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第二四話 失われたもの
第二四話 四
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結月が抱えていたあかりを畳の上にそっと横たえさせる。結月があかりから身を離すのと入れ替わるようにして、今度は昴があかりの側に膝をついてあかりの右手を両手ですくいとった。
あかりの手には全く力が入っておらず、ずっしりと重い。加えて僅かに残ったぬくもりをも奪い取っていくかのように徐々に指先から冷たくなっていく。
焦りと不安を必死に抑え込み、昴は努めて平静を装った。
(あかりちゃんを救いたいのなら、ここで僕が取り乱してはいけない)
最年長で皆のまとめ役である昴が取り乱せば、結月や秋之介にも悪影響が及ぶかもしれないし、自身の術だって失敗に終わる危険性がある。
昴は深く息を吸い、吐き出すと、いま一度あかりの手をぎゅっと握り直した。
「心身護神、玄舞護神、急々如律令」
唱えながら、自身の命を霊力に換えて、気が昴からあかりに流れるように意識した。黒の光の粒が帯のようになってあかりに吸い込まれていく。
昴の霊力は確実にあかりに届いている。しかし、しばらく続けてもあかりに変化は見られなかった。
(やっぱり決定打にはならないか)
予想していた通り、これは気休めにしかならない。それが実証されても、昴はこの行為を無駄だとは思わず、またやめるつもりもなかった。
(もう大切な人を失いたくないんだ……!)
北の地が強襲されたとき、昴は結月と秋之介を絶対に守る使命を負っていた。そのため前線から離れていたが、とうとう北の地から大きな地響きが轟き、いくつもの黒い煙が上るのが見えた。
本当はすぐにでも駆けつけたかった。手を伸ばして、大切な人を、両親を守りたかった。
だけれど現実を見て、使命を全うすることを第一にするならその衝動に突き動かされるわけにはいかなかった。
あのときの判断が間違っていたとは思わない。しかし、欠片の後悔もないかと訊かれれば答えは否だ。
守りたいものを守りきれないで何が玄舞の力だと。何のための玄舞の力だと。
大切なものを失う度、失いそうになる度に、何度も自問した。
(あかりちゃんを、失うわけにはいかない)
駆けつけたくても、手を伸ばしたくても、許されなかったあの時とは違うのだから。
手は繋がれている。力は届いている。
あかりの手には全く力が入っておらず、ずっしりと重い。加えて僅かに残ったぬくもりをも奪い取っていくかのように徐々に指先から冷たくなっていく。
焦りと不安を必死に抑え込み、昴は努めて平静を装った。
(あかりちゃんを救いたいのなら、ここで僕が取り乱してはいけない)
最年長で皆のまとめ役である昴が取り乱せば、結月や秋之介にも悪影響が及ぶかもしれないし、自身の術だって失敗に終わる危険性がある。
昴は深く息を吸い、吐き出すと、いま一度あかりの手をぎゅっと握り直した。
「心身護神、玄舞護神、急々如律令」
唱えながら、自身の命を霊力に換えて、気が昴からあかりに流れるように意識した。黒の光の粒が帯のようになってあかりに吸い込まれていく。
昴の霊力は確実にあかりに届いている。しかし、しばらく続けてもあかりに変化は見られなかった。
(やっぱり決定打にはならないか)
予想していた通り、これは気休めにしかならない。それが実証されても、昴はこの行為を無駄だとは思わず、またやめるつもりもなかった。
(もう大切な人を失いたくないんだ……!)
北の地が強襲されたとき、昴は結月と秋之介を絶対に守る使命を負っていた。そのため前線から離れていたが、とうとう北の地から大きな地響きが轟き、いくつもの黒い煙が上るのが見えた。
本当はすぐにでも駆けつけたかった。手を伸ばして、大切な人を、両親を守りたかった。
だけれど現実を見て、使命を全うすることを第一にするならその衝動に突き動かされるわけにはいかなかった。
あのときの判断が間違っていたとは思わない。しかし、欠片の後悔もないかと訊かれれば答えは否だ。
守りたいものを守りきれないで何が玄舞の力だと。何のための玄舞の力だと。
大切なものを失う度、失いそうになる度に、何度も自問した。
(あかりちゃんを、失うわけにはいかない)
駆けつけたくても、手を伸ばしたくても、許されなかったあの時とは違うのだから。
手は繋がれている。力は届いている。
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