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第一六話 救いのかたち
第一六話 九
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「……当時、噂があったんだ」
「噂?」
「そう。天翔くんは陰の国から来たのではないか、というね」
「え……っ⁉」
良い印象のない陰の国と優しかった父があかりの中では結びつかない。しかし、今よりもいくらか平穏だった当時は陽の国と陰の国をつなぐ結界はさほど強固でなかったと聞く。天翔が陰の国から陽の国に迷い込んだとしてありえない話ではなかった。
春朝は難しい顔をしたまま、見解を述べた。
「まつりちゃんも天翔くんは式神に下されたと言っていたらしいじゃないか。それに未だ行方不明なことといい、あかりちゃんが絡むと様子が変わることといい、件の妖狐が天翔くんである可能性は全くないわけではないと私は考えているよ」
「……」
ここまで話を聞いてしまうと、秋之介や春朝の予想もあながち外れてはいないのではと思えてくる。あれほど自分を慈しみ愛してくれた父が誰かを傷つけることなどないと信じたいのに、唇は戦慄き、はっきりとした否定の言葉は出てこなかった。
(まさか、本当にあの妖狐はお父様なの……?)
それが真実だとしたらなぜあかりを残して陰の国に与しているのか。毛色が変わったことに理由はあるのか。
様々な疑問が頭の中を埋め尽くし、血の気が引いたあかりの指先は冷えきっていたが、不意に右手に温かなものが触れた。結月の左手だった。
「父様が言ったことは、あくまで可能性のひとつ。まだ、断定できない。それに、どっちにしたっておれたちはあの妖狐を、救う。そうでしょう?」
結月の凛とした声に、あかりの混乱しかけた頭は徐々に冷静さを取り戻していった。熱を分けるように指先は温まり、唇の震えが収まる。
「そ、うだね」
父とも何度も約束を交わしてきたではないか。『何があっても最後まで諦めてはいけない』と。天翔が天翔のままでいる可能性を捨てるのにはまだ早い。
(それに式神として使われるのは誰だって辛くて苦しいはず。仮にお父様だとしてもそうでなくても、私はあの妖狐を救いたい)
一転して瞳を力強くきらめかせたあかりを見て、結月は安心したように微笑んだ。
「もう、大丈夫?」
「うん。私は私のできることをするよ。ありがとうね、結月」
どんな未来が待っていたとしても、そのときになってみなければわからない。先々を憂うくらいなら今できることに真摯に向き合おうと、あかりは胸に誓うのだった。
「噂?」
「そう。天翔くんは陰の国から来たのではないか、というね」
「え……っ⁉」
良い印象のない陰の国と優しかった父があかりの中では結びつかない。しかし、今よりもいくらか平穏だった当時は陽の国と陰の国をつなぐ結界はさほど強固でなかったと聞く。天翔が陰の国から陽の国に迷い込んだとしてありえない話ではなかった。
春朝は難しい顔をしたまま、見解を述べた。
「まつりちゃんも天翔くんは式神に下されたと言っていたらしいじゃないか。それに未だ行方不明なことといい、あかりちゃんが絡むと様子が変わることといい、件の妖狐が天翔くんである可能性は全くないわけではないと私は考えているよ」
「……」
ここまで話を聞いてしまうと、秋之介や春朝の予想もあながち外れてはいないのではと思えてくる。あれほど自分を慈しみ愛してくれた父が誰かを傷つけることなどないと信じたいのに、唇は戦慄き、はっきりとした否定の言葉は出てこなかった。
(まさか、本当にあの妖狐はお父様なの……?)
それが真実だとしたらなぜあかりを残して陰の国に与しているのか。毛色が変わったことに理由はあるのか。
様々な疑問が頭の中を埋め尽くし、血の気が引いたあかりの指先は冷えきっていたが、不意に右手に温かなものが触れた。結月の左手だった。
「父様が言ったことは、あくまで可能性のひとつ。まだ、断定できない。それに、どっちにしたっておれたちはあの妖狐を、救う。そうでしょう?」
結月の凛とした声に、あかりの混乱しかけた頭は徐々に冷静さを取り戻していった。熱を分けるように指先は温まり、唇の震えが収まる。
「そ、うだね」
父とも何度も約束を交わしてきたではないか。『何があっても最後まで諦めてはいけない』と。天翔が天翔のままでいる可能性を捨てるのにはまだ早い。
(それに式神として使われるのは誰だって辛くて苦しいはず。仮にお父様だとしてもそうでなくても、私はあの妖狐を救いたい)
一転して瞳を力強くきらめかせたあかりを見て、結月は安心したように微笑んだ。
「もう、大丈夫?」
「うん。私は私のできることをするよ。ありがとうね、結月」
どんな未来が待っていたとしても、そのときになってみなければわからない。先々を憂うくらいなら今できることに真摯に向き合おうと、あかりは胸に誓うのだった。
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