物の勉強をしていたことを思い出し、数年ぶりに再開したことだった。
素人よりは知識があるとは思うが、以前市で薫衣草を見つけたときまだまだ知らない花があるのだと実感し、もっと極めたいと思ったことが再開のきっかけである。
時間も忘れて勉強に夢中になっていた美桜だったが、午の刻の鐘の音によりはっと意識を現実に引き戻された。
(もうこんなに時間が経っていたのね)
そろそろ昼食を用意して、午後には掃除や庭の草花の世話をしなければ。
文机の上を片付け、美桜が立ち上がったそのとき、玄関の方からかたんと音がした。この時間ならきっと郵便が配達された音だろう。
美桜は自室から縁側の方へ目を向けた。梅雨特有の空はどんよりとした灰色の厚い雲に覆われている。午前中はもったが、午後は雨が降るだろう。湿った空気からは雨の匂いがした。
(郵便物が雨に濡れないうちに回収してしまいましょう)
美桜はそのまま土間へ下りるよりも先に玄関へと向かった。
引き戸を開けた先、家の敷地内に立つ郵便受けを開けると数枚の紙が入っていた。
(今日も広告ばかりね)
家主の紫苑の交友関係から察しても手紙などはそうそう来ない。ましてや美桜宛てになど来るはずもなく、大抵はこのように広告ばかりだった。
広告を手にした美桜は苦笑して中に戻ろうとしたところで足を止めた。
「あら……」
家から少し離れた道の真ん中に紙が落ちていることに気がついたからだ。おそらく配達員が落として行ってしまったのだろう。
紫苑宛てかどうかはわからないがこのままにしておくことはできないと、美桜は何気なくそれを拾いに歩を進めた。
しゅっ。敷地を一歩出た瞬間に、空気の裂ける音が近づいてきた。
「!」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる