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第七話 邂逅と予兆
第七話 五
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一週間後、昴が玄舞家の屋敷に集合を掛けた。客間の一室で、四人、頭を突き合わせる。
「この間の結界巡回で捕えた人たちから話が聞けたよ」
「さっすが昴」
「それで、なんて言ってたの?」
あかりが話を促すと、昴は苦い顔をした。
「いつものことで、聴取の段になると彼らは人格が抹消されるようになってて、あんまり聞き出せなかったんだけど……。ああ、でも、ひとつだけ」
昴は人差し指を立てると、くるりと回した。
「他にいたっていう四人組は知らない人だって言ってたよ」
「仲間じゃなかったってこと?」
あかりが首を傾げると、昴は「それも一つの可能性だね」といった。
「どういうこと?」
「あかりの言うように仲間割れの可能性もあるけど、増援に送られてきたのは単純に顔見知りじゃない仲間だった可能性もあるってこと。だよね、昴?」
結月の確認の声に昴ははっきりと頷いた。
「僕たちだって陽の国の全員と知り合いってわけじゃないでしょ。それと同じことだよ」
「そうなの? 私は大体把握してるけど」
「それはあかりちゃんが特殊だからだよ」
昴は苦笑いを浮かべるが、あかりにはいまいち理解できない感覚だった。あかりは一度会話した相手の顔は忘れないという特技を持っている。陽の国の人たちには小さいころからお世話になっているので、ほとんどが顔見知りだ。知らない人がいないといってもいいくらいだとあかりは自負していたが、ここは話を脱線しないためにもあいまいに頷くに留めておいた。
「そんじゃあ、狐の妖については何もわかんなかったのか?」
秋之介の問いに昴は首肯し、次いであかりに顔を向けた。
「黒い毛に赤色の目。本当にあかりちゃんには心当たりがないの?」
確認するように問われて、あかりは再度記憶をなぞってみたがやはり該当する者はいない。しかし、あのとき一瞬だけ感じた懐かしいという感覚と未だまぶたの裏に焼き付いて離れない赤色の瞳に引っかかるものがあることも事実だった。
「赤色の目の狐って言ったらさ」
唐突に秋之介が口を開いたので、視線が一斉に彼に集まる。秋之介は珍しく真面目な顔をしていた。
「あかりんとこのおじさんを思い出すんだよな」
「お父様を? だけどお父様の毛色は……」
「当然知ってるぜ。黒じゃなくて金だろ」
「それに天翔様なら、あかりちゃんを凝視するんじゃなくて駆け寄ってきそうなものだけど」
あかりだけでなく昴にも言い詰められて秋之介はぐっと言葉を詰まらせた。しかし、意外なところから秋之介を支持する声があがる。
「例えば、符」
「結月?」
結月は呼びかけたあかりをちらりと見て、言葉を続けた。
「陰の国には式神に降す符がある。天翔様がそれによって操られているとしたら?」
昴は険しい顔をしていた。
「完全に否定はできないけど。それに傀儡説が適応されたらなんでもありみたいなものじゃない? 結局のところ今の僕たちには予想しかできなくて、それを確かめる術なんてないんだよね」
落とされたため息は重い。そんな中、あかりはすっくと立ちあがった。
「なら、今の私たちにできることをしよう!」
明るく力強いあかりの言葉に自然と言霊が宿る。結月たちも誘われるように顔を上げた。
「こういうときこそ思いっきり体を動かさなくちゃ! 秋、模擬実戦やろう!」
目を点にしていた秋之介だったが、すぐに大きな笑顔をつくり、にやりと笑った。
「いいぜ。ゆづと昴も一緒な!」
「……うん、わかった」
「まあ、こういう流れになるよねぇ」
あかりに引き続いて、秋之介、結月、昴も腰をあげる。向かう先は裏庭だ。足取りは軽く、そこには先ほどのような沈んだ空気はもうなかった。
「この間の結界巡回で捕えた人たちから話が聞けたよ」
「さっすが昴」
「それで、なんて言ってたの?」
あかりが話を促すと、昴は苦い顔をした。
「いつものことで、聴取の段になると彼らは人格が抹消されるようになってて、あんまり聞き出せなかったんだけど……。ああ、でも、ひとつだけ」
昴は人差し指を立てると、くるりと回した。
「他にいたっていう四人組は知らない人だって言ってたよ」
「仲間じゃなかったってこと?」
あかりが首を傾げると、昴は「それも一つの可能性だね」といった。
「どういうこと?」
「あかりの言うように仲間割れの可能性もあるけど、増援に送られてきたのは単純に顔見知りじゃない仲間だった可能性もあるってこと。だよね、昴?」
結月の確認の声に昴ははっきりと頷いた。
「僕たちだって陽の国の全員と知り合いってわけじゃないでしょ。それと同じことだよ」
「そうなの? 私は大体把握してるけど」
「それはあかりちゃんが特殊だからだよ」
昴は苦笑いを浮かべるが、あかりにはいまいち理解できない感覚だった。あかりは一度会話した相手の顔は忘れないという特技を持っている。陽の国の人たちには小さいころからお世話になっているので、ほとんどが顔見知りだ。知らない人がいないといってもいいくらいだとあかりは自負していたが、ここは話を脱線しないためにもあいまいに頷くに留めておいた。
「そんじゃあ、狐の妖については何もわかんなかったのか?」
秋之介の問いに昴は首肯し、次いであかりに顔を向けた。
「黒い毛に赤色の目。本当にあかりちゃんには心当たりがないの?」
確認するように問われて、あかりは再度記憶をなぞってみたがやはり該当する者はいない。しかし、あのとき一瞬だけ感じた懐かしいという感覚と未だまぶたの裏に焼き付いて離れない赤色の瞳に引っかかるものがあることも事実だった。
「赤色の目の狐って言ったらさ」
唐突に秋之介が口を開いたので、視線が一斉に彼に集まる。秋之介は珍しく真面目な顔をしていた。
「あかりんとこのおじさんを思い出すんだよな」
「お父様を? だけどお父様の毛色は……」
「当然知ってるぜ。黒じゃなくて金だろ」
「それに天翔様なら、あかりちゃんを凝視するんじゃなくて駆け寄ってきそうなものだけど」
あかりだけでなく昴にも言い詰められて秋之介はぐっと言葉を詰まらせた。しかし、意外なところから秋之介を支持する声があがる。
「例えば、符」
「結月?」
結月は呼びかけたあかりをちらりと見て、言葉を続けた。
「陰の国には式神に降す符がある。天翔様がそれによって操られているとしたら?」
昴は険しい顔をしていた。
「完全に否定はできないけど。それに傀儡説が適応されたらなんでもありみたいなものじゃない? 結局のところ今の僕たちには予想しかできなくて、それを確かめる術なんてないんだよね」
落とされたため息は重い。そんな中、あかりはすっくと立ちあがった。
「なら、今の私たちにできることをしよう!」
明るく力強いあかりの言葉に自然と言霊が宿る。結月たちも誘われるように顔を上げた。
「こういうときこそ思いっきり体を動かさなくちゃ! 秋、模擬実戦やろう!」
目を点にしていた秋之介だったが、すぐに大きな笑顔をつくり、にやりと笑った。
「いいぜ。ゆづと昴も一緒な!」
「……うん、わかった」
「まあ、こういう流れになるよねぇ」
あかりに引き続いて、秋之介、結月、昴も腰をあげる。向かう先は裏庭だ。足取りは軽く、そこには先ほどのような沈んだ空気はもうなかった。
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