【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二四話 失われたもの

第二四話 三

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「ねえ、あかり……!」
 結月の呼びかけに、あかりは目を開けているのにも関わらず反応を示さなかった。腕にかかる重みがさらに増し、指先から冷たくなっていく。
「なあ、昴! どういうことだよ!」
「僕だってわからないよ! ……とにかくできることは全部やる……!」
 三人の体力と霊力はすでに底をついている。これ以上術を使えば、引き替えにするのは自身の命だ。それがわかっていても誰もやめようとは言わなかった。
 文字通り命懸けで戦い、望み続けた未来を手に入れた。その未来をようやく生きられることになったのに、そこにあかりがいないのでは意味がないのだ。
 あかりが側で笑ってくれるなら、自身の命を懸けることに微塵の躊躇いもない。だから結月の口からこぼれ出た呟きはごく自然なものだったように思う。
「泰山府君祭」
 泰山府君祭とは禍を払い福を招く儀式のことだ。特筆すべきは、この儀式は対象者の延命のために身代わりとなる者の寿命を差し出し、それを継ぎ足すことで延命を可能とするということだ。
 はっとしたように秋之介と昴が顔を上げ、結月の顔をまじまじと見る。
「ゆづ……」
「ゆづくん……」
 結月は固い決意のもとはっきりと頷き、きっぱりと言い切った。
「おれが、泰山府君祭をやる。必ず、成功させる」
 あかりの命の灯が消える前に、結月は自身の寿命を彼女に捧げるつもりでいた。
 完全な妖、それも神の血を引く結月の寿命はもとよりただ人よりも長い。ほとんど人間の昴や完全な妖とはいえ状態の悪い秋之介より、結月が儀式を実行する方がずっと可能性があった。
 昴は逡巡する素振りを見せた後、あかりをちらりと見て何かを決めたようだ。
「だったら、僕はあかりちゃんに力を送り続けてみるよ。気休めにしかならないだろうけど、輸血程度の効果ならあるかもしれないしね」
 言うのは易しいが、霊力のない状態で力を送るというのは、自身の命と引き換えにするということだ。わかっていてもなお、昴の顔に怯えや躊躇いは浮かんでいなかった。
 結月と秋之介はそろって頷いた。
「応急処置としちゃ上等だろ。俺は招魂祭を試してみる」
 招魂祭は寿命を延ばしたり、生き返らせたりはできないが、離れかけた魂を呼び戻すことができる。降霊術が得意な秋之介なら成功率も格段に上がるだろう。
 結月も秋之介も昴も、自身の命を懸けてでもあかりに生きてほしいと願っていた。その想いを強い力に換えた一世一代ともなろう儀式が始まった。
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