【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第五話 朱咲の再来

第五話 二八

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「もう二年も経つのね……」
 まつりは遠くを見て呟いた。その瞳に映るのは彼女が生きていた最後の時である。
「あの日は、町民全員を朱咲家の屋敷に避難させて、私達や家臣の術使いで護っていた。そこに陰の国の式神使いが現れて式神の大群が放たれたの。かく乱された隙に南朱湖の氾濫が引き起こされて……あっという間だった……」
 まつりは下唇を噛んでやや俯いた。己の不甲斐なさに後悔してもしきれない劣情が襲う。しかし、過去を今ここで悔いることに意味はないことは明白だった。まつりは決然とした眼差しで話を続けた。
「最後まで残ったのは私と天翔だった。残ったお互いを護るために諦めないで戦っていたけれど、私は力が尽きて、天翔は式神に下されて……」
「下、された……? 下されそうになったんじゃなくて?」
 あかりが震える声で問い返すと、まつりは「ごめんね、ごめんなさい……」と誰にともなく謝罪の言葉を口にした。それはあかりの問いへの肯定だった。
「じゃあ、お父様は今、陰の国の式神になってるの?」
「……冥府には来ていないから、恐らくは」
「……」
 式神に下されることは酷く苦しい。式神にされかけたあかりにはその苦痛が想像できる。父が生きていたことに安堵すればいいのか、それとも陰の国の式神として使役されていることに嘆けばいいのか、名状しがたい気持ちだった。
「それから、朱咲様の力についてね。……よく聞きなさい、あかり」
 赤い瞳同士がぶつかり合う。
「ご尊像が失われた今の朱咲様は、あかり自身を依り代として存在しているはずよ。朱咲様の力は強大なもの。決して飲み込まれないで」
 昔はまつりがしゃがんであかりと視線を合わせたものだが、今はほとんど同じくらいの身長で、向き合うだけで視線は揃った。
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