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第一二話 葉月の凶事
第一二話 一〇
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「よお、昴」
「おはよう。お邪魔、してます」
「秋くん、ゆづくん」
振り返った昴は明らかに疲弊していた。結月ともども寝不足であるはずの昴だったが、あかりから離れることはないようだった。あかりの容態を診ながら、護符の改良も進めていたらしい。昴の側には何枚かの護符が落ちていた。
「これが噂の護符か」
秋之介はかがんで一枚を拾い上げた。昴の「ゆづくんから聞いたの?」という問いに頷きを返す。護符からは結月と昴の気が感じ取れた。
「どんな風に改良してんだ?」
秋之介の問いにそれぞれが答える。
「おれは、昴の術の効力を、高めるように、した」
「……僕は、あかりちゃんの回復力を促進できないか試してみたよ」
秋之介は護符をひらりと宙にかざして、それをじっと見上げた。
「なんであかりは目覚めないんだろうな」
それからあかりへと視線を移す。
布団に寝かされているあかりは今日も静かに呼吸だけを繰り返している。その姿が人間姿であることから、霊力は回復しているのではないかと思われた。それにこれだけ昴が世話をして休んでいるのだから体力もそれなりには戻ってきているだろう。では、なぜあかりは今もなお意識がないままなのか。秋之介にはそれが不思議でならなかった。
すると昴が重々しく呟いた。
「……呪詛だったんだ」
「は? 呪詛?」
目を瞠る秋之介と結月に、昴は暗い表情で答えた。
「僕もずっとなんでだろうって思ってた。それで原因をずっと探ってたんだ。昨夜やっとわかったことで、あの妖狐は高度な呪詛をのせていたらしい」
それであかりはなかなか目覚めなかったのかと秋之介が納得する一方で、結月は僅かに身を乗り出して昴に訊いた。
「解呪は、したの?」
昴は頭を動かすのすら怠そうにして言った。
「朝までかけてなんとか。これであかりちゃんの目が覚めるはずだって思いたい」
「うん……。昴、ありがとう」
「……お礼を言ってもらう資格なんて、僕にはないよ」
昴は自嘲気味に嗤った。結月は困ったような悲しそうな表情を浮かべていた。
二人を後目に、秋之介はあかりに向かって心中で語りかけた。
(なあ、あかり。やっぱり俺だけじゃ駄目みたいだ。こいつらを救えんのはおまえしかいねえよ。早く起きてさ、いつもみたいに腹減ったって笑ってくれよ)
しかしあかりは、まぶたを震わすことすらしなかった。
「おはよう。お邪魔、してます」
「秋くん、ゆづくん」
振り返った昴は明らかに疲弊していた。結月ともども寝不足であるはずの昴だったが、あかりから離れることはないようだった。あかりの容態を診ながら、護符の改良も進めていたらしい。昴の側には何枚かの護符が落ちていた。
「これが噂の護符か」
秋之介はかがんで一枚を拾い上げた。昴の「ゆづくんから聞いたの?」という問いに頷きを返す。護符からは結月と昴の気が感じ取れた。
「どんな風に改良してんだ?」
秋之介の問いにそれぞれが答える。
「おれは、昴の術の効力を、高めるように、した」
「……僕は、あかりちゃんの回復力を促進できないか試してみたよ」
秋之介は護符をひらりと宙にかざして、それをじっと見上げた。
「なんであかりは目覚めないんだろうな」
それからあかりへと視線を移す。
布団に寝かされているあかりは今日も静かに呼吸だけを繰り返している。その姿が人間姿であることから、霊力は回復しているのではないかと思われた。それにこれだけ昴が世話をして休んでいるのだから体力もそれなりには戻ってきているだろう。では、なぜあかりは今もなお意識がないままなのか。秋之介にはそれが不思議でならなかった。
すると昴が重々しく呟いた。
「……呪詛だったんだ」
「は? 呪詛?」
目を瞠る秋之介と結月に、昴は暗い表情で答えた。
「僕もずっとなんでだろうって思ってた。それで原因をずっと探ってたんだ。昨夜やっとわかったことで、あの妖狐は高度な呪詛をのせていたらしい」
それであかりはなかなか目覚めなかったのかと秋之介が納得する一方で、結月は僅かに身を乗り出して昴に訊いた。
「解呪は、したの?」
昴は頭を動かすのすら怠そうにして言った。
「朝までかけてなんとか。これであかりちゃんの目が覚めるはずだって思いたい」
「うん……。昴、ありがとう」
「……お礼を言ってもらう資格なんて、僕にはないよ」
昴は自嘲気味に嗤った。結月は困ったような悲しそうな表情を浮かべていた。
二人を後目に、秋之介はあかりに向かって心中で語りかけた。
(なあ、あかり。やっぱり俺だけじゃ駄目みたいだ。こいつらを救えんのはおまえしかいねえよ。早く起きてさ、いつもみたいに腹減ったって笑ってくれよ)
しかしあかりは、まぶたを震わすことすらしなかった。
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