【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二四話 失われたもの

第二四話 六

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 招魂祭の祭文を唱え、あかりの魂を探しながら、秋之介もまたあかりに語りかけていた。
(約束したじゃねぇか)
 父は亡くなり、母は壊れ、犠牲になった家臣は数知れず、邸は跡形もなく燃え尽きた。悲しみと怒りとでいっぱいいっぱいで、結月に八つ当たりをした。そのまま放っておけばいいものを、わざわざあかりが追いかけてきた。そして西白道の樹上で、本音を吐露する秋之介にあかりは「秋、約束しよう?」と言ったのだ。
「約、束……?」
「そう、約束。私は秋の側からいなくならない。だから焦らないで一緒に強くなろうよ」
「な、んだよ、それ。保証なんてできねえだろ」
「そうだね。私を信じてとしか言えない」
「……そんなのが、約束かよ」
「そうだよ。悪い?」
「いいぜ、乗った」
「秋……!」
「あかりのことは信じてるけど、俺もこれまで以上に力を尽くす。大切なおまえたちを守るために、一緒に強くなりたい」
「うん! 約束だよ!」
 あれからまだ三月も経っていないのに、遠い日の約束に思えた。
(あかりは俺の側からいなくならないって、保証はできない代わりにあかりを信じろって言ったよな。だったら……!)
 出血は止まったものの腹の傷がじくりと痛む。無理をしているからだろう、傷口が開いたようだった。しかし秋之介は構わず祭文を唱え続けた。
 残った霊力を使い続けていると、次第に年相応の人間姿が保てなくなってきた。今や秋之介の姿は実年齢よりやや幼く、頭部に虎の耳を、臀部に虎の尾を生やしている。
このままいけば霊力は完全に底をつき、変化もままならなくなるだろう。幼なじみたちと同じ姿で並び立てなくなるのは悔しいが、あかりの命と比べたらそんな矜持は些末なものだった。
(だったら、俺はあかりを信じてやるから、あかりはそれにちゃんと応えてくれよ!)
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