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第六話 優しい昔話
第六話 一一
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そのようにして、食べたり飲んだりしていたが、皆は次第に満足したのか箸を止め、話に夢中になっていった。レヤとフィオ、ツクシは川まで行って、水切りをして遊んでいる。
「五回!」
「まだまだだね~」
「じゃあツクシ兄ちゃんは何回なんだよ」
「七回だよ~」
「そんなに変わんねえじゃん!」
「どれ、わたしも一年ぶりにやってみようか」
「ミトくん、真打みた~い」
「すっげー! 二〇回⁉」
「やべー!」
賑やかな声が届いてきて、聞いているだけで楽しい気持ちになってくる。慈乃が穏やかな眼差しで川の方を見ていると、ふいに袖を引かれた。
「シノ姉、おはなしして」
振り返るとウルフィニとその後ろにはホノが立っていた。
『おはなし』と耳にしたヨルメイ、アスキ、ライモも集まってくる。
予定外のことに絵本はなく慈乃は困っていたが、連夜カモミールの精に聞かせてもらっている思い出話から着想を得て提案した。
「絵本はありませんが、いいですか?」
「メリルはいいよ」
「ぼくも」
メリルとテオも話を聞く気満々で、すぐに頷く。他の子ども達も似たような反応だった。
いくつか候補が思い浮かんだが、先日悲しそうにしていたアスキ達の顔が脳裏を過って、『たびのさきに』に決めた。
慈乃は皆が腰を落ち着けるのを待ってから、語り始める。
「『たびのさきに』」
タイトルを聞いて、アスキやライモは何か言いたそうにしていたが、ヨルメイが「しーっ」と口に人差し指をあてた。
「『とおいほしの ちいさなくにの おはなしです。テルルとフレレという ふたりの しまいが いました。ふたりは なにをするにも いつもいっしょで とてもなかよしでした。テルルの ゆめは いつかいっしょに フレレと たびをすることでした。おおきくなって そのゆめは かないました。』」
慈乃の語りに皆は引き込まれるようにして、じっと耳を傾けていた。
「『さいしょに いったのは しぜんの ゆたかなくに でした。たべものが いっぱいで、ふっとたひと ばかりです。みちのはしには たくさんの たべのこしが すててありました。』」
母から何度も聞かされていたはずなのに記憶の底に閉じ込められていた物語。カモミールの精から思い出話を聞くうちに、はっきりと思い出した。母の口調を真似るように、慈乃は滔々と物語を紡ぐ。
「『つぎの くには たたかいを していました。ひとがひとを きずつけているのです。ふたりは みちばたで くるしそうにしているひとに おみずを わけてあげました。しかし やけどだらけの そのひとは まもなく しんでしまいました。』」
子ども達の神妙な空気に、気になったウタセとスギナが近づいてくる。慈乃は集中していたので、それには気づかなかった。
「『みっつめのくには まずしいところでした。ちいさなこどもが たべものを くださいと あたまを さげています。しかし、みんな しらないふりを していきます。どのひとにも よゆうが ないのです。ふたりが たべものを さしだすと、そのこは たべものだけをもって はしって にげてしまいました。』」
口にしてみると、慈乃の中の思い出が鮮やかに蘇ってきた。
小さい頃の自分は、ここまで聞くとよく泣いていた。その度に、母は涙を拭ってくれたものだ。
『泣かないで、慈乃。お母さんが魔法を使って、テルルとフレレを幸せにしてあげるからね』
優しい母の声を傍に聴いた気がした。
「『よっつめのくには さばくの くにでした。すないがい なにもない さびしいくに でした。フレレは げんじつを しりました。そして ふかく なげきました。「こんなせかいで いきていくことは できないよ」』」
この後に続くはずの話はこう。
『フレレは かなしみのあまり ほしになって きえてしまいました。テルルは フレレが きえてしまったのを ふかく かなしみました。フレレが きえてしまったのは じぶんのせいだとおもいました。そして ひとり のこされることにも たえられなかったのです。テルルは とうとう フレレのあとを おうように いってしまいました。 おしまい』
だけれど、慈乃も魔法をかける。
「『テルルは いいました。「こんなせかいだから いきてみようよ」』」
物語を綴りながら、頭の片隅で考える。母はテルルとフレレを幸せにしてあげると言っていたけれど、本当は慈乃のことを泣かせたくない一心で、幸せにと願ったのは慈乃そのものだったのかもしれない。
カモミールの精から聞く母の像はいつだって慈乃を想っているものだった。
自分は独りきりだなんて思い込んでいた時期もあったが、とんだ思い違いだったと今ならわかる。
自分はこんなにも愛されていたのだから。そのことを忘れずに、過去から目を背けずにいればよかっただけなのだ。
途端に、まだカモミールの精から教えてもらっていない過去や思い出が胸に溢れた。
身体の弱くなった自分に似ないようにと、春の七草粥を作ってくれていたこと。
天気のいい日には手を繋いで散歩に出かけたこと。
