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第一三話 守りたいもの
第一三話 一三
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その後、あかりたちは未申の刻に合わせて一息つくことにした。
まろやかな口当たりでほんのり甘く、後味は爽やかな温かい緑茶にほっとする。緑茶のお供は五色の金平糖だった。
(珍しく黄色の金平糖があるわ……?)
物珍しく思ったのはあかりだけではなく、結月と秋之介も同様のようだった。金平糖を出してくれた昴が訳知り顔で教えてくれる。
「任務のあとに報告に行ったら、御上様がくださったんだよ。あかりちゃんにはわかるだろうって」
あかりにはすぐにぴんときた。数刻前の南朱湖での司との会話が思い出される。もしも金平糖があればあかりは笑ってくれたかと。赤でも青でも、黒でも白でもなく、あえて麒麟家を象徴する黄色の金平糖を贈ってくれた司はきっとあかりに笑ってほしいと願ってくれたのだろうと思えた。その心遣いにあかりの心は温かくなった。
あかりがそっと笑みをこぼすと、結月が心なしか少し硬い声で尋ねてきた。
「御上様と、何かあったの?」
「うん、さっきね」
あかりは数刻前に南朱湖で司に偶然会ったこと、そこで話したことをかいつまんで説明した。
「なるほどな。だから黄色い金平糖なのか」
「……」
秋之介はにやにやしながら、隣に座る結月を横目に見る。結月はというと難しい顔をして黙していた。
「結月?」
あかりが不思議がって名前を呼びかけると、結月は小さくため息をついた。
「……あかりが元気になったのは、良かった。だけど、金平糖は……」
結月は言い切らず、「……ううん」とゆるゆると首を振った。
あかりの元気がないとき、任務で疲れたときには決まって結月はあかりに金平糖をあげていた。幼いころからの慣習は結月にとっては密かな特権だと思っていた。
それが容易く打ち破られたことに、結月の心がじくりと痛む。
秋之介や昴があかりに金平糖をあげたところで、こんな風に胸はざわつかない。
あかりの世界が広がることは喜ばしい一方で、いつか結月の手の届かない遠くにいってしまうのではないかと不安でもあるのだった。
「行かないで」と引きとめることはできない。あかりを困らせることだけはしたくなかったから。そんな勇気を持っていないが故のただの言い訳かもしれないが。
まろやかな口当たりでほんのり甘く、後味は爽やかな温かい緑茶にほっとする。緑茶のお供は五色の金平糖だった。
(珍しく黄色の金平糖があるわ……?)
物珍しく思ったのはあかりだけではなく、結月と秋之介も同様のようだった。金平糖を出してくれた昴が訳知り顔で教えてくれる。
「任務のあとに報告に行ったら、御上様がくださったんだよ。あかりちゃんにはわかるだろうって」
あかりにはすぐにぴんときた。数刻前の南朱湖での司との会話が思い出される。もしも金平糖があればあかりは笑ってくれたかと。赤でも青でも、黒でも白でもなく、あえて麒麟家を象徴する黄色の金平糖を贈ってくれた司はきっとあかりに笑ってほしいと願ってくれたのだろうと思えた。その心遣いにあかりの心は温かくなった。
あかりがそっと笑みをこぼすと、結月が心なしか少し硬い声で尋ねてきた。
「御上様と、何かあったの?」
「うん、さっきね」
あかりは数刻前に南朱湖で司に偶然会ったこと、そこで話したことをかいつまんで説明した。
「なるほどな。だから黄色い金平糖なのか」
「……」
秋之介はにやにやしながら、隣に座る結月を横目に見る。結月はというと難しい顔をして黙していた。
「結月?」
あかりが不思議がって名前を呼びかけると、結月は小さくため息をついた。
「……あかりが元気になったのは、良かった。だけど、金平糖は……」
結月は言い切らず、「……ううん」とゆるゆると首を振った。
あかりの元気がないとき、任務で疲れたときには決まって結月はあかりに金平糖をあげていた。幼いころからの慣習は結月にとっては密かな特権だと思っていた。
それが容易く打ち破られたことに、結月の心がじくりと痛む。
秋之介や昴があかりに金平糖をあげたところで、こんな風に胸はざわつかない。
あかりの世界が広がることは喜ばしい一方で、いつか結月の手の届かない遠くにいってしまうのではないかと不安でもあるのだった。
「行かないで」と引きとめることはできない。あかりを困らせることだけはしたくなかったから。そんな勇気を持っていないが故のただの言い訳かもしれないが。
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