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第一八話 凶星の瞬き
第一八話 七
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あかりは微笑んだが、すぐに表情を硬くした。結月の背後に広がる星空で凶星が鈍く煌めいていた。あかりの視線の先を追った結月は背後を振り向き、夜空を見上げたが、あかりの「凶星……」という呟きに顔を戻した。
「……また、何かを奪われるの? 失うの?」
「あかり……?」
大事なものに限ってあかりの掌からどんどんこぼれていく。掌に残った数少ない大事なものを決して取りこぼさないよう、あかりは必死だった。
「さっき、結月が来る前に考えてたの。……ねえ、昴や秋も、結月も、いなくならないよね?」
あかりの縋るような眼差しに「大丈夫」と答えたくなるのを、結月はぐっと堪えた。その場しのぎの言葉はかえってあかりを傷つけることになるかもしれない。だから結月は慎重に言葉を選んで、自分の思うところを告げた。
「戦ってる以上、絶対は、ない。だけど、誰もあかりをひとりにしたいとは、思ってない」
「……」
「絶対だって言えることは、おれたちはあかりの側にいたい、あかりを守りたいって思ってるってこと。それを、信じてほしい」
「……うん」
「奪われないように、失わないように。どんな凶兆が出たとしても、おれたちはできることをして、諦めないで、戦い抜くだけ」
「……できることをして、諦めない……」
母と交わした『霊剣は護るために使い、祝詞は心をこめて謡うこと』、父と交わした『何があっても最後まで諦めないこと』という約束の言葉が耳の奥にこだました。たとえ両親の姿がなくなっても、その教えはあかりにしっかり残っている。なにも失ってばかりではないのだという事実と結月の真摯な言葉があかりを勇気づけてくれた。
「そうだよね。どんなに辛い現実だったとしても、希望ある未来のために私は抗いたい」
らしくなく沈んでばかりはいられない。欲しい未来があるのならただやってくるのを待つのではなく、自分から掴み取りにいかなければならない。前を向き続けることを決して忘れてはならないのだ。
あかりが自身を鼓舞するように強気な笑みを浮かべてみせると、結月は目を丸くした後、応えるように笑み返した。
「一緒に、戦おう。陰の国とも、運命とも。それで、欲しい未来を手に入れよう、きっと」
「うん……!」
そうしてあかりの意識をつなぎとめていた憂いごとは払拭され、代わりに心に安寧がもたらされるといよいよ本格的な眠気がやって来た。誘われるようにあかりはまぶたを下ろした。
結月の肩にかかる重みが増す。
「……あかり?」
結月が囁くように呼びかけても、返ってくるのは規則的な寝息だけだった。
結月はそっと音を立てないようにして動き出し、あかりを抱え上げると布団に寝かせた。
普段よりも速く大きい自分の心音であかりが目覚めやしないかひやひやしていたが、あかりは安らいだ顔をして眠ったままだった。あどけない寝顔に悪夢に囚われている様子は見受けられず、結月は「おやすみ、あかり」と優しく囁いて部屋を後にした。
「……また、何かを奪われるの? 失うの?」
「あかり……?」
大事なものに限ってあかりの掌からどんどんこぼれていく。掌に残った数少ない大事なものを決して取りこぼさないよう、あかりは必死だった。
「さっき、結月が来る前に考えてたの。……ねえ、昴や秋も、結月も、いなくならないよね?」
あかりの縋るような眼差しに「大丈夫」と答えたくなるのを、結月はぐっと堪えた。その場しのぎの言葉はかえってあかりを傷つけることになるかもしれない。だから結月は慎重に言葉を選んで、自分の思うところを告げた。
「戦ってる以上、絶対は、ない。だけど、誰もあかりをひとりにしたいとは、思ってない」
「……」
「絶対だって言えることは、おれたちはあかりの側にいたい、あかりを守りたいって思ってるってこと。それを、信じてほしい」
「……うん」
「奪われないように、失わないように。どんな凶兆が出たとしても、おれたちはできることをして、諦めないで、戦い抜くだけ」
「……できることをして、諦めない……」
母と交わした『霊剣は護るために使い、祝詞は心をこめて謡うこと』、父と交わした『何があっても最後まで諦めないこと』という約束の言葉が耳の奥にこだました。たとえ両親の姿がなくなっても、その教えはあかりにしっかり残っている。なにも失ってばかりではないのだという事実と結月の真摯な言葉があかりを勇気づけてくれた。
「そうだよね。どんなに辛い現実だったとしても、希望ある未来のために私は抗いたい」
らしくなく沈んでばかりはいられない。欲しい未来があるのならただやってくるのを待つのではなく、自分から掴み取りにいかなければならない。前を向き続けることを決して忘れてはならないのだ。
あかりが自身を鼓舞するように強気な笑みを浮かべてみせると、結月は目を丸くした後、応えるように笑み返した。
「一緒に、戦おう。陰の国とも、運命とも。それで、欲しい未来を手に入れよう、きっと」
「うん……!」
そうしてあかりの意識をつなぎとめていた憂いごとは払拭され、代わりに心に安寧がもたらされるといよいよ本格的な眠気がやって来た。誘われるようにあかりはまぶたを下ろした。
結月の肩にかかる重みが増す。
「……あかり?」
結月が囁くように呼びかけても、返ってくるのは規則的な寝息だけだった。
結月はそっと音を立てないようにして動き出し、あかりを抱え上げると布団に寝かせた。
普段よりも速く大きい自分の心音であかりが目覚めやしないかひやひやしていたが、あかりは安らいだ顔をして眠ったままだった。あどけない寝顔に悪夢に囚われている様子は見受けられず、結月は「おやすみ、あかり」と優しく囁いて部屋を後にした。
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