121 / 390
第一〇話 夢幻のような
第一〇話 一
しおりを挟む
陰の国の幼帝派と一時協定を結んでからというもの、あかりたちのもとに入る情報の量はぐっと増えた。しかし、それに比例するように先代帝の弟である現帝派からの攻撃は激しくなっていった。
皐月のはじめ。例年なら晴れる日が多いこの時期だが、今日もどんよりとした厚い灰色の雲が空一面を覆っていた。
木立の合間から空を見上げて、同じように顔を曇らせるあかりに僅かに先を歩いていた結月が足を止め、あかりを振り返った。
「どうしたの?」
「天気が悪くて嫌になるなぁって」
燦々とした光を地上にもたらす太陽が恋しくなる。
あかりがため息を吐くと、あかりの後ろにいた昴が「仕方ないよ」と呟いた。
「陰の国からの気が流れ込みすぎてて、こっちの気まで乱されてるんだから」
昴の隣を歩いていた秋之介は大きく肩をすくめた。
「いい迷惑だぜ」
「本当にね。……!」
昴が言いかけた言葉を飲みこんで、警戒感を露わにぴたりと動きを止めた。言われるまでもなくあかりたちも気配の変化に気がついた。
「艮の結界だね」
あかりが言うと、昴たちも頷いた。そして誰からともなく件の結界へ向かって走り出した。
艮の結界にはすでに仲間たちがいて、陰の国の式神使いや式神と応戦していた。
「戦況は⁉」
「昴様!」
昴の一声に、仲間の呪術師は安堵の表情を浮かべた。しかし攻撃の手は緩めないで、彼は報告をした。
「さして強力ではありませんが、いかんせん数が多すぎます。味方に死傷者はなく、現在は拮抗状態です」
「わかった、ありがとう。あかりちゃん!」
「うん!」
戦況からしてあかりは自分の力が頼られることを予想していた。突然昴に名前を呼ばれても驚くことはない。結月と秋之介も同様で、各々臨戦態勢をとった。
結月が霊符を発動させると青い光がふわりと広がった。ほぼ同時に、秋之介は白虎姿に変じ、昴は結界を張る。
あかりは霊剣を顕現させるとまぶたを閉じて、気を集中させた。そして言霊に祈りを込めて朗々と謡う。
「奇一奇一たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方御方長南、たちまち急戦を貫き、南都に達し、朱咲に感ず、奇一奇一たちまち感通」
あかりから赤い光が流れ出す。呼応するように霊剣からほとばしる炎がいっそう激しく燃えた。
「急々如律令!」
あかりがあたり一帯を斬り払うと、赤い光が空間を支配した。仲間には何の影響もないが、光にあてられた敵の式神使いは気を失って倒れ、式神は魂が浄化され還っていった。
あれほど苦戦をしていたのが嘘のように、あかりはあっという間に戦況を覆し、戦いを終結させた。
「最近こんなのばっかりだよね」
あかりは霊剣を消すと近くにいた結月と秋之介を振り返った。昴は仲間に指示を出し、後処理に追われている。
「そうだね。強くはない、けど、数が多い」
「ったく、何がしたいんだか」
「今日は怪我人が出なく良かったけど」
二年前の洪水で朱咲家の者はあかりと天翔以外全滅、また一年前の侵攻で玄舞家の者は半分が失われていた。ただでさえ少ない仲間はここ最近の戦闘で疲弊気味で、ときには怪我人も出ていた。
「焦っても仕方ないけど……でも、どうにかならないのかな」
できることなら戦いの毎日などすぐにでも終わらせたい。
あかりは再度空を見上げた。先ほどよりも雲は厚さを増しており、遠く雨のにおいがした。
皐月のはじめ。例年なら晴れる日が多いこの時期だが、今日もどんよりとした厚い灰色の雲が空一面を覆っていた。
木立の合間から空を見上げて、同じように顔を曇らせるあかりに僅かに先を歩いていた結月が足を止め、あかりを振り返った。
「どうしたの?」
「天気が悪くて嫌になるなぁって」
燦々とした光を地上にもたらす太陽が恋しくなる。
あかりがため息を吐くと、あかりの後ろにいた昴が「仕方ないよ」と呟いた。
「陰の国からの気が流れ込みすぎてて、こっちの気まで乱されてるんだから」
昴の隣を歩いていた秋之介は大きく肩をすくめた。
「いい迷惑だぜ」
「本当にね。……!」
昴が言いかけた言葉を飲みこんで、警戒感を露わにぴたりと動きを止めた。言われるまでもなくあかりたちも気配の変化に気がついた。
「艮の結界だね」
あかりが言うと、昴たちも頷いた。そして誰からともなく件の結界へ向かって走り出した。
艮の結界にはすでに仲間たちがいて、陰の国の式神使いや式神と応戦していた。
「戦況は⁉」
「昴様!」
昴の一声に、仲間の呪術師は安堵の表情を浮かべた。しかし攻撃の手は緩めないで、彼は報告をした。
「さして強力ではありませんが、いかんせん数が多すぎます。味方に死傷者はなく、現在は拮抗状態です」
「わかった、ありがとう。あかりちゃん!」
「うん!」
戦況からしてあかりは自分の力が頼られることを予想していた。突然昴に名前を呼ばれても驚くことはない。結月と秋之介も同様で、各々臨戦態勢をとった。
結月が霊符を発動させると青い光がふわりと広がった。ほぼ同時に、秋之介は白虎姿に変じ、昴は結界を張る。
あかりは霊剣を顕現させるとまぶたを閉じて、気を集中させた。そして言霊に祈りを込めて朗々と謡う。
「奇一奇一たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方御方長南、たちまち急戦を貫き、南都に達し、朱咲に感ず、奇一奇一たちまち感通」
あかりから赤い光が流れ出す。呼応するように霊剣からほとばしる炎がいっそう激しく燃えた。
「急々如律令!」
あかりがあたり一帯を斬り払うと、赤い光が空間を支配した。仲間には何の影響もないが、光にあてられた敵の式神使いは気を失って倒れ、式神は魂が浄化され還っていった。
あれほど苦戦をしていたのが嘘のように、あかりはあっという間に戦況を覆し、戦いを終結させた。
「最近こんなのばっかりだよね」
あかりは霊剣を消すと近くにいた結月と秋之介を振り返った。昴は仲間に指示を出し、後処理に追われている。
「そうだね。強くはない、けど、数が多い」
「ったく、何がしたいんだか」
「今日は怪我人が出なく良かったけど」
二年前の洪水で朱咲家の者はあかりと天翔以外全滅、また一年前の侵攻で玄舞家の者は半分が失われていた。ただでさえ少ない仲間はここ最近の戦闘で疲弊気味で、ときには怪我人も出ていた。
「焦っても仕方ないけど……でも、どうにかならないのかな」
できることなら戦いの毎日などすぐにでも終わらせたい。
あかりは再度空を見上げた。先ほどよりも雲は厚さを増しており、遠く雨のにおいがした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
《完結》悪役聖女
ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる