カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

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第四話 休日の触れ合い

第四話 八

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 穏やかな空気を感じながら、ガザがこれみよがしに溜息を吐く。
「こういうのを求めてたんだよ。あんな罰ゲームみたいなのじゃなくてさ」
「まったくです。次はガザさんですよ」
「ほいほいっと。……うおっ、三⁉ 一回休みじゃん」
「次はオレだね」
 トゥナがさいころを振ると三が出た。まだ誰も止まっていない三のマスには『最近あった嬉しかった出来事は?』との質問が提示してあった。
「嬉しかったこと……」
 トゥナは数秒間考えてから、「あ」と顔をあげた。
「身長が伸びてたんだ!」
「成長期だもんね。まだまだ大きくなるよ」
 誇らしげなトゥナに、ウタセが柔らかい微笑みを返す。
「そのうちミト兄を抜かすんだ」
「なんだか想像できませんね」
「ははっ。まずはオレを超えてみろ!」
 仲睦まじい三人組のやり取りを横目に見ながら、ウタセがさいころを振る。
「二だから、一七マス目だよね。……えっと、『座右の銘は?』ね。もちろん『笑顔が一番』だよ」
 ウタセは屈託ない笑みで、迷わずに答える。
 ガザ達も知ってたといわんばかりな反応で、慈乃しのも彼らしいなと思った。
 「このまま平和に終わってくれればいいんですけど」と呟きながらソラルが出した目は二だ。そこには『大吉~✿ 良かったね~』との、ただのツクシからのメッセージがあるのみだった。
「それだけですか」
 ソラルはやや拍子抜けしたようだった。
「うん。ただのツクシの占いだからね」
「当たらなそうな占いだな」
 ウタセが解説するのに対し、ガザは半眼でマスを眺めやった。
「次はシノさんですよ」
「あ、はい」
 出た目は六。二五マス目には『好きな食べ物は?』と書かれていた。
「……たまご焼き、です」
 慈乃は躊躇いがちに答えた。
 正確には『母の作ったたまご焼き』だ。
 決して凝った料理ではないけれど、家庭によって味付けは様々だという。慈乃は他所の家庭の味は知らないが、自分の母の作るたまご焼きが一番好きだった。
 出汁の風味と醤油のしょっぱさ、それに卵そのもののやさしい甘さも感じられる。
 慈乃も何度か母の味を再現してみようと試みてみたが、似たような味にはなっても同じ味にはならなかった。
 好きな料理には違いないが、もう二度と食べることはできないと思うと悲しい気さえして、胸中は複雑だ。そんな思いが回答する口を鈍らせていた。
 ウタセが慈乃をちらと見遣る。敏い彼のことだから、何かしら察することもあったのだろうがそれにはあえて気づかないふりをして、ただ明るく感想を口にした。
「たまご焼きかぁ。シノが好きっていうなら作ってあげたかったんだけどなぁ」
 ウタセの右隣でソラルが首を傾げた。
「それってそんなに難しい料理なんですか」
「作るのは難しくはないんだけど、材料がないから作れないなって」
 ウタセが苦笑して答える。この世界には動物がいない。鶏がいないから、卵もないということだろう。
その左隣ではトゥナが軽く身を乗り出して、慈乃をじっとみつめていた。
「それってウタ兄が凝ってる『和食』ってやつ? ますますシノ姉が不思議になってくよ」
 その視線に居心地悪くなって、なんとなく目を逸らしてしまった。
 慈乃がこちらの世界にやってきた理屈としては最初にウタセが推論していた通りで、人間界から来たことを言っても大して問題はないとフロリアが話していたということはミトドリから聞いていた。
 しかし、慈乃にはあちらの世界にあまりいい思い出がない。そのため、積極的に出自を打ち明けようという気にはなれなかった。
「もしかして、ウタ兄とシノ姉の生まれたところは同じところなのかな」
「……それは、ない、と思いますが」
 門と気が同調してはじめて世界間の通行が可能になるのに、そんな偶然はそうないだろう。トゥナの示唆した可能性は限りなく零に等しい。
「トゥナ、あんまり困らすなよな」
 言いながら、ガザはさいころをトゥナに手渡した。
「オレは休みだから、早く投げちゃって」
「あ、うん」
 せっつかれるようにしてさいころを振る。出目は四、なにもないマスだった。
「つまんねーな」
「トゥナさんくらいは面白いマスにとまってくれないと」
 ガザとソラル、ふたりにため息を吐かれたトゥナは困り顔だった。
「ええ~……」
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