カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

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第四話 休日の触れ合い

第四話 九

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「次は僕だね。……はい、五。あっ、『現在トップのひとの好きなところを伝えよう』だね」
「うわ、出た」
 序盤の罰ゲームのような有様を思い返して、ガザが引き気味に呟いた。それを受けて、ウタセは不満そうに口を尖らせる。
「出たって……、さっきのは最下位のひと、今のはトップのひとだからちょっと違うんだよ?」
「そういう問題じゃないんだよなぁ」
 ガザは天を仰いでから、諦めたように息をついた。
「まあ、いいや……。今回はオレじゃないし」
「シノさん、お気の毒です……」
 ソラルは憐みの目で慈乃しのを見るが、慈乃自身はといえばそこはあまり気にしていなかった。それよりも自分に褒められるような良いところなどあったろうか、そちらの方が気がかりで仕方ない。ウタセには申し訳なくすらあった。
 しかし、慈乃の心配をよそに、ウタセは僅かに逡巡したのみで、すぐにぱっと笑顔になった。
「シノはあんまり感情を表に出さないけど、たまにはっきりわかるほど優しい顔をするんだよね。僕ね、その表情がすごく好きなんだ」
「……」
 ウタセがすぐに答えられたことにも、その内容にも、慈乃は驚いていた。
 そして、自分がそんな表情をしていたことがあったということを初めて知った。
「シノのその反応、やっぱり無自覚だったんだね」
「ウタ兄、わかるの……⁉」
 トゥナが隣を振り仰ぐ。ウタセは小さく頷いた。
「なんとなく、驚いてるんじゃないかなーって」
「言われてみたら、ラギも驚いたときはこんなようなリアクションだな」
 ガザも、ウタセと慈乃を交互に見て、何か納得した様子だ。
 向こうの世界では、表情の乏しい慈乃に対して何も言わないにしても奇異の目で見る人間は珍しくなかった。周囲の人間が当たり前にできる感情表現が慈乃にはどうしても難しかったのだが、それに理解を示してくれる人は両親を亡くして以来、慈乃の側にはいなかった。
 それがここには、慈乃のささいな表情の変化に気づいてくれるひとがいる。その性質を個性の一部として認めてくれるひともいる。
 皆の当たり前が自分にとっての当たり前でないことは、悪でもなんでもない。ましてや蔑む必要などないのだと、僅かばかり心が救われ、自分を赦せるような気がした。
「すごくいい話になってるよ……。オレの時はこんなんじゃなかったのに」
「まあ、トゥナさんですからね」
「ああ、トゥナだからな」
 肩を落とすトゥナに対して、ソラルもガザも相変わらずな対応をするのみだ。
 ソラルは言いながらさいころを引き寄せて振った。
「あ、六ですね。……『豆知識をひとつ』ですか」
 ソラルは慈乃をちらりと見ると、「せっかくですから」と切り出した。
「シノさんはカモミールの花守なんですよね」
 唐突に水を向けられて、慈乃は戸惑いつつも頷いた。
「カモミールはジャーマン種とローマン種に品種が大別されているんです。ジャーマン種はカモミールティーに向いていて、ローマン種はポプリに利用されることが多いそうですよ」
 そう言うソラルはやや得意げだ。聞いていた皆も「へー」と感心したような声をあげた。慈乃も我がことながら新しい発見に目をまるくした。
「そういえば、シノがカモミールの花守っていうのは聞いてたけど、品種はどっちなのか分かるの?」
 ウタセが疑問を持って、慈乃をじっと見た。
慈乃はカモミールの声を思い出しながら、ゆっくりと首を縦に揺らした。
「確か……ジャーマン・カモミールだと、本人達は、言っていました」
「ジャーマンってことは、お茶になるって方?」
 ガザの確かめるような声に、ソラルは「そうですね」と答えた。
 そんなソラルをトゥナはまじまじと見つめる。
「それにしても、さすがソラくん。昨日今日で調べたんだ」
「……気になるじゃないですか。それだけです」
 何が言いたいとじっとりとした視線でトゥナを見つめ返すソラルの頬は少しだけ赤くなっているように見えた。
「気になるって、シノ姉が? それともカモミールが?」
 純粋に気になっているだけだろうトゥナの問いかけに、ソラルはぐっと言葉に詰まったようだった。やがてため息を吐き、視線を逸らした。
「……。トゥナさんは無自覚にそういう意地悪をしてきますよね」
「えっ、結局どっちなの」
 トゥナがソラルに言われっぱなしにからかわれるだけの関係かとも思っていたが、そうではないらしい。意図せずにトゥナはソラルを翻弄していて、それでバランスがとれているようだった。
 微笑ましい光景に、慈乃の眼差しがふっと柔らかなものに変わる。
 年齢差にとらわれず対等な関係を築くふたりは、友人というよりも本当の兄弟のように見えた。
 慈乃には兄弟姉妹はいない。それどころか家族というものにすら縁遠くなって久しい。
 トゥナとソラルを見ていると、羨ましくすらなった。そんな感情すら、久しぶりに抱いたような気さえする。
 両親を失って、はじめのころはどこかの家族を見かけると悲しくなった。そのうち、心を鎧うように何も感じないようになった。
 それが今は、淡くではあるがあたたかい気持ちにさせられる。
 自身の心境の変化に、慈乃はまるで他人事のように不思議なものだと思った。
 こちらの世界に来てからまだ一週間とも経たないのに、本当にたくさんの人間らしい感情を思い出せるようになった。自らの身にこんな出来事が起こるなんて、いったい誰が予想できたろう。
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