【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二四話 失われたもの

第二四話 七

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 白の光が自身から膨れ上がり、秋之介の気がみるみるうちに周囲に広がっていく。そうして触れたのは探し求めていた赤色が印象的な魂だった。
(あかり‼)
 ぼんやりとあたりをさまよっていた赤色の魂は、秋之介が呼びかけるとぴたりと動きを止めた。しかし反応はそれだけで、すぐに再びふらふらと動き出す。
(くそっ、結構まずいな……!)
 降霊術の経験からいって、魂に自我が残っていれば何かしらの反応を示すはずだった。名前を呼びかければ、返事をするなり秋之介の方へやって来るなりするのだと予想していたのだが、それは大きく裏切られた。
(魂にほとんどあかりの自我が残ってないのか⁉ だとしたらどうやって呼び戻す……⁉)
 焦れば焦るほど思考が空回ってしまう。
(ああ、もう!)
そもそも頭を使うのは苦手なのだ。昴や結月ならうまく立ち回れたのかもしれないが、秋之介には真似できない芸当だ。ならば己のやり方で現状を打破するしかないと秋之介は開き直った。
(あかり、聞いてくれ!)
 馬鹿みたいに愚直に語りかけることでしか解決方法が見いだせなかった秋之介は、ひたすらにあかりの魂に向かって叫び続けた。
 積み重ねてきた思い出や交わした約束をぶつけることで、あかりの魂が自我を取り戻すきっかけになるかもしれない。
(側にいるって、一緒に強くなろうって約束しただろ! 勝手にひとりでいなくなるなよ!)
 なおもあかりの魂は浮遊し続ける。
(一緒に笑って生きるんだろ! 俺とあかりとゆづと昴で!)
 いよいよ秋之介は人間姿がとれなくなり、本来の白虎姿に戻ってしまった。残された霊力はもうないも同然だった。
腹の傷は熱をもってじくじくと痛む。おまけに目の前がちかちかと瞬き出した。
(こんなとこでぶっ倒れるわけにはいかねぇ!)
 命を霊力に変換して、秋之介は招魂祭を強行した。
 一瞬息が詰まってたまらなく苦しくなったが、祭文を唱える口はなんとか意地で動かした。
 何度目かになるかわからないほどに、秋之介はあかりの名前を呼び続けた。
(あかり、戻って来い!)
 すると、迷うように揺れ動いていたあかりの魂が動きを止めた。
(かえり、たい、よ)
 ささやかな声はともすれば気のせいかと聞き逃してしまいそうなほどに小さなものだったが、秋之介の耳にはしっかりと届いた。
(ああ、帰ろう!)
(でも、どこ、に?)
(そんなの決まってるだろ)
 秋之介はあかりの魂に向かって手を伸ばした。もう離れていかないように、消えてなくならないように。
 そうして身体中の苦痛を振り払って、秋之介はにっと笑ってみせた。
(俺とゆづと昴が待つ場所に!)
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