【本編完結】春待つ桜 君待つ紫苑

南 鈴紀

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第四話 過去との決別

第四話 一

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 それから二週間ほどは穏やかな日々が続いていた。
 今日もまた早朝に起きだして役割分担した家事を各々こなし、居間で一緒に朝食を摂る。そして美桜は紫苑を「いってらっしゃい」と仕事へ送り出し、紫苑もまた「行ってきます」と美桜に微笑んで応える。
 留守を任された美桜は自室に戻ると先日小さな書棚の奥から引っ張り出した分厚い書と使いかけの冊子を文机に広げ、墨や筆も用意した。
 それはここ最近の美桜の日課でもある。分厚い書は植物図鑑で、使いかけの冊子には書を読んで必要だと思ったことを書き写していく。
美桜がまだ式神に降される前、時間を見つけては毎日のように植物の勉強をしていたことを思い出し、数年ぶりに再開したことだった。
素人よりは知識があるとは思うが、以前市で薫衣草を見つけたときまだまだ知らない花があるのだと実感し、もっと極めたいと思ったことが再開のきっかけである。
時間も忘れて勉強に夢中になっていた美桜だったが、午の刻の鐘の音によりはっと意識を現実に引き戻された。
(もうこんなに時間が経っていたのね)
 そろそろ昼食を用意して、午後には掃除や庭の草花の世話をしなければ。
 文机の上を片付け、美桜が立ち上がったそのとき、玄関の方からかたんと音がした。この時間ならきっと郵便が配達された音だろう。
 美桜は自室から縁側の方へ目を向けた。梅雨特有の空はどんよりとした灰色の厚い雲に覆われている。午前中はもったが、午後は雨が降るだろう。湿った空気からは雨の匂いがした。
(郵便物が雨に濡れないうちに回収してしまいましょう)
 美桜はそのまま土間へ下りるよりも先に玄関へと向かった。
引き戸を開けた先、家の敷地内に立つ郵便受けを開けると数枚の紙が入っていた。
(今日も広告ばかりね)
 家主の紫苑の交友関係から察しても手紙などはそうそう来ない。ましてや美桜宛てになど来るはずもなく、大抵はこのように広告ばかりだった。
 広告を手にした美桜は苦笑して中に戻ろうとしたところで足を止めた。
「あら……」
 家から少し離れた道の真ん中に紙が落ちていることに気がついたからだ。おそらく配達員が落として行ってしまったのだろう。
紫苑宛てかどうかはわからないがこのままにしておくことはできないと、美桜は何気なくそれを拾いに歩を進めた。
しゅっ。敷地を一歩出た瞬間に、空気の裂ける音が近づいてきた。
「!」
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