139 / 390
第一一話 夏のひととき
第一一話 一
しおりを挟む
未だに天気のすぐれない日が多いが、梅雨明けの気配は感じられる文月のある日。
「今日は雨、降らないといいね」
「うん」
あかりと同じように結月も空を見上げる。雨のにおいは感じられないが、雲が多かった。
例年行われてきた国を挙げての夏祭りを今年は三年ぶりに開催するということで町は活気づいていた。こんな非常時に祭りをやるなんてと反対する者らももちろんいたが、四家となにより御上が太鼓判を押したことで祭りは決行となった。
今日はその夏祭り当日である。
四家の者らは見回りの任務を与えられていて、あかりと結月もその最中だ。新年の祭りを見て回ったときに昴が言っていたように祭りの明るい気が邪気払いになっているのか、今のところ騒動は起こっていない。
任務中とはいってもある程度祭りを楽しむことは許可されているので民の明るい顔を眺めながら、あかりは途中で買ったりんご飴をのんびりと味わっていた。
「ん、美味しい。……それにしても、今日は何も起こらなそうだね」
頷きかけた結月だったが突然「あ……」と小さな声をもらした。あかりは結月の顔を見上げてから彼の視線の先に目を留めた。
そこには年端もいかない女の子がおろおろと視線を彷徨わせながら立っていた。女の子の頭からは三角の耳が、尾てい骨あたりからは二又のしっぽが出ていた。どうやら猫又の妖らしく、不安からか変化が上手くいっていない様子だ。
「迷子かな?」
「かも、しれない。声、かけてみよう」
結月が迷いなく歩き出す。あかりはその後に続いた。
「こんにちは」
結月はしゃがんで女の子と視線の高さを合わせると、普段よりも幾分柔らかな表情と声で女の子に話しかけた。
あかりは結月の後ろで黙ってことの成り行きを見守っていた。その表情は愉しげだ。
(小さい子には特に優しいんだよね、結月は)
もとより結月は誰よりも優しい性格をしているが、それも含め感情が表に出にくいところがある。本人も前者はともかく後者は自覚しているようで、小さい子ども相手には努めて柔らかな対応を意識しているようだった。
こんなとき結月の優しさを感じられること、それを第三者にも知ってもらえることがあかりには嬉しくて誇らしかった。
話しかけられた女の子は涙目で結月を見返すと、不安に揺れる声で「……こんにちは」と言った。
「迷子?」
女の子はこくりと頷いた。
「誰と、祭りに来てたの?」
「お父さんとお母さん」
「わかった」
結月はしゃがんだ体勢のまま、あかりを振り仰いだ。
「この子を、両親のもとに、送り届けたい。……いい?」
「もちろんだよ」
あかりは笑顔で即答するといそいそと女の子の側に近寄った。膝を軽く折って目線の高さを下げると、あかりは女の子に笑いかけた。
「私はあかり。こっちは結月って言うの。あなたのお名前は?」
「小春」
「うん、小春ちゃんね。今から小春ちゃんのお父さんとお母さんを一緒に探そう」
「……ありがとう」
小春の不安は少しだけ払われたのかもしれない。お礼を呟く声は小さくとも先ほどのように震えてはいなかった。
結月は安心したように微笑みを落とすと小春に左手を差し出した。それに合わせてあかりも自身の右手を小春に向けて伸ばした。
「小春ちゃん、手をつないでいかない?」
「……うん」
少し戸惑う素振りを見せたものの、小春はそっと両手にあかりと結月の手を握った。
「よしっ、行こう!」
三人は横並びになって人並みの中に戻った。
「今日は雨、降らないといいね」
「うん」
あかりと同じように結月も空を見上げる。雨のにおいは感じられないが、雲が多かった。
例年行われてきた国を挙げての夏祭りを今年は三年ぶりに開催するということで町は活気づいていた。こんな非常時に祭りをやるなんてと反対する者らももちろんいたが、四家となにより御上が太鼓判を押したことで祭りは決行となった。
今日はその夏祭り当日である。
四家の者らは見回りの任務を与えられていて、あかりと結月もその最中だ。新年の祭りを見て回ったときに昴が言っていたように祭りの明るい気が邪気払いになっているのか、今のところ騒動は起こっていない。
任務中とはいってもある程度祭りを楽しむことは許可されているので民の明るい顔を眺めながら、あかりは途中で買ったりんご飴をのんびりと味わっていた。
「ん、美味しい。……それにしても、今日は何も起こらなそうだね」
頷きかけた結月だったが突然「あ……」と小さな声をもらした。あかりは結月の顔を見上げてから彼の視線の先に目を留めた。
そこには年端もいかない女の子がおろおろと視線を彷徨わせながら立っていた。女の子の頭からは三角の耳が、尾てい骨あたりからは二又のしっぽが出ていた。どうやら猫又の妖らしく、不安からか変化が上手くいっていない様子だ。
「迷子かな?」
「かも、しれない。声、かけてみよう」
結月が迷いなく歩き出す。あかりはその後に続いた。
「こんにちは」
結月はしゃがんで女の子と視線の高さを合わせると、普段よりも幾分柔らかな表情と声で女の子に話しかけた。
あかりは結月の後ろで黙ってことの成り行きを見守っていた。その表情は愉しげだ。
(小さい子には特に優しいんだよね、結月は)
もとより結月は誰よりも優しい性格をしているが、それも含め感情が表に出にくいところがある。本人も前者はともかく後者は自覚しているようで、小さい子ども相手には努めて柔らかな対応を意識しているようだった。
こんなとき結月の優しさを感じられること、それを第三者にも知ってもらえることがあかりには嬉しくて誇らしかった。
話しかけられた女の子は涙目で結月を見返すと、不安に揺れる声で「……こんにちは」と言った。
「迷子?」
女の子はこくりと頷いた。
「誰と、祭りに来てたの?」
「お父さんとお母さん」
「わかった」
結月はしゃがんだ体勢のまま、あかりを振り仰いだ。
「この子を、両親のもとに、送り届けたい。……いい?」
「もちろんだよ」
あかりは笑顔で即答するといそいそと女の子の側に近寄った。膝を軽く折って目線の高さを下げると、あかりは女の子に笑いかけた。
「私はあかり。こっちは結月って言うの。あなたのお名前は?」
「小春」
「うん、小春ちゃんね。今から小春ちゃんのお父さんとお母さんを一緒に探そう」
「……ありがとう」
小春の不安は少しだけ払われたのかもしれない。お礼を呟く声は小さくとも先ほどのように震えてはいなかった。
結月は安心したように微笑みを落とすと小春に左手を差し出した。それに合わせてあかりも自身の右手を小春に向けて伸ばした。
「小春ちゃん、手をつないでいかない?」
「……うん」
少し戸惑う素振りを見せたものの、小春はそっと両手にあかりと結月の手を握った。
「よしっ、行こう!」
三人は横並びになって人並みの中に戻った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
《完結》悪役聖女
ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる