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第四話 過去との決別
第四話 二
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広告を手放しながら美桜は反射的にそれを避けると、瞬時に本性である半妖姿に戻った。近づいてきた物の正体は見覚えのある短刀で、背後に出現した見えない壁ともいえる結界にぶつかるとかんと甲高い音を立てて地に落ちた。
「あーあ。また外しちまった」
正面の竹林から現れたのは美桜の予想通り風雅だった。口ぶりこそ残念そうなものの、顔にはにやにやと愉しむような笑みを浮かべている。
「どうして、あなたがここに……」
「あん? 主様の命令だからに決まってんだろ。お前を連れ戻せってな」
町で風雅に襲われてからしばらく接触がなかったので、もうすっかり諦めているのだとばかり思っていたが、どうやら違ったらしい。
動揺と緊張を抑えるように、美桜は懐に仕舞ったお守りの上に手を当てた。
(大丈夫、お守りはあるわ。あとは敷地内にさえ戻れれば結界があるから風雅は入ってこられないはず)
幸い家に張られた結界はすぐそこだ。
敵に背を向けるのは得策ではないと判断した美桜は、じりじりと後退して……。
「おっと、言い忘れてたけどよ」
風雅が妖しく目を光らせた。
「そこの家に張られた結界には戻れねぇぜ?」
風雅の言が噓偽りでないことを裏付けるかのように、美桜の背が見えない壁にとんと付く。結界に阻まれ、美桜は退路を失った。
「な、んで……」
式神である風雅に結界術は使えないはず。それにも関わらず家と美桜の間を隔てるように新たな結界が張られている。結界術を使えるのは基本的に陰陽師くらいだ。そこから導き出される答えはひとつ。
「まさか……!」
ぞくりとした悪寒が美桜の背を這い上がる。
「やあやあ、夜桜。元気にしていたかい?」
その声によって美桜の予想は確信に変わった。
竹林から余裕のある足取りで現れたのは美桜のかつての主、戸塚だった。
「勝手に逃げ出して。ずいぶん探してしまったじゃないか」
「……っ!」
「しかし、まあ、あの局面で死ななかったんだ。こうして無事に見つかったことだし、今回はそれで良しとしよう」
今の私は『夜桜』じゃない。私が逃げ出したのではなくあなたが見捨てたのでしょう。あなたはもう主なんかじゃない。帰って。私の平穏をこれ以上乱さないで。私からまた幸せを奪わないで。
言いたいことは山のようにあるのにひとつとして声にできない。それは長年、戸塚の式神として言いなりになるしかなかった結果だった。口答えをしたり反抗的な態度をとったりしたら痛い目に遭うかもしれないと思うと、言葉は喉に張りつき、視線は無意識に下を向いてしまう。
美桜の一見すると変わらない従順な態度に、戸塚は満足そうににんまりと笑った。
「さて、帰ろう。夜桜がいるべきはわたしの下なのだから」
(違う。嫌だ。私は紫苑と一緒にいたいの……!)
戸塚の手が美桜の手首に伸ばされる。
「あーあ。また外しちまった」
正面の竹林から現れたのは美桜の予想通り風雅だった。口ぶりこそ残念そうなものの、顔にはにやにやと愉しむような笑みを浮かべている。
「どうして、あなたがここに……」
「あん? 主様の命令だからに決まってんだろ。お前を連れ戻せってな」
町で風雅に襲われてからしばらく接触がなかったので、もうすっかり諦めているのだとばかり思っていたが、どうやら違ったらしい。
動揺と緊張を抑えるように、美桜は懐に仕舞ったお守りの上に手を当てた。
(大丈夫、お守りはあるわ。あとは敷地内にさえ戻れれば結界があるから風雅は入ってこられないはず)
幸い家に張られた結界はすぐそこだ。
敵に背を向けるのは得策ではないと判断した美桜は、じりじりと後退して……。
「おっと、言い忘れてたけどよ」
風雅が妖しく目を光らせた。
「そこの家に張られた結界には戻れねぇぜ?」
風雅の言が噓偽りでないことを裏付けるかのように、美桜の背が見えない壁にとんと付く。結界に阻まれ、美桜は退路を失った。
「な、んで……」
式神である風雅に結界術は使えないはず。それにも関わらず家と美桜の間を隔てるように新たな結界が張られている。結界術を使えるのは基本的に陰陽師くらいだ。そこから導き出される答えはひとつ。
「まさか……!」
ぞくりとした悪寒が美桜の背を這い上がる。
「やあやあ、夜桜。元気にしていたかい?」
その声によって美桜の予想は確信に変わった。
竹林から余裕のある足取りで現れたのは美桜のかつての主、戸塚だった。
「勝手に逃げ出して。ずいぶん探してしまったじゃないか」
「……っ!」
「しかし、まあ、あの局面で死ななかったんだ。こうして無事に見つかったことだし、今回はそれで良しとしよう」
今の私は『夜桜』じゃない。私が逃げ出したのではなくあなたが見捨てたのでしょう。あなたはもう主なんかじゃない。帰って。私の平穏をこれ以上乱さないで。私からまた幸せを奪わないで。
言いたいことは山のようにあるのにひとつとして声にできない。それは長年、戸塚の式神として言いなりになるしかなかった結果だった。口答えをしたり反抗的な態度をとったりしたら痛い目に遭うかもしれないと思うと、言葉は喉に張りつき、視線は無意識に下を向いてしまう。
美桜の一見すると変わらない従順な態度に、戸塚は満足そうににんまりと笑った。
「さて、帰ろう。夜桜がいるべきはわたしの下なのだから」
(違う。嫌だ。私は紫苑と一緒にいたいの……!)
戸塚の手が美桜の手首に伸ばされる。
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