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第一二話 葉月の凶事
第一二話 一一
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長月最後の日になった。
あかりの意識は戻らないまま、無情にも時間だけが流れ過ぎていく。
この日は珍しく昴は席をたっていて、秋之介も外せない用事があると言って玄舞家には来ていない。この部屋にいるのは眠ったままのあかりと、彼女を思案げに見つめる結月だけだった。
「あかり……」
結月はそっとあかりの手を取った。いつもなら結月より高い体温で温かいあかりの手だったが、今は立場が逆転している。ややひんやりとした小さな手に結月は不安を覚えた。
(なんで、いつもいつも、あかりを守りきれないんだろう)
何度となくあかりを守ろうと胸に誓うのに、それが果たされたためしがない。
強く前向きなあかりはいつだって結月の先を走って行ってしまう。結月はいつもそれを追いかけていた。はぐれないように、見失わないように。
結果、先頭に立つ彼女が一番に傷つく。結月が追いついたときには、あかりは傷ついた後なのだった。
今回のことだってそうだ。司から予言は受けていたのに、あかりを戦場に向かわせた。あかりが先を行ってしまうことはわかりきっていたはずなのに、止められなかった。あかりが嫌だと言ったとしても、比較的安全な玄舞家に待機してもらえばこんなことにはならずに済んだかもしれない。
後悔は後から後から波のように押し寄せる。きりがなかった。
自分にあかりのような強さがあったなら、彼女の隣を、あるいは一歩でも先を走れる存在になれただろうか。
そう思っても彼女を止めきれないのは、あかりの意思で選んだ道を走りゆく彼女の姿や笑顔が好きで、尊いものだと信じているからだった。つまるところ、結月はあかりらしさを失わない彼女が好きで、そんなあかりだからこそ守りたいと思っているのだった。
結月はあかりの顔を見た。呪詛を解いたというのに、あかりに変化はない。それがもう二〇日近く続いていた。
昴は倒れる寸前だったが、それでもあかりの側を離れたがらなかった。罪責感に苦しみ、責任感に追い立てられ、気持ちだけで動いているようなもので、結月も心配していた。
また、三人の中では比較的冷静さを保っていた秋之介にも日に日に余裕がなくなっている。当り散らすことはないが、苛立っていることは明白だった。直接的にあかりの力になれないことをもどかしく思っていることは手に取るようにわかった。
そして結月も他人のことは言えなかった。あかりのいない時間は何かが足りないような気がして、落ち着かない。護符の改良に集中しようとしてもできなくて、任務でも力加減を間違えて危うく式神を魂ごと消滅させるところだった。なによりあかりが側にいないことで、毎日胸が苦しかった。
「ねえ、あかり。おれたち、あかりがいないと、駄目だよ……」
三年前にあかりがいなかった期間、一体どうやって乗り切ったのだろうと思わずにはいられないほど結月たちは参っていた。現実が厳しさを増すにつれ、あかりの存在は希望そのものになっていた。
「あかりがいるから、みんな、頑張れたんだよ……?」
答える声はなく、耳が痛いほどの静寂が部屋を支配する。
「あかり……」
切ない響きを帯びた結月の呟きが、空しく溶け消えた。
あかりの意識は戻らないまま、無情にも時間だけが流れ過ぎていく。
この日は珍しく昴は席をたっていて、秋之介も外せない用事があると言って玄舞家には来ていない。この部屋にいるのは眠ったままのあかりと、彼女を思案げに見つめる結月だけだった。
「あかり……」
結月はそっとあかりの手を取った。いつもなら結月より高い体温で温かいあかりの手だったが、今は立場が逆転している。ややひんやりとした小さな手に結月は不安を覚えた。
(なんで、いつもいつも、あかりを守りきれないんだろう)
何度となくあかりを守ろうと胸に誓うのに、それが果たされたためしがない。
強く前向きなあかりはいつだって結月の先を走って行ってしまう。結月はいつもそれを追いかけていた。はぐれないように、見失わないように。
結果、先頭に立つ彼女が一番に傷つく。結月が追いついたときには、あかりは傷ついた後なのだった。
今回のことだってそうだ。司から予言は受けていたのに、あかりを戦場に向かわせた。あかりが先を行ってしまうことはわかりきっていたはずなのに、止められなかった。あかりが嫌だと言ったとしても、比較的安全な玄舞家に待機してもらえばこんなことにはならずに済んだかもしれない。
後悔は後から後から波のように押し寄せる。きりがなかった。
自分にあかりのような強さがあったなら、彼女の隣を、あるいは一歩でも先を走れる存在になれただろうか。
そう思っても彼女を止めきれないのは、あかりの意思で選んだ道を走りゆく彼女の姿や笑顔が好きで、尊いものだと信じているからだった。つまるところ、結月はあかりらしさを失わない彼女が好きで、そんなあかりだからこそ守りたいと思っているのだった。
結月はあかりの顔を見た。呪詛を解いたというのに、あかりに変化はない。それがもう二〇日近く続いていた。
昴は倒れる寸前だったが、それでもあかりの側を離れたがらなかった。罪責感に苦しみ、責任感に追い立てられ、気持ちだけで動いているようなもので、結月も心配していた。
また、三人の中では比較的冷静さを保っていた秋之介にも日に日に余裕がなくなっている。当り散らすことはないが、苛立っていることは明白だった。直接的にあかりの力になれないことをもどかしく思っていることは手に取るようにわかった。
そして結月も他人のことは言えなかった。あかりのいない時間は何かが足りないような気がして、落ち着かない。護符の改良に集中しようとしてもできなくて、任務でも力加減を間違えて危うく式神を魂ごと消滅させるところだった。なによりあかりが側にいないことで、毎日胸が苦しかった。
「ねえ、あかり。おれたち、あかりがいないと、駄目だよ……」
三年前にあかりがいなかった期間、一体どうやって乗り切ったのだろうと思わずにはいられないほど結月たちは参っていた。現実が厳しさを増すにつれ、あかりの存在は希望そのものになっていた。
「あかりがいるから、みんな、頑張れたんだよ……?」
答える声はなく、耳が痛いほどの静寂が部屋を支配する。
「あかり……」
切ない響きを帯びた結月の呟きが、空しく溶け消えた。
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