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第二話 囚われの二年間
第二話 六
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狭い牢の中では、走り回ることはおろか大きく腕も振るえない。筋力は落ちる一方で、禹歩の足運びを一回するのにも一苦労だった。未だに呼び出せない霊剣だが、これではいざというとき剣をとり落としてしまいそうだ。
風邪をひいたときはなかなか焦り、不安にも思ったが、持ち前のしぶとさでどうにか冬を乗り越え、春になった。
しかし、筋力同様、体力が落ちているのは明白だった。
あかりが小さくため息をついていると、牢番がやって来た。どういうわけか、最近は見張られている時間が減っている。いよいよ式神に下すのを諦めたのだろうか、それとも逃げられないだろうと高をくくっているのだろうか。あかりが牢番をじっと見つめていると、視線に気づいた彼は鼻を鳴らした。
「喜べ。もうすぐお仲間がくるかもしれないぞ」
「仲間……?」
「半妖のお前なんか用済みになるかもな。青柳か白古か、さてどっちかな」
恐ろしい想像に、さっと血の気が引く。あかりは震える声をおさえて、堅い声で問いかけた。
「何を、するつもりなの……?」
男は肩をすくめた。
「さあね。一年前の残党狩りじゃないか」
(この人たちは……、どこまで私たちの国を踏みにじるの⁉ どれだけ私の大切な人たちを傷つけて奪ったら気が済むの⁉)
怒りのままに右手を宙に払った。今ではそんなことしても何も起こらないとわかっていたが、反射的に染みついた動作を再現してしまった。
「え」
しかし、予想を裏切って、あかりの右手には霊剣が握られていた。久々に見る赤の光球は見たことのない赤黒い色をしている。
牢番も呆気に取られて、あかりと霊剣を眺めている。
(行かなくちゃ……!)
「天神の母、玉女。南地の母、朱咲。我を護り、我を保けよ。我に侍えて行き、某郷里に至れ。杳杳冥冥、我を見、声を聞く者はなく、その情を覩る鬼神なし」
本調子ではないが、今出せる力の限りを尽くしてでもこの牢から出ようとした。霊剣が呼びだせたのなら、可能性はあると信じたい。
「我を喜ぶ者は福し、我を悪む者は殃せらる。百邪鬼賊、我に当う者は亡び、千万人中、我を見る者は喜ぶ」
霊剣が赤い光を放ち始める。しかし、光球同様、どこか寒気を感じるような赤である。
「おい、どうした!」
あかりが九字を唱えようと息を吸い込んだとき、ちょうど外から人がやって来た。あかりの発する気を察知したのだろう。牢番の用のなさない説明を意識半分で聞きながら、その式神使いはあかりを睨んだ。
「この符は使いたくなかったんだが、仕方ない」
「……空陳、南寿、北斗、三体、玉……」
「急々如律令!」
反閇に集中しているあかりの反応は当然遅れる。目の前に符が飛んできてとっさに避けようとするが間に合わず、右手に符が張り付いた。あかりの視界がぐにゃりと歪む。
音を立てて倒れこんだあかりを恐ろしいモノでも見るように見つめながら、牢番は隣の式神使いに尋ねた。
「何なんですか、あの符は……?」
「意思を侵食する強力な符さ。自我がなくなると制御がきかなかった場合厄介だから、あまり使いたくはなかったんだけどね。……まあ、仕方ないか」
式神使いは薄っすら笑いながら横目にあかりを見遣って、踵をかえした。
風邪をひいたときはなかなか焦り、不安にも思ったが、持ち前のしぶとさでどうにか冬を乗り越え、春になった。
しかし、筋力同様、体力が落ちているのは明白だった。
あかりが小さくため息をついていると、牢番がやって来た。どういうわけか、最近は見張られている時間が減っている。いよいよ式神に下すのを諦めたのだろうか、それとも逃げられないだろうと高をくくっているのだろうか。あかりが牢番をじっと見つめていると、視線に気づいた彼は鼻を鳴らした。
「喜べ。もうすぐお仲間がくるかもしれないぞ」
「仲間……?」
「半妖のお前なんか用済みになるかもな。青柳か白古か、さてどっちかな」
恐ろしい想像に、さっと血の気が引く。あかりは震える声をおさえて、堅い声で問いかけた。
「何を、するつもりなの……?」
男は肩をすくめた。
「さあね。一年前の残党狩りじゃないか」
(この人たちは……、どこまで私たちの国を踏みにじるの⁉ どれだけ私の大切な人たちを傷つけて奪ったら気が済むの⁉)
怒りのままに右手を宙に払った。今ではそんなことしても何も起こらないとわかっていたが、反射的に染みついた動作を再現してしまった。
「え」
しかし、予想を裏切って、あかりの右手には霊剣が握られていた。久々に見る赤の光球は見たことのない赤黒い色をしている。
牢番も呆気に取られて、あかりと霊剣を眺めている。
(行かなくちゃ……!)
「天神の母、玉女。南地の母、朱咲。我を護り、我を保けよ。我に侍えて行き、某郷里に至れ。杳杳冥冥、我を見、声を聞く者はなく、その情を覩る鬼神なし」
本調子ではないが、今出せる力の限りを尽くしてでもこの牢から出ようとした。霊剣が呼びだせたのなら、可能性はあると信じたい。
「我を喜ぶ者は福し、我を悪む者は殃せらる。百邪鬼賊、我に当う者は亡び、千万人中、我を見る者は喜ぶ」
霊剣が赤い光を放ち始める。しかし、光球同様、どこか寒気を感じるような赤である。
「おい、どうした!」
あかりが九字を唱えようと息を吸い込んだとき、ちょうど外から人がやって来た。あかりの発する気を察知したのだろう。牢番の用のなさない説明を意識半分で聞きながら、その式神使いはあかりを睨んだ。
「この符は使いたくなかったんだが、仕方ない」
「……空陳、南寿、北斗、三体、玉……」
「急々如律令!」
反閇に集中しているあかりの反応は当然遅れる。目の前に符が飛んできてとっさに避けようとするが間に合わず、右手に符が張り付いた。あかりの視界がぐにゃりと歪む。
音を立てて倒れこんだあかりを恐ろしいモノでも見るように見つめながら、牢番は隣の式神使いに尋ねた。
「何なんですか、あの符は……?」
「意思を侵食する強力な符さ。自我がなくなると制御がきかなかった場合厄介だから、あまり使いたくはなかったんだけどね。……まあ、仕方ないか」
式神使いは薄っすら笑いながら横目にあかりを見遣って、踵をかえした。
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