【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第六話 幸せはいつもそばに

第六話 一四

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「次は西白道のお社?」
「うん、そうだよ」
 南朱湖を抜け、坤から西白道に入る。いつぞやの紅葉は見る影もなく木々は寒そうに枝をさらしていたが、行き交う人々の多さに道は賑やかだった。
「もう夕方も近いのにすごい人だね」
 あかりが感心していると、「前見て歩けよ」と秋之介に注意された。あかりは前に向き直って昴たちの後を追いかける。
「今日は静かだな」
その瞬間だけ緊張感ある面持ちをしていた秋之介が林の方をちらりと見て言った。その言葉にあかりたちも同意する。
 いつもなら夕方も近くなればひと気のない林や森で陰の国の妖や式神が出現することも珍しくない。しかし新年のはじめの日である今日はその兆しや気配がなかった。
「静かに越したこと、ない」
「元日くらいはね」
 結月とあかりは顔を見合わせて頷きあう。一方で昴はあかりたちとは違う見解を口にした。
「もしかしたら、この明るい気が影響してるのかもね」
「明るい気が、邪気払いになってるってこと?」
 結月が確認すると、昴は「そういうこと」と笑みを深めた。
「一時的な効果かもしれないけど、今日ばかりはゆっくりできそうで良かったよね」
「そうだね」
 やがて白のお社に出迎えられた。ここでもお社に向かって感謝と祈りを捧げる。
(白古様もありがとうございます。貴方様のご加護と西の地の繁栄があらんことを)
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