【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一三話 守りたいもの

第一三話 一二

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どくんと鼓動が跳ねる。
(ここまで伝えても昴は認めてくれない?)
  青ざめるあかりだったが、続く昴の言葉に杞憂だったことを知る。
「僕が思うより、君はずっと強い。そのことが僕にはわかっていなかったみたいだ」
(昴……)
  瞳を煌めかせるあかりに昴は微笑み返した。そこに今朝のような憂いは見られない。
「戦おう、一緒に。大切なもののために」
「ー」
  あかりを信じてくれたことへの嬉しさと感謝をのせて名前を呼びたかった。しかし吸い込んだ息は音にならない。これほどまでに声が出ないことを悔しいと思ったことはなかった。
(ありがとう、昴)
  だからあかりは言葉の代わりに笑顔を送る。笑う気になれないと数刻前まで嘆いていたのが嘘だったかのように、笑みが溢れた。
  昴もまた久々に晴れやかな微笑みを見せる。それは昴の中の迷いに決着がついたことの証でもあった。
「だけどね、忘れないでね、あかりちゃん。大切なものの中に君が含まれていること。あかりちゃんが僕たちを守りたいと願うように、僕もあかりちゃんを守りたいって思ってること」
  大切な人を守りたい思いは痛いほどわかる。あかりはしっかりと頷いた。
「だから、あかりちゃんを守る自由だけは僕から取りあげないでほしいな」
  互いに譲れないものがあるから、それがあかりと昴の落としどころなのだと思う。
  あかりは『わかったよ』と答えた。
昴との話が一段落して彼の背後を見やると、結月と秋之介と目があった。二人ともこの結果に安堵の微笑を浮かべていた。
「あかりがそうしたいなら、おれは止めない。でも昴が言ったように、おれもあかりのこと、守るから」
「そういうこった。あかりには俺たちがついてる。それを忘れんなよ」
  結月も秋之介も、あかりの意志を尊重してくれるようだった。その上であかりのことを守りたいと言ってくれる。
(ああ、私は恵まれてるな)
  幸せをのせた柔らかな笑みが自然とこぼれる。
  あかりが感謝をこめて頷けば、三人にも伝わったらしく優しい微笑みが返ってきた。
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