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第一〇話 夢幻のような
第一〇話 一
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陰の国の幼帝派と一時協定を結んでからというもの、あかりたちのもとに入る情報の量はぐっと増えた。しかし、それに比例するように先代帝の弟である現帝派からの攻撃は激しくなっていった。
皐月のはじめ。例年なら晴れる日が多いこの時期だが、今日もどんよりとした厚い灰色の雲が空一面を覆っていた。
木立の合間から空を見上げて、同じように顔を曇らせるあかりに僅かに先を歩いていた結月が足を止め、あかりを振り返った。
「どうしたの?」
「天気が悪くて嫌になるなぁって」
燦々とした光を地上にもたらす太陽が恋しくなる。
あかりがため息を吐くと、あかりの後ろにいた昴が「仕方ないよ」と呟いた。
「陰の国からの気が流れ込みすぎてて、こっちの気まで乱されてるんだから」
昴の隣を歩いていた秋之介は大きく肩をすくめた。
「いい迷惑だぜ」
「本当にね。……!」
昴が言いかけた言葉を飲みこんで、警戒感を露わにぴたりと動きを止めた。言われるまでもなくあかりたちも気配の変化に気がついた。
「艮の結界だね」
あかりが言うと、昴たちも頷いた。そして誰からともなく件の結界へ向かって走り出した。
艮の結界にはすでに仲間たちがいて、陰の国の式神使いや式神と応戦していた。
「戦況は⁉」
「昴様!」
昴の一声に、仲間の呪術師は安堵の表情を浮かべた。しかし攻撃の手は緩めないで、彼は報告をした。
「さして強力ではありませんが、いかんせん数が多すぎます。味方に死傷者はなく、現在は拮抗状態です」
「わかった、ありがとう。あかりちゃん!」
「うん!」
戦況からしてあかりは自分の力が頼られることを予想していた。突然昴に名前を呼ばれても驚くことはない。結月と秋之介も同様で、各々臨戦態勢をとった。
結月が霊符を発動させると青い光がふわりと広がった。ほぼ同時に、秋之介は白虎姿に変じ、昴は結界を張る。
あかりは霊剣を顕現させるとまぶたを閉じて、気を集中させた。そして言霊に祈りを込めて朗々と謡う。
「奇一奇一たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方御方長南、たちまち急戦を貫き、南都に達し、朱咲に感ず、奇一奇一たちまち感通」
あかりから赤い光が流れ出す。呼応するように霊剣からほとばしる炎がいっそう激しく燃えた。
「急々如律令!」
あかりがあたり一帯を斬り払うと、赤い光が空間を支配した。仲間には何の影響もないが、光にあてられた敵の式神使いは気を失って倒れ、式神は魂が浄化され還っていった。
あれほど苦戦をしていたのが嘘のように、あかりはあっという間に戦況を覆し、戦いを終結させた。
「最近こんなのばっかりだよね」
あかりは霊剣を消すと近くにいた結月と秋之介を振り返った。昴は仲間に指示を出し、後処理に追われている。
「そうだね。強くはない、けど、数が多い」
「ったく、何がしたいんだか」
「今日は怪我人が出なく良かったけど」
二年前の洪水で朱咲家の者はあかりと天翔以外全滅、また一年前の侵攻で玄舞家の者は半分が失われていた。ただでさえ少ない仲間はここ最近の戦闘で疲弊気味で、ときには怪我人も出ていた。
「焦っても仕方ないけど……でも、どうにかならないのかな」
できることなら戦いの毎日などすぐにでも終わらせたい。
あかりは再度空を見上げた。先ほどよりも雲は厚さを増しており、遠く雨のにおいがした。
皐月のはじめ。例年なら晴れる日が多いこの時期だが、今日もどんよりとした厚い灰色の雲が空一面を覆っていた。
木立の合間から空を見上げて、同じように顔を曇らせるあかりに僅かに先を歩いていた結月が足を止め、あかりを振り返った。
「どうしたの?」
「天気が悪くて嫌になるなぁって」
燦々とした光を地上にもたらす太陽が恋しくなる。
あかりがため息を吐くと、あかりの後ろにいた昴が「仕方ないよ」と呟いた。
「陰の国からの気が流れ込みすぎてて、こっちの気まで乱されてるんだから」
昴の隣を歩いていた秋之介は大きく肩をすくめた。
「いい迷惑だぜ」
「本当にね。……!」
昴が言いかけた言葉を飲みこんで、警戒感を露わにぴたりと動きを止めた。言われるまでもなくあかりたちも気配の変化に気がついた。
「艮の結界だね」
あかりが言うと、昴たちも頷いた。そして誰からともなく件の結界へ向かって走り出した。
艮の結界にはすでに仲間たちがいて、陰の国の式神使いや式神と応戦していた。
「戦況は⁉」
「昴様!」
昴の一声に、仲間の呪術師は安堵の表情を浮かべた。しかし攻撃の手は緩めないで、彼は報告をした。
「さして強力ではありませんが、いかんせん数が多すぎます。味方に死傷者はなく、現在は拮抗状態です」
「わかった、ありがとう。あかりちゃん!」
「うん!」
戦況からしてあかりは自分の力が頼られることを予想していた。突然昴に名前を呼ばれても驚くことはない。結月と秋之介も同様で、各々臨戦態勢をとった。
結月が霊符を発動させると青い光がふわりと広がった。ほぼ同時に、秋之介は白虎姿に変じ、昴は結界を張る。
あかりは霊剣を顕現させるとまぶたを閉じて、気を集中させた。そして言霊に祈りを込めて朗々と謡う。
「奇一奇一たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方御方長南、たちまち急戦を貫き、南都に達し、朱咲に感ず、奇一奇一たちまち感通」
あかりから赤い光が流れ出す。呼応するように霊剣からほとばしる炎がいっそう激しく燃えた。
「急々如律令!」
あかりがあたり一帯を斬り払うと、赤い光が空間を支配した。仲間には何の影響もないが、光にあてられた敵の式神使いは気を失って倒れ、式神は魂が浄化され還っていった。
あれほど苦戦をしていたのが嘘のように、あかりはあっという間に戦況を覆し、戦いを終結させた。
「最近こんなのばっかりだよね」
あかりは霊剣を消すと近くにいた結月と秋之介を振り返った。昴は仲間に指示を出し、後処理に追われている。
「そうだね。強くはない、けど、数が多い」
「ったく、何がしたいんだか」
「今日は怪我人が出なく良かったけど」
二年前の洪水で朱咲家の者はあかりと天翔以外全滅、また一年前の侵攻で玄舞家の者は半分が失われていた。ただでさえ少ない仲間はここ最近の戦闘で疲弊気味で、ときには怪我人も出ていた。
「焦っても仕方ないけど……でも、どうにかならないのかな」
できることなら戦いの毎日などすぐにでも終わらせたい。
あかりは再度空を見上げた。先ほどよりも雲は厚さを増しており、遠く雨のにおいがした。
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