花冠の作り方を教えてもらって、下手なりに一生懸命作ったそれを嬉しそうに受け取ってくれたこと。
花見のときは慈乃の好物ばかりを詰め込んだお弁当を用意してくれたこと。
「五回!」
「まだまだだね~」
「じゃあツクシ兄ちゃんは何回なんだよ」
「七回だよ~」
「そんなに変わんねえじゃん!」
「どれ、わたしも一年ぶりにやってみようか」
「ミトくん、真打みた~い」
「すっげー! 二〇回⁉」
「やべー!」
賑やかな声が届いてきて、聞いているだけで楽しい気持ちになってくる。慈乃が穏やかな眼差しで川の方を見ていると、ふいに袖を引かれた。
「シノ姉、おはなしして」
振り返るとウルフィニとその後ろにはホノが立っていた。
『おはなし』と耳にしたヨルメイ、アスキ、ライモも集まってくる。
予定外のことに絵本はなく慈乃は困っていたが、連夜カモミールの精に聞かせてもらっている思い出話から着想を得て提案した。
「絵本はありませんが、いいですか?」
「メリルはいいよ」
「ぼくも」
メリルとテオも話を聞く気満々で、すぐに頷く。他の子ども達も似たような反応だった。
いくつか候補が思い浮かんだが、先日悲しそうにしていたアスキ達の顔が脳裏を過って、『たびのさきに』に決めた。
慈乃は皆が腰を落ち着けるのを待ってから、語り始める。
「『たびのさきに』」
タイトルを聞いて、アスキやライモは何か言いたそうにしていたが、ヨルメイが「しーっ」と口に人差し指をあてた。
「『とおいほしの ちいさなくにの おはなしです。テルルとフレレという ふたりの しまいが いました。ふたりは なにをするにも いつもいっしょで とてもなかよしでした。テルルの ゆめは いつかいっしょに フレレと たびをすることでした。おおきくなって そのゆめは かないました。』」
慈乃の語りに皆は引き込まれるようにして、じっと耳を傾けていた。
「『さいしょに いったのは しぜんの ゆたかなくに でした。たべものが いっぱいで、ふっとたひと ばかりです。みちのはしには たくさんの たべのこしが すててありました。』」
母から何度も聞かされていたはずなのに記憶の底に閉じ込められていた物語。カモミールの精から思い出話を聞くうちに、はっきりと思い出した。母の口調を真似るように、慈乃は滔々と物語を紡ぐ。
「『つぎの くには たたかいを していました。ひとがひとを きずつけているのです。ふたりは みちばたで くるしそうにしているひとに おみずを わけてあげました。しかし やけどだらけの そのひとは まもなく しんでしまいました。』」
子ども達の神妙な空気に、気になったウタセとスギナが近づいてくる。慈乃は集中していたので、それには気づかなかった。
「『みっつめのくには まずしいところでした。ちいさなこどもが たべものを くださいと あたまを さげています。しかし、みんな しらないふりを していきます。どのひとにも よゆうが ないのです。ふたりが たべものを さしだすと、そのこは たべものだけをもって はしって にげてしまいました。』」
口にしてみると、慈乃の中の思い出が鮮やかに蘇ってきた。
小さい頃の自分は、ここまで聞くとよく泣いていた。その度に、母は涙を拭ってくれたものだ。
『泣かないで、慈乃。お母さんが魔法を使って、テルルとフレレを幸せにしてあげるからね』
優しい母の声を傍に聴いた気がした。
「『よっつめのくには さばくの くにでした。すないがい なにもない さびしいくに でした。フレレは げんじつを しりました。そして ふかく なげきました。「こんなせかいで いきていくことは できないよ」』」
この後に続くはずの話はこう。
『フレレは かなしみのあまり ほしになって きえてしまいました。テルルは フレレが きえてしまったのを ふかく かなしみました。フレレが きえてしまったのは じぶんのせいだとおもいました。そして ひとり のこされることにも たえられなかったのです。テルルは とうとう フレレのあとを おうように いってしまいました。 おしまい』
だけれど、慈乃も魔法をかける。
「『テルルは いいました。「こんなせかいだから いきてみようよ」』」
物語を綴りながら、頭の片隅で考える。母はテルルとフレレを幸せにしてあげると言っていたけれど、本当は慈乃のことを泣かせたくない一心で、幸せにと願ったのは慈乃そのものだったのかもしれない。
カモミールの精から聞く母の像はいつだって慈乃を想っているものだった。
自分は独りきりだなんて思い込んでいた時期もあったが、とんだ思い違いだったと今ならわかる。
自分はこんなにも愛されていたのだから。そのことを忘れずに、過去から目を背けずにいればよかっただけなのだ。
途端に、まだカモミールの精から教えてもらっていない過去や思い出が胸に溢れた。
身体の弱くなった自分に似ないようにと、春の七草粥を作ってくれていたこと。
天気のいい日には手を繋いで散歩に出かけたこと。
花冠の作り方を教えてもらって、下手なりに一生懸命作ったそれを嬉しそうに受け取ってくれたこと。
花見のときは慈乃の好物ばかりを詰め込んだお弁当を用意してくれたこと。
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