【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
94 / 390
第七話 邂逅と予兆

第七話 六

しおりを挟む
 客間を出て外廊下を四人で連れ立って歩いていると、一三、四歳くらいの少年とすれ違った。
「和也くん」
 和也は玄舞家に仕える術者の一人である。あかりも玄舞家にはよく出入りしていたので昔からの顔なじみでもあった。あかりが名前を呼び止めると和也は勢いよく頭を下げて挨拶をした。
「あかり様! 皆さんも、お疲れ様です!」
 上げた顔には健やかな笑顔が輝いていた。つられるように昴が微笑む。
「和也くんはこれから結界巡回だっけ?」
「はい」
「そっか。一週間前のこともあるから気を付けてね」
「恐縮です。お気遣いいただきありがとうございます」
 和也は一礼すると忙しない足取りで廊下の角へ姿を消した。
「和也くんも立派になったよねぇ」
 後ろ姿を見送ってあかりがしみじみと呟くと、昴が得意げに笑った。
「ここのところ力も伸びてるし、将来を期待してる子でもあるからね」
「俺たちも負けてらんないな」
「だね。私たちも早く裏庭に行こう」
 あかりたちは止めていた足を再び動かした。
 裏庭に着くと、四人はさっそく模擬実戦の形式を確認する。
「今回は二対二で試合をしようか」
 昴はそのように提案すると組み分けも適当に済ませた。今回はあかりと秋之介、結月と昴に分けられた。開始の合図とともに各々動き出す。
 瞬時に白虎姿に変じた秋之介が、後衛で結界を展開しようとする昴の邪魔をする。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空……」
「させるかよっ!」
「うわっと!」
 振りぬかれる爪を最小限の動きで避け、昴は秋之介から距離をとった。
 一方、あかりは開始の合図と同時に顕現させた霊剣で、結月の霊符を発動する前に片っ端から燃やし、斬っていた。
「身上護神、急々……」
「はあっ!」
 霊符は真っ赤な狐火にのまれて跡形もなく消えてしまった。
 秋之介の攻撃をかわしながら、戦況の観察もしていた昴が「いい機会かも」と呟いた。耳聡い秋之介は嫌な予感がすると瞬時の判断で後方に飛び退る。昴はその一瞬の隙に自らの指の腹を食い破ると、溢れた血の玉に気を集中させて素早く九字を唱えた。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」
 すると黒く輝く結界が警戒態勢の秋之介を取り囲んだ。秋之介はそこから出ようとしたが結界はびくともしない。いつもの昴の結界なら力業で破れるのに今回は勝手が違うようだ。
「くっそ! さっきの妙な結界術のせいか⁉」
「ご名答! 水は血でも代用できるのか確かめたかったんだよね!」
 水を司る玄舞の一族は本来水を媒介にして結界を展開する。水がなくても結界は展開できるのだがなにせ威力が違う。昴は水の代わりに血液でも強力な結界が張れるのか試したかったようで、結果は上々といえるだろう。
「ああー! やられたー!」
 秋之介が悔しげに吼えるのを昴は面白そうに眺めていたが、まだ決着はついていないと今度はあかりの方を見た。
「ゆづくんってば苦戦してるみたいだね」
「結月の霊符は強いけど、発動させなきゃいいだけの、話っ!」
 あかりは霊符三枚をまとめて燃やし尽くした。
「そうはいっても二対一じゃ、さすがのあかりちゃんでも分が悪いんじゃない?」
 昴が九字を切って結月に守護の結界を張る。振り下ろされた霊剣は見えない壁に阻まれて狙い通りに霊符を斬ることができなかった。その隙に結月は霊符を発動させる。
「動静緊縛、急々如律令」
 青い光があたりを包み込む。あかりは指先すらも動かせずにぴたりと固まった。
「はい、僕たちの勝ちね」
 昴が手を打ち鳴らすと秋之介を捕えていた結界は消失した。結月もあかりに張り付いた霊符をそっとはがした。
 動けるようになるなり、あかりは結月の両肩を掴んで前後に揺さぶった。結月は無表情でされるがままになっている。
「くーやーしーいー!」
「……あかりは力業に頼りすぎ。もっと考えて動くことも、必要」
「だっていつもは結月とか昴が補助してくれるから、そういうの苦手なの!」
「おれたちがいなかったらどうするの。すごく、心配……」
秋之介があかりの背後で腕を組んで言った。
「頭使って戦うなんて、んなまどろっこしいことできねえよ。それに今回は昴が新しいことやろうとしてたし」
「こういうときに試しとかないとね」
 じとりとした目で秋之介に見られても、昴は達成感に満ちた爽やかな笑顔を浮かべていた。
「秋くんもやり方がわかりやすすぎるよ。もっと工夫しないと」
「くっそー! 次こそみてろよ。な、あかり!」
「うん! 次こそ勝とうね、秋!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...