【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一八話 凶星の瞬き

第一八話 一二

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「秋くんのところが火で襲われるっていうのはわかるよ。金の相克は火だからね」
 白古家は西、並びに金を司っている。そのため相克の関係から火には弱いという一面を持つ。弱点を突かれて火で襲われるとなればひとたまりもなく、その被害は甚大なものになるだろう。敵はひねりはないが確実な方法をとろうとしているということだ。
「だけど、理解に苦しむのはゆづくんの方だよ。木の相克は金だ。水だと木の相生だから、敵には不利なはずなのにどうしてだろう」
「……考えられるのは」
 視線が昴から結月に集中する。結月は伏し目がちに、ぽつりぽつりと語りだした。
「どうあっても、水には敵わない状況。例えば、大雨とか川の氾濫の、大規模な自然災害。いくら水に強くても、そこまでいけば、誰しも命が危ない」
「力業で強襲ってことか」
「あくまで、おれの予想でしかない、けど……」
「でも、可能性は大いにあるね」
 昴は納得したように頷いた。
「水無月……」
 あかりの呟きが一瞬の沈黙に支配された稽古場に落ちる。
 今は皐月の中旬だから、水無月まであと二週間と少ししかないことになる。昨年の葉月の凶事のときに学んだことだが、確かに時が来るまでは大したことは起こらない。しかしその時になれば予想もできないような事態が起こり得るのだ。油断は決してできない状況だった。
 それでも、希望は残っている。
「私たちの行動次第でおじ様たちは助けられるってことだよね。だったら……!」
 上げたあかりの顏は明るかった。つられるようにして結月、秋之介、昴は小さく笑った。
「うん。諦めないで、戦おう」
「だな! 俺たちはできることをするだけだ」
「そうだね。じゃあ、さっそく稽古を再開しようか」
「うん!」
 運命がどれだけ残酷で無慈悲であっても、幼なじみや仲間がいれば頑張れる。戦える。そして乗り越えられた未来をあかりたちは信じた。
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