【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一〇話 夢幻のような

第一〇話 九

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それまで静かに事の運びを見守っていた結月と秋之介だったが、ここでようやく秋之介が声をあげた。
「次はどこに行くんだ?」
 調子を取り戻した昴が顔を上げた。
「夜には菊助様たちはうちに来るって言ってたし、日のあるうちは街で遊ぼうかと思ってるんだけど、どうかな?」
「そうなの?」
 夜の予定を知らなかったあかりだったが、そういうことならば異論はない。
「私は賛成だよ。二人は?」
 結月と秋之介を振り返れば、二人も賛意を示した。
「今日は、あかりのしたいようにする、だけ」
「だな。俺らの姫様の仰せのままに~、ってな」
「まずはどこに行こうか?」
 ここしばらくは巡回の任務でしか街に出ていなかったので、気になる店はいくつかあった。それらを順番に脳内に並べていくうちに、あかりはあることに気がついた。
「……小腹が空いたかも」
 秋之介がふきだす隣で、昴も苦笑していた。結月だけは呆れもせず、真面目にあかりに取り合った。
「そろそろ巳の刻。あかりは、何が食べたい?」
「お団子もいいけど大福も捨てがたいなぁ。あ、おまんじゅうもいいかも! でもせっかく街に行くんだったらあんみつとか冷やしぜんざいでもいいな」
「どんだけ食うつもりだよ」
 秋之介に盛大なため息をつかれたあかりは頬を膨らませた。
「どれも美味しいんだからしかたないじゃない」
「だからって食い意地張りすぎだろ」
「ちゃんとひとつに絞るよ!」
 あかりは迷いに迷って巳の刻のおやつを決めた。
「うん、決めた! あんみつにする!」
「あんみつだったら、武蔵さんのところの、だよね?」
 結月が名前を出した甘味処は、あかりたちが小さいときから足を運んでいたあんみつの有名店だ。昔ほどではないが、今でも時おり顔を出す馴染みの店だった。
あかりが大きく頷くと、一行は竹林を引き返した。竹林を吹き抜ける風は不思議と冷涼で、笹が擦れあう音が耳に心地よく響く。竹林を抜けると、眩しさを増した太陽と生温い風があかりたちを出迎えた。
「暑いねぇ」
 昴は懐から取り出した手ぬぐいで額の汗を拭っていた。玄舞の司る季節は冬なので、昴は暑さが苦手だという。反対にあかりは朱咲の司る季節である夏には強い。今も汗ひとつかかず平然としている。
「大丈夫、昴?」
 あかりが訊くと、昴は「うん」と頷いた。
「あかりちゃんこそ暑さに強いからって油断しちゃ駄目だよ。ちゃんと水分と塩分をとること」
「はーい」
 まるで母親みたいだな、と思いながらあかりは笑いを含んだ返事をした。昴も小さく笑っていた。
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