カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

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第四話 休日の触れ合い

第四話 二

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 朝食前のひと騒動の他には特に大きな変事もなく、朝食の時間は穏やかに過ぎた。
 その後、慈乃しのがニアと一緒に洗濯物を干すために園庭に出ようとすると、シキブとサーヤが後を追ってきた。
 先に追いついたサーヤが爽やかに笑った。
「洗濯物、手伝うよ」
 ニアは慣れているのか、世間話をしながら連れ立って外に出た。
 物置小屋の側、物干し竿の前には、先客がいた。ウタセとツクシと、慈乃の見知らぬ少年の三人だ。
 シキブが両手を合わせて、微笑んだ。
「先に来ていたのねぇ、ヒーさん」
「……ああ。男子組の方が、早かったから……」
 少年は振り返ると、慈乃の存在にも気づいたようで、常盤色の長めの前髪に隠された白色の瞳を見開いた。しかし、すぐにのっぺりした顔に戻る。無表情とも異なる、淡白な表情だった。
 数瞬の間、宙を見つめたかと思えば、少年は徐に口を開いた。
「……そうだ、シノ姉さん」
 ぼそぼそしゃべるのに、よく透る声だ。決して大きな声ではないのに、明瞭に聞き取れる。
「はじめましてのひと……」
「は、はじめまし、て……」
 少年のペースに戸惑いながらも、慈乃はなんとか挨拶した。少年は頷きを返した。
「自分は、ヒイラギ。ヒイラギの花守。愛称は、ラギ……。よろしく……」
「ラギはこれで、面倒見のいい、おおらかなやつでね」
「同室のウルさんはもちろん、同い年の私達にもよくしてくれるんですよぉ」
 本人が与える情報より、仲の良いサーヤとシキブの与える情報の方が多い。慈乃は、彼のことを独特の雰囲気を持つひとだと感じていた。
 ヒイラギは話し切ったとばかりに、元の方向に向き直ると、洗濯物干しを再開した。「……そう、新しいひと……」「多分、いいひと……」「……ああ。ウルも、なついてたから……」などと独り言を言いながらも、手際よく干していく。
 その様を眺めながら、ツクシがのんきに欠伸をした。
「ラギくんはボクより上手だね~」
「なに他人事みたいに言ってるの。ツクシも手を動かしてよね」
「ええ~」
 ウタセに注意されて、ツクシは渋々ながらも作業に加わった。
 ニアが呆れたように笑ってから、慈乃達を振り返った。
「あたし達もやろうか」
「任せてよ」
「頑張りますぅ」
 慈乃もひとつ頷いて、洗濯物を干し始めた。

 四人でやれば、作業はあっという間に終わった。慈乃達とほぼ同じタイミングでウタセ達も洗濯物を干し終えたようで、七人は揃って生活棟に戻る。
 その短い道中でさえも会話が尽きない。
 最後尾を歩くウタセが、皆を見渡した。
「今日はみんな何する予定なの?」
 サーヤが左右に並ぶシキブとヒイラギに目配せしてから、口を開いた。
「ボク達三人は街に行くんだ。ミト兄さんには許可をもらってあるから、すぐに出るよ」
「そうなんだ。気を付けてね」
 ウタセが微笑めば、三人とも「うん」と答えた。
「ニア姉さん達は何かするんですかぁ?」
「あたしはお菓子作りでもしようかと思ってる」
 シキブは残念そうな顔をした。
「私もやりたかったですぅ」
「またの機会にね。適当に声かけてるんだけど、ウタ達はどう?」
 シキブ達の後ろでニアが隣にいた慈乃、後ろにいたウタセとツクシを振り返る。
 ツクシは興味がなさそうだったが、ウタセはぱっと顔を輝かせた。
「ボクはいいや~」
「お菓子づくりなんて久しぶりかも! やりたいやりたい!」
「お、ほんと? ウタがいると助かるんだよねー。シノは? 特に予定がないなら一緒にやろうよ」
 ニアの申し出に、やや躊躇いながらも慈乃はゆっくり頷いた。
「……でしたら、はい。私も、参加させて、ください」
 慈乃の返事をきくなり、ニアは慈乃の手を取って飛び跳ねる。
「やった! シノは料理上手だし、頼りにしてる」
「僕も、楽しみだな!」
 ニアに負けず劣らずの喜びようで、ウタセも足取り軽く慈乃達に近づいていった。
 ひとり最後尾に残されたツクシは、春の陽を浴びて心地よさそうに欠伸をしていた。
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