【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
292 / 390
第二〇話 青の光

第二〇話 一一

しおりを挟む
「結月、ごめんね……」
 引き絞った声はか細く、微かに震えていた。
 あかりの体温を宿した雫が一滴、つないだ結月の左手に落ちる。
「なかないで、あかり……」
「え……」
 あかりは目を瞠って結月の顔を見た。結月は長いまつ毛を震わせながら薄く目を開いていて、あかりのことを青い瞳に映していた。
「ゆ、づき……?」
「うん」
「結月……。結月、良かった。目が、覚めて……!」
「うん。あかりが、喚んでくれたおかげ」
 嗚咽によって言葉を継げないあかりに寄り添うように、結月はつながれた左手に優しく力をこめた。手の大きさこそ違うものの温度はあかりのよく知るもので、安心からか余計に涙が止まらなくなる。
「あかりがね、ごめんねって泣いてるのが、聞こえた。だから、行かなくちゃって思って」
 あかりはしゃくりあげながらも必死に言葉を紡ぐ。
「結月が、目覚めないのが、怖くてっ。そしたら、結月も、私が目覚めないとき、こんな思いだったのかなって。私、全然わかって、なくて、ごめんね……!」
 結月は「思った通りだった」と呟くと、ゆっくりと身を起こす。そして膝立ちするとあかりを正面から包み込むように抱きしめた。
「おれの方こそ、ごめんね。こんなことしたらあかりを傷つけるかもってわかってたのに、こうすることでしか守れなくて。あかりを、泣かせて」
 あかりは言葉もなく、結月の腕の中で激しく首を左右に振った。
 結月は幼子をあやすようにあかりの背を撫でさすった。次第にあかりが落ち着いてくるのを腕の中に感じながら、結月は腕の力を緩めるとあかりの顏を覗き込んだ。青い瞳に確かにあかりを映し、優しく柔らかな声であかりの名前を呼ぶ。
「あかり」
 あかりはゆるゆると顔を上げた。姿こそ幼いが淡く微笑む結月の表情は大人びていて、年相応の彼の姿が重なって見えるようだった。
「ただいま」
 そのたった一言に、あかりは救われるような心地だった。だから、それに見合うだけの想いを乗せて、あかりも応える。
「おかえり、結月」
 微笑みに目を細めれば、あかりの眦に残った最後のひとしずくがきらりと弾けて散った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...