【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一七話 諦めない未来

第一七話 一三

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 あかりは片手に提げたままだった霊剣を正面に構え、天翔と向き合った。そして気を集中させ、大きく息を吸う。
「天地の父母たる六甲六旬十二時神・青柳・蓬星・天上玉女・六戊・蔵形之神、我が母神たる朱咲に願い奉る」
 あかりの凛とした声が静寂の空間に響き渡る。天翔は身動ぎせずに、あかりの祝詞に耳を傾けていた。
 赤く輝きだした霊剣を手に、あかりは禹歩の足運びで大きな円を描いた。
「玉女、白古、朱咲、勾陳、玄舞、六合、六甲、六神、十二時神に乗り、我を喜ぶ者は福し、我を悪む者は殃せらる。百邪鬼賊、我に当う者は亡び、千万人中、我を見る者は喜ぶ」
 神楽のように雅やかに、剣舞のように猛々しく、あかりは舞い踊りながら二周目の円を描いていった。
「今日の禹歩、上は天罡に応じ、玉女傍らに侍り、下は不祥を辟く。万精を厭伏し、向かう所殃無く、治す所の病は差え、攻むる所のものは開き、撃つ所のものは破し、求むる所のものは得、願う所のものは就る。帝王・大臣・二千石の長吏、我を見て愛すること赤子の如し。今日、玉女大臣、我に随いて進まんことを請う」
 父の穢れをすっかり祓えるように、あかりは一言一句に気をこめ、言霊に想いをのせた。
「東方諸神、功曹・太衝・天罡・青帝・甲乙大神。南方諸神、太乙・勝先・小吉・赤帝・丙丁大神。西方諸神、伝送・従魁・白帝・庚申大神。北方諸神、登明・神后・大吉・黒帝・壬癸大神にも願い奉る」
 天翔はあかりの一挙手一投足、ひとつひとつの言葉を記憶に焼きつけるようにじっとしていた。
「乾尊燿霊、坤順内営、二儀交泰、六合利貞、配天享地、永寧粛清、応感玄黄、上衣下裳、震離艮巽、虎歩龍翔、今日行算、玉女侍傍、追吾者死、捕吾者亡、牽牛織女、化成江河、急急如律令」
 淀みなく紡がれる言葉はまるで謡のようだった。天翔は徐々に己の中の邪気が溶けるように祓われていくを感じて、心地よさにまぶたを閉じた。眦に溜まった涙がぽろりと零れ落ちる。
「艮上玉女、速来護我、無令邪鬼侵我。敵人莫見我。見者以為束柴。独開我門而閉他人門」
 乾坤二儀交泰の呪文から玉女を勧請する呪文に入る。反閇の儀式は終盤に差し掛かっていた。
激戦の後ということもあってあかりの息は上がり始めていたが、口も手足も残る気力で滑らかに動かし続けた。
「天神の母、玉女。南地の母、朱咲。我を護り、我を保けよ。我に侍えて行き、某郷里に至れ。杳杳冥冥、我を見、声を聞く者はなく、その情を覩る鬼神なし。我を喜ぶ者は福し、我を悪む者は殃せらる。百邪鬼賊、我に当う者は亡び、千万人中、我を見る者は喜ぶ」
 柔らかな赤の光の空間をより濃く色づけるように、あかりの手にした霊剣から強い赤の光が溢れ出る。
 あかりは天翔に再び向かい合い、彼のいる方向へ霊剣の切っ先を突きつけた。禹歩を踏み、霊剣を四縦五横に切る。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女」
 天翔の罪も穢れも一掃するようにして、あかりは霊剣で宙を切った。
「急々如律令!」
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