カモミールの福音 ~花と〈家族〉に癒される優しい世界の物語~

南 鈴紀

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第八話 遠足はブーゲンビリアに彩られて

第八話 一

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 運動会以降、雨の降る日が多い。慈乃は食堂の窓から、今も雨を降らせ続ける雨雲を見上げていた。
「てるてるぼうずてるぼうず~」
「あ~したてんきにしておくれ」
 馴染みのある小歌がきこえてそちらを振り返ると、ホノとメリルがてるてる坊主を作っているところだった。丸めた雑紙にはぎれをかぶせて、首をリボンで縛ろうとしている。
 ホノは一度でリボンを結べたが、メリルは苦戦していた。
「うまくできないよ……」
 しゅんとしたメリルに代わって、ホノがリボンをきれいに結ぶ。メリルはぱっと笑顔になった。
「ありがとう、ホノお姉ちゃん」
「どういたしまして。そしたら、顔を描こう」
「うん」
 ホノはウインクしているてるてる坊主を、メリルは満面の笑みを浮かべるてるてる坊主を完成させると、ちょうど窓辺にいた慈乃にそれらを渡した。
「シノ姉、ここに飾ってほしいの」
「おねがいします」
「カーテンレールに吊るせばいいですか?」
 受け取ったてるてる坊主を隣り合うようにして吊るす。ホノもメリルも満足そうに頷いた。
「ばっちり! ありがとう、シノ姉」
「ありがとう!」
 ふたりの笑顔を見て、なおさら願いが届くといいと慈乃は思った。
「いいえ。明日の遠足、晴れるといいですね」
 学び家では毎年この時期に遠足行事があるらしく、今年も例にもれず実施を予定していた。
 しかし、前日である今日まで天気が心配されているのだ。
 慈乃達から少し離れたところで戦隊ごっこをしていたツクシが、床からのそっと起き上がる。どうやら敵役で、レヤレッドとフィオブルーにやられた後のようだった。
「雨天中止だもんね~。てるてる坊主様、どうか晴れにしてくださ~い」
 慈乃も祈るように再び空を見上げた。

 そんな願いが叶ったかのように、遠足当日は久しぶりの青空が広がっていた。
「それで、今年はどこ行くの?」
「フロリアさんのところと六番地観光だそうです」
 トゥナとソラルが話し合っているところに、僅かに前を歩いていたアヅとガザが振り向いた。
「今あそこ真夏じゃん!」
「でも、こっちでは見られない海とかあるぜ。俺は大歓迎」
 ガザはわくわくした表情を隠すことなく言った。
「そりゃあ、ガザ兄はガザニアの花守だし暑さには強いんだろうけど」
「俺は六番地の暑さは苦手です。海がある分、蒸し暑くって敵いません」
 トゥナとソラルは顔を見合わせると、そろってため息を吐いた。
「え、海なんてあったんですか」
 話が流れてきたのでなんとはなしに聞いていた慈乃だったが、『海』というワードに思わず声をあげた。
 ガザが意外そうに眉を開く。
「まさか知らなかったのか?」
「魚がいないので、てっきり海もないのかと……」
「サカナ?」
「いえ、こちらの話です……」
 慈乃がもごもごと答えると、ソラルは呆れたように肩をすくめた。
「だったら普段俺らが食べているわかめやのりはいったいどこからやってきたっていうんです?」
「た、確かに……」
 ソラルは最近では、慈乃にも容赦ない物言いをするようになった。
 もっともソラルは親しいひとほど遠慮なくズバズバものをいう質なので、慈乃としては喜ばしい変化だと思っている。
「六番地っていったら街並みもきれいよね。三番地とは違ってリゾート地って感じがするわ」
 最近の変化と言えばもうひとつ。クルルと話す機会が少しだけ増えたことだ。当初のような張り詰めた雰囲気はいくらか和らぎ、こうして誰かを交えてなら慈乃とも話してくれるようになった。
「そうですか? 白い外壁なんて太陽光を反射して目に痛いだけでは?」
「ほんっとひねくれてるわよね、ソラルって」
 クルルは鼻で笑う。ソラルも不敵な笑みを浮かべて言い返した。
「クルルさんだって素直じゃないくせによく言いますよ。シノさんともようやく話すようになって、そのくせ謝りもしないんだから」
「生意気ね! ほっといてよ」
 気が強いふたりはあまり相性が良くないが、決まってトゥナが間を取り持つのが恒例となっていた。
「クルルちゃんもソラくんもやめようって。巻き込まれたシノ姉がかわいそうだから」
「ふん」
 息ぴったりにクルルとソラルはそっぽを向く。そんな彼らをガザが冷やかしていた。
 慈乃は慈乃で、あることがひっかかっていた。
(私、クルルちゃんに謝られるようなこと、何もないと思うのだけれど……)
 何度考えてみても、思い当たる出来事などない。そもそも、まともなかかわりを持つようになったのもここ十数日のことだ。
 気にはなったものの今聞いても教えてくれないような気がしたので、尋ねることはしなかった。
(そのうち、教えてくれるようになったら、嬉しいわ)
 今後の楽しみとして、今はまだ慈乃の胸の内に仕舞っておくことにした。
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