【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二一話 祈りの言霊

第二一話 一〇

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 昼食を摂ってから町中を練り歩いていると、あちらこちらから声をかけられる。それらはあかりの誕生日を祝う声や結月の容姿に言及する声が主だった。
 あかりと結月がいつものように隣り合って歩いていると饅頭屋の奥さんに「仲のいい姉弟みたいだね」と冗談混じりに言われた。しかし、以前ならともかく今のあかりは手放しに喜べないでいた。
(仲良く見えるのは嬉しいことのはずなのに……。『姉弟』か……)
 確かに兄妹のように育った幼なじみだが、それとはまた違った感情を結月に抱いていることはさすがのあかりもすでに自覚している。
 ちらりと右隣を見下ろすと結月の横顔が目に入る。彼もまたあかり同様晴れない表情をしていた。
 どんな姿でも結月は結月だと言ったあの言葉に嘘はない。けれども周りの人にはどうもあかりの認識とは違って見えるらしく、あかりはもどかしさを感じていた。
 昨年末に結月と交わした約束を思い出す。『そのとき』になるまであかりと結月は兄妹のような幼なじみではなく、特別な幼なじみという関係性を続けるのだろう。お互いの想いを知りながら、それでも恋人には至らない関係をこれまではただ心地よいと感じていられた。けれど今はそれだけではない。
 日を追うごとに結月を好きになっていくあかりにとって、今の関係はどこか物足りないように思えるのだ。
(……なんて、欲深いかな、私)
 あかりはそんな自身の考えに内心で苦笑する。
 現状、命懸けで戦う日々なのだ。私情を優先するつもりはない。おそらく結月も同じように考えているのではないか。だから約束をしたのだとあかりは思う。
(約束……。ちゃんと『そのとき』が来るといいな)
 胸に残ったもやもやとした気持ちを吐き出すように、あかりはそっと息をついた。
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