【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
302 / 390
第二一話 祈りの言霊

第二一話 一〇

しおりを挟む
 昼食を摂ってから町中を練り歩いていると、あちらこちらから声をかけられる。それらはあかりの誕生日を祝う声や結月の容姿に言及する声が主だった。
 あかりと結月がいつものように隣り合って歩いていると饅頭屋の奥さんに「仲のいい姉弟みたいだね」と冗談混じりに言われた。しかし、以前ならともかく今のあかりは手放しに喜べないでいた。
(仲良く見えるのは嬉しいことのはずなのに……。『姉弟』か……)
 確かに兄妹のように育った幼なじみだが、それとはまた違った感情を結月に抱いていることはさすがのあかりもすでに自覚している。
 ちらりと右隣を見下ろすと結月の横顔が目に入る。彼もまたあかり同様晴れない表情をしていた。
 どんな姿でも結月は結月だと言ったあの言葉に嘘はない。けれども周りの人にはどうもあかりの認識とは違って見えるらしく、あかりはもどかしさを感じていた。
 昨年末に結月と交わした約束を思い出す。『そのとき』になるまであかりと結月は兄妹のような幼なじみではなく、特別な幼なじみという関係性を続けるのだろう。お互いの想いを知りながら、それでも恋人には至らない関係をこれまではただ心地よいと感じていられた。けれど今はそれだけではない。
 日を追うごとに結月を好きになっていくあかりにとって、今の関係はどこか物足りないように思えるのだ。
(……なんて、欲深いかな、私)
 あかりはそんな自身の考えに内心で苦笑する。
 現状、命懸けで戦う日々なのだ。私情を優先するつもりはない。おそらく結月も同じように考えているのではないか。だから約束をしたのだとあかりは思う。
(約束……。ちゃんと『そのとき』が来るといいな)
 胸に残ったもやもやとした気持ちを吐き出すように、あかりはそっと息をついた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...